55-3 13か国お家事情
大方あの連中は、本隊が攻める時に敵の後ろを突くルートでも探索していたんだろう。
俺は、とりあえずマリノの冒険者ギルドへと転移した。
俺が転移魔法持ちなのは知れ渡っているため、そう文句を言われる事はない。
「おい、あんた確かアルバトロスの魔王さんだよな。
なんだい、その格好は」
中へ入るなり、酒場にいた冒険者の一人が声をかけてくる。
この前の時に顔を覚えてくれていたようだ。
どうやら見慣れない作務衣が気になるらしい。
「むう、この格好はだめかい?
これはロス大陸じゃ貴族にも結構人気があるんで、こっちでも流行らせようと思っているんだが。
エルフ作品だから品質は保証付きだぞ」
「へえ、そうなのか。
そういや随分と情勢がきな臭いようだが、あんたはこの国とも戦争するのかい?」
「あのなあ、御得意先をぶっ潰してどうするというんだ。
俺は商人なんだぜ。
冒険者なんて身分証が欲しかったからなっただけで」
「そうだったのか?
世界を震え上がらせた魔王が本職なんだと思っていたが」
そう言って笑っているのは、横から口を挟んできたAランク冒険者のジョニーだ。
こいつ、また居たよ。
いつ仕事をしているんだか。
まあAランクは稼げるから、そうガツガツとはしていないのか。
このゆったりとした南国じゃ、こんなものだろうしな。
Aランクはこの大陸には殆どいない。
理由は今のような冒険者ギルドを作ったのが船橋武という男で、冒険者カードを作ったのも奴だからだ。
冒険者カードの作成装置なども、この大陸に輸出されているのだが、完全にアーティファクトと化している。
壊れた時が大変だが、頑丈な船橋武作の製品である上に多少の事は自動修復するので、装置を無くさない限りはまず大丈夫らしい。
壊れない事が前提で作られたメイドインジャパンである事を基本設計に持ち、かつトンデモ魔導製品なので、まだ国外から修理に持ち込まれた事が一度も無いとの事だ。
真理と違ってメンテナンスマニュアルや補修部品が大量に残されているので、修理関係も大丈夫のようだけど。
しかもアルバ冒険者ギルドに在庫として在った部品なんかは、俺が複製して増やしておいたし、俺も大量に保有している。
出来れば真理の整備マニュアルも残しておいてほしかったぜ。
あまりにも構造が精密すぎて、手に負えなかったのかもしれないが。
あいつは相当忙しかったらしいしなあ。
Aランク試験会場もロス大陸の国だけで回り持ちなのでメルス大陸でAランク試験はやられない。
わざわざ海を越えてロス大陸にやってきて受験するのだ。
試験に受かるか諦めるかするまで長くいるから、大概はそのままロス大陸に居ついてしまう。
こっちは仕事も多い大国ばっかりなのだし。
他の大陸にも冒険者カードを作成する機械は輸出されたが、そっち方面とは殆ど行き来が無いので、向こうの連中は上級冒険者試験にも滅多に参加してこない。
Aランクは殆どロス大陸の住人だ。
残りのAランクも、この比較的行き来が容易なメルス大陸までだろう。
地理的な要因でAランク以上に上がれない隠れた実力者は世界中のあちこちにいそうなのだが。
Sランクに至っては、カード製作に使用する特殊な錬金素材が魔導王国たるアルバトロス王国にしか存在しない。
「いや、どうせ十三か国軍が攻めてくるなら、ここからだろうからな。
ちらと様子を見に来ただけだよ。
俺は小学校の校長先生も兼ねる学園長先生になったからな。
これでも結構忙しいんだ。
もう、そろそろ夏休みの企画を立てないといけない。
夏休みの宿題も考えないとなあ」
ありきたりの宿題はネットの掲示板で作成を頼んであるのだが、やはりこの世界ならではの奴をやらないとな。
さすがに昆虫採集の代わりに魔物採集とかは辛いし、そんな事を勝手にやられても困る。
とりあえず工作や裁縫なんかも含めた自由課題にしておくか。
「へえ、あんまりやる気が無いんだな」
ウイスキー片手に、のんびりした感じで話すジョニー。
「やる気も何も、別に俺が始めたわけじゃないんだぞ。
俺にとっては完全に余計な仕事だからな。
それで、どうなんだ。
ここの連中はやる気満々なのか?」
「さあ、どうなんだろうなあ。だいぶ兵隊もガタガタしているようだが、マリノ王国は多分やる気が薄いんじゃねえの?
地理的にここがスタートにはなるんで仕方無しに参戦って事じゃないのか?
うちの国はパルシアやロス大陸ともかなり取引があるからな。
本当は戦争なんかするのは嫌なんじゃないの?」
ああ、国ごとに事情があるんだな。
小国だから連合を組まざるを得ないから、こういう要請にも従うが、それぞれ事情があると。
「一番やりたがっているのは、どの辺?」
「エルガイアやペリーオあたりの、大渓谷、龍のねぐらの向こう側にある東部内陸国じゃないか?
こういう時でもないと上に進出なんて難しいからな。
内陸国では海にも出られんし。
あまり友好的でない国にも囲まれている感じだし、この状況を打開するチャンスだと思っているんだろう。
まあ奴らと地続きのペロニアが海に面した友好国だが、それもペロニア両側にある同じく海に面したホープとパゴニアが海の権益絡みで五月蝿いから難しい。
特にペリーオは国力に勝る海の大国パゴニアと国境を接して圧迫されている」
うーん、いきなりそんなに色々聞かされてもさっぱりわからんな。
するってえと、あまり仲良くないからこそ、連合を組んで牽制しあっているという感じなのか?
