55-2 捕縛
「やあ、こんにちは」
俺は後ろから連中に声をかけてみた。
こういう事は本人達に直接訊いてみるのが早い。
だが連中は飛び上がって、こちらを向き詰問する。
「貴様、何者だ」
「なんだ、その格好は」
「おのれ、見られたからには!」
連中は武器を向けて襲ってきたんだが、その、なんていうかさ。
この俺に『見られた』んだぜ?
次の瞬間に奴らは素っ裸で突撃を敢行していた。
目視収納で奴らの装備は全て俺のアイテムボックスの中だ。
うわあ、よしておけばよかったぜ。
「目が、目がああ~」
目が腐る~。
帝国の作戦でも懲りたというのに、またやってしまった。
兵隊どもは驚愕し、慌てふためいたがもう遅い。
ほどなく迷彩服を着た俺のゴーレム隊に、全員が取り押さえられていた。
女性自衛官の格好をしているが、全員ハイパワーの戦闘用ゴーレムなのだ。
地球の格闘技のビデオなどを見せて鍛錬を積ませているので、パワー抜きでも、この世界の普通の人間が素手でやりあって勝てるような相手ではない。
一人が寝ずに行なった鍛錬はゴーレム全員が共有できる。
しかも、その上寝なくてもいいのだし。
寝るのは単に趣味という連中なのだ。
全員が違う武道に取り組めば、あっという間に全員がその全ての達人になる。
生まれた時から最強の存在だし。
初期型の頃からずっと鍛錬を続けている強者もいる。
しかも、全員にあの「魔道鎧」を付与してある。
俺とは違い、魔力コンバーター搭載とはいえ一度に収集できる魔力には限りがあるので通常は使わないが、必要ならドラゴンと素手でやりあっても単独で勝てるのだ。
必要ならベスマギルバッテリーを与えておけば問題ない。
彼らには俺の経験をそのままインストールしてある。
魔道鎧も今俺が持っている進化したバージョンで、無論そのコントロールも完璧なのだ。
その上、体の見た目や質感は人間と全く変わらない。
顔の造作や身長や体形なども、かなり融通を利かせられる。
必要であればコア以外の部分の、ボディ全パーツの換装すらも可能なのだ。
ゴーレムも改良が進んで、ついにここまでに仕上げたのだ。
さすがに優秀なシーフには感づかれてしまうが、冒険者ならば俺の作品なんだと気付いてスルーしてくれる。
これがボケた奴だと、うっかりと強引に口説いてしまって、腕を捩り上げられる羽目になるのだ。
どうやらセクハラは受け付けない仕様のようだ。
特にそんな風に設計していないのだがな。
外観は細部まで人間そっくりに作ってはあるのだが、別にセクサロイドとして作ったつもりはないのでそれでいい。
ほどなく連中全員が裸のままドラム缶にコンクリ詰めされて、ぐうの音も出ない。
コンクリートを魔法で一瞬にして芯まで乾かしたので、もうどうにもならない。
まあ出してやる時には、アイテムボックスでドラム缶とコンクリだけを収納してしまえばいいだけだ。
「いきなり、そういう妙な真似をするから、そんな目に遭う。
それで、お前らそこで何をやっていたんだ?」
答えない。
ドラム缶から頭だけを出した連中は、ふてぶてしい顔でだんまりを続けている。
おー、これはまた強気な態度だ。
さてはこいつらって、特殊部隊相当の精鋭部隊なのだな。
どうしようかな!
とりあえずはドラム缶を土に植えて、人間花壇を完成させた。
何、ゴーレム達がアイテムボックスを使ってドラム缶サイズピッタリに穴を作り、そこに片手で持ち上げたドラム缶をそのままドスンとぶちこんだだけだ。
かなり力押しなのだが、まあ井上式トイレの作り方だな。
この世界へやってきた数日は、これの御世話になったもんだ。
今は自作のマジックシャワートイレがあるので何も困らない。
船橋式魔法のトイレの方が高性能なのだが、慣れた洗浄式トイレはやはり捨てがたい。
全員、地面から頭を生やして憮然とした表情をしていたが、依然として黙りこくっている。
「じゃあ、ゴーレムども。
そいつらが喋るまで水も食い物も与えなくていいから。
俺はもう帰るので、後は宜しくな」
主君の命令に対して、ゴーレム全員がピシっと見事な敬礼をしてみせた。
「ま、待てっ。
捕虜にした相手を虐待してはならないのが、この世界のルールだぞ。
知っての上での狼藉か」
ええっ!
