53-4 裏ダンジョン
とりあえず王宮へ王女が行方不明になった旨の連絡を入れておき、俺はダンジョンへ潜る事にした。
ベル君にも連絡して、王宮での関係者への説明も頼んでおいた。
やれやれ。
まあ、あらかじめ打てるような手は打っておいたので、よっぽどの事はないはずだが。
これは厄介な事になったものだ。
俺は大量のゴーレムを放ち捜索隊を出した。
そして十分後、ダンジョンのどこにも彼らの姿は無いという報告を受けた。
こうなると結論は一つしかない。
彼らは裏ダンジョンへと消えたのだ。
どんな場所かはわからないが、そこへ消えたのは学生だけではない。
護衛の冒険者やゴーレムなんかも一緒にいた。
今すぐ彼らがどうかしたという事は無いはずだ。
出来たら、消えた人間が向こうで一塊になっていてくれたらいいのだが。
俺はすぐ真理に連絡を取り、あちらへの行き方を訊いてみた。
俺の探索や感知では、見つけられなかったのだ。
魔力の僅かな揺らぎにも敏感な真理ならば、あるいは。
「そうね。
ちょっと難しいかも。
あそこは行こうと思っていける場所じゃないのよ。
なんていうのかな、僅かな痕跡を探すっていうか。
今なら先に開いた入り口の跡を辿れるかも。
今からすぐに行くわ。
時間が経つと探すのが困難になるから。
あと、ファルちゃんを連れていってもいいかしら。
あの子なら何か見つけられるかも」
「来るんなら、ベル君も一緒に連れてきてくれ。
そういう事なら専門家にも見させよう。
あの子は仕事が早いから、王宮での説明はもう済ませてくれただろう」
やがて、真理がベルグリットとファルを連れて転移してきてくれた。
三人を連れて俺は遅滞なくダンジョンに潜った。
「やあ、冒険だー!!」
もう直に、ようやく一歳になるはずの神聖エリオン様は張り切っていらっしゃる。
大はしゃぎのファルの頭には、先日の子供の日にこさえた新聞紙の兜が勇ましく鎮座ましましていた。
ジェニーちゃんがファルのサイズで折ってくれたサンデー版のカラー兜だ。
よっぽど気に入ったとみえて、ずっと被りっぱなしだ。
一応、この子って女の子なんだけどな。
彼女の手には、同じく新聞紙製の聖剣が握られている。
きっとファルスの霊力がこもっているので、大概の魔物が一撃で退散するだろう。
それよりも先に魔物はファルスの前に傅くかもしれないが。
頭を撫でてほしいものな。
しかし、自分の意思がないと言われるダンジョン魔物の場合はどうなのだろう。
「さて、裏ダンジョンとやらが一体どんな趣向で御出迎えしてくれるものか。
楽しみですね」
おお、ベル君も言うようになったな。
今日はいきなりドラゴンとの御対面というわけでもないので、少しは余裕があるのかな?
単に職業的な興味が勝っているような気もするが。
それに一人じゃなくてSSSランクの俺と一緒だしな。
「なんか、こっちの方に魔力の揺らぎを感じるような気がするわ。
確証は無いのだけれど」
その辺りの感覚は、魔法の塊であり魔力に関しては敏感な真理を信頼する。
そのまま進んだが、ただの行き止まりだ。
MAPで見ても、そうなっている。
だが今回ばかりはMAPも参考止まりだ。
おそらく通常の空間ではなさそうな裏ダンジョンの表示は出来まい。
「ごめんなさい、違ったみたいね。
って、どうしたの?」
だが俺は、どうにもその突き当りが気になってしまって仕方がなかった。
まあ、いつもの得意の奴だ。
「この先に何かないかい?」
真理は首を振って白旗を上げた。
「ごめんなさい。よくわからないわ」
「どうでしょう?
特に何も無いように見えますが」
ベル君も壁を丹念に調べながらそう言った。
なおも俺が執拗に壁を睨んでいると、やおらファルが壁に飛びかかっていった。
「この、大馬鹿者~」とハリセンで突っ込みを入れた。
俺の大好きな口癖なので、いつの間にか覚えてしまったものか。
昔好きだった漫画キャラクターの口癖だったのだ。
子供の前で、あまり変な事を言っちゃあいけないな。
おいおいおいと思い、止めさせようと思ったが次の瞬間そこには。
【ようこそ、裏ダンジョンへ。入場料金は御一人様金貨一枚になります。
同伴の三歳未満の御子様は無料になります】
真っ白な色合いの不思議な金属プレートにそう書かれた入り口が現れていた。
これはファルスの力のせいなのか!?
相変わらず謎生物だな。
この野郎、いい度胸だな。
この魔王様から金を取ろうとは。
俺は金貨三枚をその場で放り上げて、裏ダンジョンの中へと足を進めた。
これは間違いない。
真理が言っていた、あの管理者とかいう野郎の仕業に違いない。
丁度いい。
とっつかまえて地球への行き方をゲロさせてやろう。
だが、ふと隣の真理を見ると、とんでもなく嫌そうな顔をしている。
苦虫を噛み潰したような顔だ。
こいつが、こんな顔をしているのを今までに見た事がない。
イブに拾ったエディの命が危なかった時にだって見せた事が無い顔だった。
やれやれ、先が思いやられそうだぜ。
俺は感知系スキルを発揮して辺りを探ったのだが、驚く事に使い物にならなかった。
魔法PCのMAPも、ナメクジが這った後のように今まで歩いた部分が表示されているだけだ。
上等だ。
MAPが作成できるだけでも御の字だぜ。
間違いなく、こいつは俺に喧嘩を売っている。
多分、この世界でずっとそういう役割を果たしてきたので、退屈のあまりこんな真似を始めたに違いない。
もしかしたら、かつて俺が地球で遭ったアレと同じような奴なのかもしれない。
そうだとしたら凄まじく厄介だな。
だが見つけたら必ずぶちのめしてやるぜ。
待っていろよ~。
それよりも、我が婚約者殿は無事だろうか。
まあ他の生徒も大事なんだけど。
ゲルスや十三か国連合だけでも頭が痛いのに、余計な真似をさらしおって。
あの野郎の事は【アドミン】とでも呼ぶ事にする。
管理者という英語の「アドミニスレイター」から取ったものだ。
前方から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
「真理! ファルを頼む!」
俺は魔道鎧を纏い、ファストを重ねがけして突っ込んでいったが、すぐにずっこけた。
まるでネット掲示板のAAのようにズザーっと。
そこには座り込んで喘いでいる生徒達がいた。
女生徒の喘ぎ声。
ある意味で男性教師にとってはロマンなのかもしれないが、今目の前にあるのは。
「もう食べられない。
許して~」
なんじゃ、それは~。
そこにいたのは、食い過ぎてはち切れそうな御腹をした四人の女子学生と、それに無理やり椀子蕎麦を食わせようとしている案山子のような奴だった。
「おおっと、御邪魔虫が来た~。
じゃあ、僕のアリス達。
また会う時まで!
チャオ」
そう言いながら案山子は駆け出していった。
百メートルを十秒切っていそうなスピードで、実にいいフォームをしていたな。
俺はあっけにとられて、そいつをただボケっと見送った。
案山子はアリスの登場人物と違うだろう。
次のキャラはブリキのロボットか何かか?
いや!
もしかしたら、今のあいつがアドミンの本体という事もありうる。
しまった、ひっとらえておけばよかったか。
せめてマーカーの一つでも付けておくのだった。
マップも碌に機能しそうにないここで、マーカーが機能するのかどうか、まったく心許ないのだが。




