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52-1 子供の日

 この時期は行事が相次いだせいか、やたら忙しかったのもあって月日が経つのがとても早く感じる。

 小学校開校があったのが大きかったな。

 いつの間にか、もう子供の日だ。

 鯉のぼりは幼稚園の授業で作っておいたので、色も形もさまざまな物があちこちに置かれている。


 プリティドッグのミニョン達も参加して作っていた。

 これがまた中々見事なもので、とても犬(魔物)が作ったとは思えない。

 プリティドッグの中で最初にケモミミ園へやってきたミニョンは、もうハサミやクレヨン、そして絵の具に至るまで上手に使いこなしている。


 小学校の分は、主に男の子達を中心に布製の本式なものを製作している。

 何しろあっちにはミシン本体の専門家がおり、デザインや縫製などを手がける女の子のグループもいる。

 ネットから情報も取れるので、色々と作り放題だ。

 製作自体は幼稚園の方の子も参加するのでケモミミ園で行っていた。


「おい、ネコども~。

 中に入るんじゃあない」


 鯉のぼりを作る端から、猫族が中に潜り込んではカミラに追い立てられている。

 地球猫のショー(葵ちゃん命名)も一緒に走り回って楽しそうだ。


 レミは鯉のぼりのポールの上でカラカラ回っているアレからミミが離せないようだ。

 魅入られたように、尻尾をゆらゆらさせながらポールの前で立ち尽くしている。

 その様子があまりにも可愛らしいので今日は解呪せずにおいた。

 もちろん、しっかりとビデオには撮っておいたぜ。


 エルフ新町にも鯉のぼりを発注して、エミリオ殿下やレオンの分、そしてハイドやサイラスに帝国やザイードにも送っておいた。


 鯉のぼり用のポールはドワーフに作ってもらったものだ。

 なんとなく異世界風味のポールだ。

 作りが中世風なので、博物館とかで見る物のような感じがする。

 博物館に鯉のぼり用のポールは置いてないけどね。

 形とか表面処理とかも、日本にあるものと違って実に趣がある。

 なんというか、西洋の街にあるモニュメントとか騎士の鎧を思い起こさせるかのような質感なのだ。


 子供時代の武が鯉のぼりを指差して笑っている写真を入手して、あらかじめバラまいておいたので、王都貴族からエルフに注文が殺到していた。


 上手い事先に手に入れた貴族などは余裕尺尺だ。

「貴族のくせに、鯉のぼりも持っていないなんて」と鼻でせせら笑っている。


 甘いな。

 国防や領地防衛に義務のある貴族が持つなら、やっぱり鎧を着込んだ五月人形だろう。

 これはエミリオ殿下のために、とっておきにしておいたのだ。

 既にドワーフとエルフが共同開発で完璧な物を作り上げている。

 刃引きしてあるとはいえ、ドワーフが打った刀を装備した五月人形なんてここにしかない物だ。


 今のところ五月人形が配布されているのは、うちとアルバの王宮、他ではアントニオのところとエルミアの教会だ。


 あとエリのうちにも、ポールのために小ぶりな鯉のぼりを立てておいた。

 あそこは狭いので大きい物を立てるのは無理だった。

 他に小ぶりで精密な作りの卓上五月人形を置いてある。

 そいつはバラしてまた組み立てられるようにしてあるのでポールが嵌っていた。


 アドロスの代官邸と商業ギルドにも大きめの鯉のぼりを立てておいた。

 色取り取りの鮮やかな鯉のぼりを見ながら代官も言ってくれた。


「こういう物も趣があって、中々面白いものですね」


 艶やかな色遣いの鯉のぼりを見ながら代官のエドモンド氏も、新しい事が始まるのは大概このアドロスからなので、この手の行事には極力参加してくれる。 


 アドロスとアルバの商業ギルドでは、簡単に五月人形展を開催している。

 船橋武(五歳時)の人形に兜とかを被せているので、かなり盛況だ。

 人形の出来は実の妹に確認させてあり、彼女には馬鹿受けだった!


