53-5 夢幻の花びら
「お前達、こんなところで何をやっていたんだ。
他の連中は?」
苦しそうに御腹を擦りながら彼女達は答えてくれた。
「ああ、他の人もここへ来ているんですか?
私達は探索中に、いつのまにか訳のわからないところに来てしまって。
冒険者の人が『様子を見てくるから、お前達はここを動くな』って言って。
それからずっと待っていたんですが、それっきりその人も帰ってこなくて」
頭が痛いな。
きっとその冒険者も偵察に行った先で思いっきりおちょくられているんだろう。
「それで、お前達は何をしていたんだ?」
「それが……」
少し口籠りながら、みんなで顔を見合わせる。
どうせ、変な事をやらされていたんだろう。
「なぞなぞです。
さっきのあいつが、いきなりやってきて強制的になぞなぞを始めたんです。
どういう訳か体も動かなくなってしまって。
あいつが、なぞなぞを言ってきて答えられないと、あの蕎麦を食わされるんです。
最初のうちは美味しかったので喜んでいたのですが、なぞなぞがどんどん難しくなっていって。
御腹もはち切れそうな感じで、段々と苦痛になってきたんです。
それで、さっきの有様です」
あー、そういう嫌がらせなのかよ。
あの案山子野郎め、噂に違わず根性が悪いな。
椀こ蕎麦は美味いんだけど、量に挑戦する競技? だからな。
御店の人は「丸呑みするのがコツですよー」なんて言ってくれるが、美味しいから俺は味わって食べていた。
何故か、あの手の椀や小皿で出してくれる蕎麦は不思議と、どこへいっても頗るつきで美味いと相場が決まっている。
やれやれ、この調子だと残りの奴らも死ぬような目には遭っていないのだろうが、散々な目には遭っていそうだな。
とりあえず偵察に行った冒険者でも探しに行くか。
「お前達、ここにいろ。
俺のゴーレム兵を置いていく」
バーンと出した、三十体一個小隊のゴーレム兵を並べたてた。
「では秋山三尉、ここは頼む。
状況によっては、お前の判断でこのダンジョンを脱出して本隊に合流せよ」
「はっ」
挙手を返すのは、そのへんの自衛隊員募集のポスターかなんかから拝借した顔の、凛々しい迷彩服姿をした女性ゴーレムだった。
名前は適当に昔の日本軍人の名前から。
面倒なので自衛隊の階級を採用している。
小隊長は三尉で統一しておいた。
背後から女の子達が騒ぐ声が聞こえてくる。
「きゃあ、御姉さま~」
「ああ、ジョアンナさん。
抜け駆けはなしですわよ~」
やれやれ。
俺は引き続き、残りの連中の探索を続ける事にした。
そしてほどなく、うずくまって隅っこで壁に向かってブツブツ言っている件の女性冒険者を見つける事ができた。
「御免なさい。
生きていて御免なさい。
ミジンコみたいな私が生きていて御免なさい」
しゃがみ込んで頭を抱えたまま、ガクガク震えながら蒼ざめた顔で目を見開いたままブツブツ言っている。
こ、これは思ったよりもあかんな。
アドミンの野郎、相当タチが悪いとみた。
「おい、しっかりしろ!
立てるか?」
俺はそいつをなんとか立たせると、ゴーレムに送らせて、さっきの子達のところへと戻らせた。
残り九パーティか。
レーダーMAPが使えないのが痛い。
とりあえず、ゴーレムを大量に射出して捜索にあたらせた。
テストしてみたが、念話はブロックされたがスマホは使える。
さっき魔道鎧も使えたから、ここでは魔法をブロックされていないようだ。
レーダーが使えなかったり念話が使えなかったりするのは、魔素の濃度が低いのかもしれない。
だが、きっとあのアドミンの奴には諸々ブロック出来るはずだ。
そのうちに魔法のブロックをやられるかもしれないな。
スマホは改良して魔素の無い場所でも使えるようにしてある。
試してみたが、やはり魔素に頼る旧型タイプのスマホは使えなかった。
マズイな。
本来なら迷宮の中は魔素が濃いので魔法の源には不自由しないのだが、ここでは持久戦になれば魔力が欠乏する。
アイテムボックスは使えるので、食料や水などはまったく問題ない。
ゴーレムも捜索が終われば収納しておけばいい。
奴らゴーレム自身にもアイテムボックスを与えてある。
その中にはベスマギルバッテリーを山ほど突っ込んであるから、余程の事がなければ大丈夫だと思うのだが。
そもそもゲルス共和国の件があるので、そんなに長く留守にするわけにはいかないのだ。
俺自身も魔力自体はほぼ満タンで大量にあるし、超大容量のベスマギルバッテリーもあるから問題は無いが、一般の生徒達がいるからな。
さっきゴーレムを一体外へ戻してみたが、今のうちは問題なくダンジョンの外へ出る事が出来そうだ。
いざとなったら、それさえもブロックされる可能性もある。
さっきの子達は今のうちに帰しておくか。
ゴーレムにさっきの班を連れて帰還するように命じてから、俺達は先に進んだ。
そして突然ファルが立ち止まって、こう言った。
「花弁!」
そう言って見せてくれたものは、確かに淡い薄桃色をした綺麗な花弁だった。
「あ、駄目!」
真理がそう言ったのを、次の瞬間に遠い場所から聞いていた。
俺は夢を見ていた。
まだ、御袋が生きていた頃の、子供の頃から住んでいた家だ。
みんな笑っていた。
お袋がまだ金歯だらけだった頃、歯をむき出してマント代わりに毛布を被り、紙芝居の時代から存在する某黄金ヒーローのマネをして、ウワハハハと笑って演じてくれていた。
あの頃、俺はまだ小学生だっただろうか。
中学生だった姉ちゃんと二人で、日当たりのいい縁側で楽しく笑っていた。
御袋も一緒にみんなで笑っていた。
ああ、帰りたいな。
もう決して戻る事は無いだろう、あの頃、あの家。
でも帰れないよ。
だって家は解体して更地にした土地も売っちゃったからな。
御袋も……もうとっくの昔に亡くなっていて、今は御墓の下だ。
「園長先生、しっかりして」
「おいちゃん、おいちゃん」
俺は半目で目を醒まし、しばらくボーっとしていた。
「ああ、夢だったのか……」
何故だか、ツーっと涙が一筋頬を伝った。
段々頭がはっきりとしてきたが、ここは怒る場面なのか、それとも懐かしい良い夢を見させてもらって軽く礼でも言うべきなのか判別がつかなくて、なかなか現実に復帰できなかった。
「大丈夫?」
真理が心配そうに覗き込んできた。
「どっか痛いの? 痛いの痛いの飛んでけー!」
俺は思わず、そんなファルの頭を撫で回した。
ファルスの寿命は長い。
いつかこの子にも、さっき俺が見たような夢を見させる事になるのだろうか。
その時、夢の中の俺やこの子は笑っているだろうか。