この殺伐とした世界に、そんな地球みたいに御上品な法則があったなんて、今初めて知ったのだが。
「いや知らないな。
っていうか、俺はこの世界の人間じゃないから関係ないし」
まさに無法者だ。
そういやベルンシュタイン帝国の兵士五十万人をかなり虐待したよな。
あの後、俺がニールセンにやられちまったから、しばらくそのままになっていたし。
あの時の兵士ども、今でも俺の顔を見ると青くなって逃げ出していく。
本当に失礼な連中だ。
こっちは愛想よく、にたーっと笑ってやっているというのに。
「貴様、さては魔王か!」
「アルバトロスの魔王が攻めてきたのか」
「ええい、ここから出せ。尋常に勝負しろ」
「よし、そこまで言うのなら勝負してやろうじゃないか!」
俺は勝負を申し込んできた兵隊の前に寝そべり、こう言ってやった。
「じゃんけんぽん、あっち向いてホイ」
敵は身動きすら出来ないので、俺は見事な不戦勝を飾った。
立ち上がり見事なガッツポーズを決めた俺を見て、奴は何故か身悶えして泣いて悔しがっている。
知らない遊びなのでルールはわからなくても、小馬鹿にされた事くらいは理解出来るものらしい。
まあ普通はわかるわな。
「じゃあ、俺はもう行くから」
「待て、行かせてなるか。
この作戦の事を知られてなるものか」
い、いや、もう知っちゃったけどさ。
それで、どうすんの?
「とにかくここから出せ」
はあ、まったく話にならないな。
とりあえず、俺はある者を出した。
いや、出せっていうからさ。
それは……。
「おーうっす。ごっつぁんです」
ズシンと地響きを立てて現れたのは、全長五十メートルの『大』横綱だった。
なんていうか、只のサイズが大きい横綱だ。
日本の大横綱とはちょっと意味が違う。
立派な化粧廻しには可愛いプリティドッグが描かれていた。
ヒナダムの大相撲シリーズに使っていたデザインを流用して作った、大型のゴーレムなのだ。
他の大型ゴーレムと比べると、材料を半端でなく食っている。
太い眉に、爛々とした闘志を秘めた瞳。
そして濃すぎる顔。
何か怖い。
作った本人が、これはアカンと思って封印しておいた代物なのだしな。
いきなり凄まじい蹴たぐりで、辺りの木々を根元から薙ぎ倒してスペースを作ると、体を横に傾けながら片足をぐいーっと天空へ持ち上げた。
伸びきった体躯の、その美しさ。
生まれた時から股割りは済んでいるし。
そして、それを凄まじい勢いで大地に叩きつけた。
その地響きは既に地震兵器といってもいいレベルだ。
男達を収めたドラム缶が、穴の中から一メートル以上も浮き上がり、半ば抜け飛んでしまいそうな勢いだった。
「どおすこーい!」
横綱の怒声が更に大気を奮わせる。
周辺の空気にも、だいぶ気合が入ったのではないだろうか。
辺りに何か張り詰めたような奇妙な感覚がある。
更に反対側の足が振り上がる。
それが、もう一発大地に突撃をかけた。
俺やゴーレム兵士達も、衝撃が来る度に地面から体が浮き上がってしまうのだが、それはそれで楽しんでおいた。
更に無言になってしまったこいつらに向かって、無慈悲に宣告する。
「じゃあ俺はもう行くので、その気になったら喋ってくれ。
特にお前らの話に価値があるとは思えんが。
もし逃げたら、あの横綱に踏んでもらうからそのつもりでいてくれよ」