「やっだ。

 御兄ちゃんったら可愛い」


 御兄ちゃん人形は彼氏の写真を押しのけて、携帯待ち受け画面の座を勝ち取ったようだ。


 一応、精霊の森にも鯉のぼりは立てておいた。

 あそこに男の子といえるようなものは特にいないのだが、風の精霊達が鯉に潜り込んで楽しそうに泳がせていた。


 あとエルミアの教会にも立てにいった。

 見慣れていない子には、風が無くて垂れていると興味を持ってもらえないかなと思い、あそこの物には風魔法を付与して、いつも鯉のぼりが棚引くようにしておいた。


 五月人形は、国王陛下が物凄く興味を持ったようだったので、衣装を作って彼に着せてみたのだが物凄く微妙だった。

 西洋人風で物凄い髭もじゃの王様だからなあ。

 アーサー王(五十四歳時相当)か何かをやらせたのなら凄く似合ったのだろうけど。

 だが本人は気に入ったようで、着込んで悦に入っていた。



 そして本日のケモミミ幼稚園の工作は、子供の日のアレ、定番の新聞紙の兜だ。

 これは、おっさんがキャンプ用に持ってきた新聞紙をずっと使っている。


 最初の頃は葵ちゃん達も貪るように読んでいたが、さすがに同じ文章はいい加減に飽きたらしい。

 あの人達も、最近は焼き芋を包むなどの包装用にしか使っていない。

 日本の最新ニュース自体はネットで見られるので。

 やろうと思えば、それをインク抜きして作った無地の新聞紙にネットの文章や写真を合成して、エセ新聞さえ作れるのだ。


 トーヤは俺がネットからダウンロードした、色々な兜の作り方に片っ端からチャレンジしている。


 あと飾る専用に折り紙の兜も作った。

 様々な折り紙はかなりの人気で、異世界でも国内外で相当の需要がある。


 折り紙のテキストも売られていて、高級レストランで折り紙作品が飾りとして置かれていて驚いた事がある。

 鶴は、この世界でも折り紙のスタンダードとなっている。


 武が病気の時の真理さんのために折った鶴の写真も公開されており、アルバトロスの貴族で鶴が折れない者など貴族ではないと言われる。

 こっちでは真理が、子供が病気になった時なんかに夜なべして一晩中折っているな。


 ここだけの話だが、おっさんは日本人のくせに鶴の折り方をすぐ忘れてしまう。

 インターネットがあるので、ずっと忘れたままにはならないのだが。

 本当にネットというものはありがたいもんだ。


 普段当たり前すぎてありがたみが薄いけれども、今突然ネットが無くなったら俺は発狂する自信がある。

 ネットなんて四十歳になってから始めたというのにな。

 あの頃はまだ電話回線を用いたモデム通信が主流だった。


 今日のおやつは山本さんの独壇場だ。

 最近は子供達が、がっつり系おやつに傾倒しているので粽に柏餅はどんとこいだ。

 食い足りない奴は和菓子枠の赤飯に手を出していた。


 ついでに藤棚を作って、ドライアドどもに藤をやらせてみる。

 藤の花見団子も悪くはないものだ。

 桜の花見ほど派手にやらないが、日本にいた頃に藤の名所では美味しい花見団子の店が出ていた。


 他の屋台が出ていなくて空いているので、桜の時期よりも藤の季節の方が花を落ち着いて見られる気がする。

 だが落ち着いていられるのもここまでだ。

 我がケモミミ園ともあろうものが、普通にイベントを終わらせるなどもってのほかだ。


 とりあえずベタに「タンゴ」で攻める事にした。

 無論、端午の節句とかけた親父ギャグだった。

 

 そしてタンゴといえば、やはりバンドネオンで決まりだ。

 バンドネオンはアコーディオンみたいな蛇腹を持った楽器だ。

 こんな事もあろうかと密かにバンドネオンを作成しておいたのだ。

 ネットに内部構造が載っていたのを見かけて、つい作ってしまった。

 最初の頃は、タンゴにこの楽器は使用していなかったらしい。


 だが、このバンドネオンという楽器は習得が非常に難しく、悪魔の楽器とさえ呼ばれたほどの楽器であるため、もちろん不器用な俺に引けようもないが。

 まあそこはそれ、この世界には初めてやるような事を楽々こなすドワーフという人種がいるのだ。

 その彼らを持ってしても、これを演奏するのに珍しく二日ほどかかってしまった。


 あれを演奏するのは俺には一生無理だな。

 不器用なので無駄に太い指が他の絃にも引っ掛かるため、定番のフォークギターさえ投げ出したというのに。


 何故かよくわからないのだが、日本におけるバンドネオンの楽器としてのマナーは、法被を着て演奏するもののようだ。

 きっとドワーフみたいな連中が地球にも大勢いたのに違いない。


 とりあえず演奏は親方達に丸投げした。

 そして、この演奏するのにかなり技術が必要なバンドネオンは、巧みな職人であるドワーフ達の心の琴線に触れたようだ。

 そのうちに自分達でもバンドネオンを製作しだすのではないか。


 いつかこの世界では、「ドワーフといえばバンドネオン!」と言われる日がやって来るのかもしれない。


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