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55-1 13か国軍始動

 朝の行事として門前の掃除をしていると、ミハエルから突然電話がかかってきた。


「今、時間はあるか?」


「よお、この前は中々いい映像(え)が撮れたぜ。

 今度、一緒に鑑賞会する?」


「アホかあ~。

 消せ! 全て抹消しろ。

 と、そんな事言っている場合じゃあない。

 ケモミミハイムに向かって、十三か国軍が動き出したという情報が入った。

 お前の御大事のケモミミ赤ちゃんがピンチだぞ」


 こいつめ、俺のツボをよく押さえていやがるな。


「そうか、ついにか。

 どうすっかな~」


「なに、遠慮はいらんからやってしまえ。

 どうせ他所の大陸の話だ。

 うちは一切関知せん」


 ははは、俺はこの国の正式な貴族王族なんかじゃない、ただのフリーの『園長先生』なんだからなあ。

 俺が他国で何をしていようが、アルバトロス王国の知った事じゃない。

 王女の婚約者だからって、俺はまだ結婚して正規の王族になった訳じゃあないのだし。


 まるで空中庭園崩壊時のバランみたいな立ち位置だな。

 あいつは正式な帝国貴族だったから、あれでセーフなら俺は余裕でクリヤだ。


「へえ、ぶっちゃけたな。

 いいのか?」


「奴らを調子づかせるとゲルスが図に乗る。

 とはいえ、あまりやりすぎても、また後の始末がな。

 お前も商売に差し障りがあるだろう。

 まあ、ほどほどでいい。

 その辺の匙加減は全部そっちに任せたからな」


 やれやれ、どうしたものかな。

 どうせ他所の大陸の連中なのだ。

 こっちの大陸へは、そう簡単には攻めてこられないだろうから、まあどうという事はない。

 今回はロス大陸で強面なゲルスと同盟したから特別なのだ。


 連中がロス大陸へ進出する際は、まずケモミミハイムとやりあって街道を確保してから、パルシアの港を抑えないといかんのだ。

 別にケモミミハイムを占領する必要はない。

 街道及びその周辺地域を実効支配すればよいだけの話だ。


 仮にあの二国をパスして強引にこっちへ渡って来たところで、連中の味方はロス大陸の反対側にしかいない。

 ゲルスが動くタイミングでなければ、どうしようもないだろう。


 しかも真っ先に相手をしなくちゃならんのが、海の猛者であるハイド王国だしな。

 海の上で彼らに勝とうなんて大甘もいいところだ。

 その向こうは、この俺がいるアルバトロス王国だ。


 そもそも、アルバトロスは稀人が建国した古の王国だ。

 どんなビックリ箱の中身が飛び出してくるものやら知れたものではない。

 それでも俺さえいなければ、数を頼みにまだいい勝負になるのだろうが。


 俺なんか、インターネットや二十一世紀のリアルな軍事情報から幾らでもネタを引っ張ってこれちゃうのだしなあ。

 この世界の魔法だのなんだのは、それを容易にチートへ格上げしちまうのだし。


 向こうが大陸進出を賭けて一気に俺達と全面戦争をやる訳ではないのだ。

 地政学的に、その前に決着が着いてしまう案件なのは、もう決定済みなのだから。

 ハイドに橋頭保を築く事さえ不可能だろう。


 問題はミハエルが言った通り、戦の匙加減と今後に禍根を残さない事。

 それに尽きる。


 また、相手をしなくてはならない国の数が多いから本当に面倒なのだ。

 それぞれに事情があると思うので、連合を崩すとしても一苦労だろう。

 外交とかそういうのは苦手だし、今回は外交で力を発揮してくれるはずのミハエルがノータッチ宣言していやがるからなあ。


 数は力とはよくぞ言ったものだ。

 その辺に関しての情報の少なさと相手の出方みたいな物が、ロス大陸の人間から見て今一つわからんし、この俺なんか元々ロス大陸の住人ですらないんだからな。


 ケモミミハイムだって、そうそう簡単にやられたりはすまい。

 獣人は魔法を使えない以外ではかなり手強いのだから。

 そうでなければ、とっくの昔にケリがついてしまっていただろう。

 とりあえず、ここは放っておいてもいいくらいなんだが、まあそうもいかない。

 なんにしろ全てはゲルス共和国の出方次第なので、やれる事はやっておかないとなあ。


 ひとまず現地の様子を見に行くとするか。

 俺は作務衣のままメルス大陸へ転移した。

 ここは国境の町、行くのは当然前に行った乳児院だ。


「ちわ~」


 声をかけながら玄関スペースへと入っていくと、いつもの美人ウサミミ職員のメリッサさんが声をかけてくれた。


「あら。

 こんにちは、公爵様。

 って、今日は変わった御召し物ですね」

 