俺はコピーしたメルス大陸の地図を引っ張り出して、奴の話をメモとして書き込んでいく。
一応隠蔽したカメラポッドでも記録してある。
「それで、ゲルスと最初に組んだのはそいつらなのかい?」
「いや、こんな話になったから大渓谷の向こうにある東側内陸国連中も色気を出しているが、最初にゲルスと手を組んだのはボルトンとマウテニアなんかの強気な西部内陸国だ。
こいつらは大渓谷のこちら側、比較的パルシアに距離が近い内陸国で、虎視眈々とパルシア進出を狙っていた。
それに、南端のホープと北のマリノに挟まれている立場の弱い、この大陸において一番小国であるバーグが乗った形だ。
東側内陸国の二か国と合わせて、これで五票だ。
仲のいい兄弟国の東部内陸国ペリーオに与する形で海運国ペロニアが六票目を投じた。
あそこは血縁関係にある昔からの同盟国だからな。
ペロニア自身も左右をホープとパゴニアという海運強国二つに挟まれているから味方は欲しい。
そしてロス大陸側にある南の角地を占める、海の大国ホープ。
この話では色々と有利に立ち回れるポジションのホープが、思惑絡みに最後の一票を投じて、六対七で十三か国連合はゲルスと組んだ。
微妙な票数だろう?
マリノは一番最後まで強硬に反対していた。
その他の奴らも特に積極的ではないな。
どちらかといえば中立よりは反対寄りだろう。
その東海岸方面の奴らは纏まっていて独自の同盟を組んでいる。
ケモミミハイムは手強いし、また国もでかい。
住人も力の強い獣人ばかりだ。
マウテニアも国境を接しているとはいえ、国境は険しい山岳地帯だから直接ケモミミハイムとはやりあえん。
同じ状況のボルトンも、あれこれと行き詰っているから打開の道を探っていた。
ま、そんなところだ」
それぞれ、お国事情が厳しいのか。
温度差も相当激しいと。
「このマリノ王国って、アルバトロス王国の味方にはなってくれないかな」
ジョニーはウイスキーを一口啜ると、考え込むようにしながら答えてくれる。
「そいつは表だっては難しいだろうな。
うちの王国も、そう出来たら美味しいとか思うのかもしれないが、そんな事をしたら大陸を横断するように上に広がるケモミミハイムに封印される形で小国群の中で孤立しちまう。
そんなヤバイ橋を単独では渡れないさ。
アルバトロスは海の遥か向こうだ」
だよなあ。
ああ、めんどくさい。
ゲートの魔法なら軍隊とて問題なく行き来できるのだが、それはそれでまた問題になっちまうから使えんな。
「マリノは軍を出さない。
他国の軍勢が国内を通過する許可を出し、そして後方支援に徹する。
そういう条件で手を打ったのさ。
案外、お前が出てくる事を想定しての策じゃないか?
そうすれば周辺の小煩い連中の力を削いで、しかも兵站の供給で金も入る。
自国は軍を出さないので、パルシアやロス大陸の国々との関係も壊れない。
むしろ他のメルス国家との比較で、向こうからの扱いが良くなるかもな」
ああ、この国も狸なんだなあ。
そういう皮算用をしているのか。
その信頼には応えよう。
「来るとしたら、やっぱり陸で海沿いかな?」
ジョニーは軽く頷いて肯定する。
「とにかく海はヤバ過ぎる。
十三か国としては、マリノ国内から出発してケモミミハイムの海側を侵攻作戦における橋頭保として確保の上、軍事力に乏しいパルシア王国を占領したい。
最悪は港周辺だけを占領して恒久支配を目指す。
その方が手間も最小限で美味しいのかもな。
出来ればロス大陸方面の戦争は主にゲルスに任せて、ロス大陸との交易をゲルス中心の連合国家と山分けしたいっていうところか。
まあ、そうするには十三か国連合がロス大陸まで兵を出さないと実現しないわけだが」
兵を出しても実現はしないと思うがな。
既に強力な手を打ってあるんだ。
「海なんて大した事なかったぞ?」
「SSSランクの冒険者に言われても、まったく説得力がない。
お前、この前一人で超大型クラーケンを狩ってきただろう。
普通そんな事は出来ないんだが」
じゃあ、とりあえず罠でも仕掛けて帰るとするか。
「はっはっは。
ドワーフの国王なら易々と同じ事をやってのけるだろうよ。
いや、ありがとう。
色々と参考になったわ。
じゃ、もう帰るんで」
「そうか」
「あ、ジョニー。ちょっと聞いていいか?」
「ん? なんだ」
「お前は、かつて存在したアル・グランド王国の事をどう思っているんだ?」
少しばかり滞留した沈黙を押し破り、かつてアルグランドに生きた幼い少年だった三十路の男は答えた。
「そんな国など今はもう無い。
それは、あの日に帰れるものなら……」
失った故郷、二度と帰らぬ幼き幸せの日々。
炎の中に消えた愛する者達。
しかし、今はこの国に生きている。
彼も、その胸中にある想いは複雑なのだろう。
だが、その言葉はしかとこの魔王の胸に留めたぜ。