「ああ、気にせんでください。

 うちにいる時は結構この格好なもんで」


 ここは、もはや我が家も同然。

 彼女は俺のそんな宣言に苦笑するも、俺は頻繁に訪問してくれる大口寄付者なので笑顔で迎えてくれる。


 今日は色々と小さい子向けの遊び道具とかを持ってきたのだ。

 音の出る奴が好評なのではないかと考えて、「ガラガラ」「関節の動く喋る御人形」「御腹を押すと鳴き声を出すぬいぐるみ」「履いて歩くと音の出るサンダル」「オルゴールメリー」などなどを持参してきたのだ。


 赤ちゃんが絶対に飲み込んだり出来ない、大きめサイズの積み木などもある。 

 あと、ジャングルジムやブランコに滑り台なんかが付いた赤ちゃん用総合遊具に、知育玩具のついた組み立て式のカラフルなトイパーク。


 これらは貴族や商会などの家では大人気だ。

 出産祝いなどにもよく出されている。

 もう製造はエルフやドワーフに全て委託してあり、何か物凄い逸品が作られている。


 これらの製品はアルフォンス商会でも人気商品で、この大陸にも輸出されつつある。

 先行納入分は、ついでの時に俺が納品しておいた。


 本日持ってきたのはそういう本格的なもので、さっそくおチビさん達が取り付いて、もうすっかり夢中だ。


 ここは十三か国とは反対側にあるパルシア王国側にある国境付近なので、すぐに騒ぎになるわけではないから、まだ安心できるけど。


 可愛いケモミミ赤ちゃんを抱っこしながらガラガラで愛(あや)していると職員さんに訊かれた。


「もうすぐ戦争になるって本当ですか?」

「いや、ならないでしょう」


 俺は間髪入れずにあっさりと答えた。


「え、そうなんですか?

 でも、みんなが言っていますよ。

 小国連合がロス大陸へ進出するために、このケモミミハイムへ攻め込んでくるって」


「そうならないために、私が様子を見にきたのです」


 そう、吹き飛ばすだけなら、とっても簡単。

 俺がメルス大陸の南方面へヤバい物を一発ぶちこめば、それで何もかもが終わりなのだから。

 たとえば、元の設計は100メガトンだったけど諸事情により57メガトンにデチューンされた水爆みたいな超威力のある奴を数発とかな。

 その代償として、俺の平穏や生活と商売なども全て込みで終了してしまうがな~。


 そして称号欄に生涯消せぬ汚名を刻む破目になる。

 地球で大規模核戦争を始めた国があったとしたら、その国がどうなるか考えてみればわかる。

 あれは伊達にオウンゴール兵器などと呼ばれてはいないのだ。


 要は如何に角を立てないで片を付けるか。

 まさに、この一点に尽きる。


 地球でも、かつては我が祖国日本を大空襲で全国各地を焼き払って、数えきれないほど多くの無抵抗な民間人を無残に焼き殺したり、ベトナム近辺でそれはもう筆舌にし難い蛮行を繰り返した、あの残虐無比で強引な蛮族アメリカさえ、もう一頃みたいに馬鹿みたいな力押しはやっていない。

 というか、もう出来ない。

 国際的に許されない。


 十三か国軍はこのケモミミハイムへ絶対に入れない。

 まず、そこのところを出来るだけ穏便に線引きをする。

 そこが今回の勝利条件だと思っている。

 話が拗れていい事なんか何もない。


 要は「戦を始めさせなければいい」のだ。

 そこから源流対策をして適した対策を打てばいい。

 ここを押さえてしまえば、後は基本的にロス大陸南西部のゲルス帝国(俺はもうそう呼んでしまっている)周辺だけだ。


 それにしても、もうこの辺の一般の人の間にも戦争の噂が流れているのか。

 この国は獣人国なので、御隣のパルシアと仲は悪くはないのだが同盟してはいない。

 獣人の国と人族の国だから、それも無理もないのだが。


 ケモミミハイム自体も国は広いし、いろんな種族がいるので、国内もあまり纏まってはいないらしい。

 宰相のような国の重鎮は、多くの種族から人望の厚い狐族がやっているが、力の強い種族が我儘を言う事もあるようだ。


 国王は数の論理から代々猫族が務めているらしい。

 先に海から行ってパルシアをやるという話になるかもしれないが、その辺はもう手を打ってある。


 奴らはパルシアの港を通らずに大洋を越える事すらもおそらく無理だろう。

 それが困難なので、普段から餅は餅屋に任せてあるのだから。


 乳児院でケモミミ赤ちゃん達と存分に遊んでいたので、もう御昼になってしまった。

 アルフォンス商会で最近発売したベビーフードを食べさせてやると、これがまた結構な人気だ。

 ちょっと食が細そうなタイプの子も、もりもりと食べていた。


 一遍に食べ過ぎてゲロを吐いている子もいたが、すぐにまた食べはじめる。

 赤ちゃんの時から逞しいな、ケモミミ獣人。


 そういやレミも一歳の頃から、逞しく一人でストリートチルドレンとして生きていた。

 うちに来てからも結構な食いっぷりだったし。


 みんな御昼寝モードなので、しばらく可愛い寝顔を堪能していたが、楽し過ぎてキリが無いので定番の金貨十枚を寄付してから退出した。


 まずは、こうやって仕事のモチベーションを上げてからだ。

 可愛らしいケモチビ赤ちゃん達は充分に堪能したので、充実した気分でケモミミハイムの「エプロンの先っぽ」にある4コーナーへ飛んでみた。


 メルス大陸は御土産品のひよこ饅頭のような形をしているが、ケモミミハイムはそのひよこが涎掛けをしているような格好だ。

 エプロンの先っぽが三角形のようになっていて、そこの部分の国境は十字に切ったような形になっており、ケモミミハイムを含め四つの国が交わるポイントになっている。


 一辺は「龍のねぐら」と呼ばれる深い谷になっており、その巨大亀裂が地形のエプロン部分に沿って右上から左下へ向かって袈裟懸けするように走っている。

 そこはグランドキャニオンも真っ青な超大渓谷だ。

 あそこはそこまで半日あれば余裕で辿り着けるが、ここは徒歩で降りたら途中でキャンプしないと底には辿り着けまい。

 この世界では、そこで本当に竜が棲んでいても不思議はない。


 それが国ごと引き千切られんばかりにエプロンの先までぐいっと伸びているため、地形ですっぱりと区切られている。


 実質的に軍勢がこちら側へやってこられるのは、まず大陸西側にある海側のマリノと、このフォーコーナーの一角にありマリノ王国の東隣側にある西部内陸国であるマウテニアだ。

 マウテニアも国境は厳しい山岳地帯なので、大軍がそこを越えるのは厳しい。


 フォーコーナーの東側、マウテニアの反対側にあるピ-クネスやエプロンの先っぽの対角にあるエルガイアは龍のねぐらを渡らねばならず、ピ-クネスから見て右隣で東の海に面するアクリアは大河で隔てられているので渡河作戦をやるのは小国には大変だ。


 例によって大河には大型魔物が犇いているし。

 それならば、いっそ海へ出て後ろを突いた方がいい。

 それさえも、制圧する目的地であるパルミアの港から遠い場所というか大陸の真反対になってしまうので今回の作戦には向かない。

 西部の街道通行権の確保が精一杯だろうから、ケモミミハイム全体の制圧作戦を行うのは無理だろう。


 そういう地理的な要因から、ケモミミハイムと国境を接する国五か国のうち軍が陸地内で移動出来るのは実質的に西岸にあるマリノ王国内だけである。


 そのケモミミハイムに隣接する五か国の一つであるエルガイアは、4コーナーにて対角線にある点といっていいほどの部分しか接していないので、国境を接するのは実質的には四か国なのであるが。


 パルシア王国制圧を目指すなら、結局陸からも海からもマリノ王国から行くのが定石だ。


 今回は、アクリア側から海で別働隊を送るのが関の山だが、海は危険なのでそちらの線は消極的ではないかと思う。

 そもそもアクリア自体が、ケモミミハイムやロス大陸への侵攻に消極的だ。

 それに今回の作戦に乗り気なのが、十三か国の中でもアクリアと対立的な関係の国家なのだ。


 そういう訳で一番確実にやってきそうなのがマリノからの陸路というわけだ。

 作戦として特に捻りを入れる必要はそう無さそうだし。


 4コーナーで辺りを見回したが、やはり何も気配はない。

 軍勢も斥候も感知できない。

 あちこちに魔物が散見されるくらいだ。


 西海岸側のマリノへ出るついでに、マウテニアの山岳地帯の上を飛んでみたら、何かうろうろしている小隊のようなものを発見した。

 少人数の特殊部隊だけで、ここを越える作戦でも立てているのか?


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