52-2 新競技誕生
楽器と演奏者も無事に揃った事だし、「こどもの日大舞踏会」を開催する事にした。
子供の日の御遊びなのだから、ただ踊るだけではなく、ダンスバトル大会と洒落込むことにした。
別にヒナダムのような武闘会を催すわけではなく、ただペアでダンスを競うだけだ。
ただし、普通にダンスを競うのでは面白くないので、騎馬戦のように楽しむ事にしたのだ。
ダンス自体の得点に加え、なんというか他のペアに対しての「アタックポイント」を導入した。
それは空手の寸止めのような感じのポイント制である。
もちろん空手のような技ではない。
例えば、男女が握り合わせた手などを使い、美しくビシっと突き出すようにポーズを決めるというものである。
なんというか他のペアを本当に攻撃するわけではなく、相手に向かってダンス技を決めるような感じだ。
技の鋭さ、美しさ、リズム感、男女のコンビネーション、またそこからの返しの動きの美しさなどでポイントを競う。
ピシっと技を決めて鮮やかに残心まで決めれば高ポイントで、しかも相手のアタックを無効にできる。
技を決められたペアは十秒以内に相手に対して技を返さないと、相手に大きくポイントを取られる。
また、二組で対決するわけでないため連続被弾も有り得るし、逆にポイント総取りもある。
そして決定的な勝敗を決する要素も入れた。
女性(ないしは女性役)の頭に付けられた羽根飾りを取ったらボーナスポイントが貰え、取られた方は、そこまでどれだけポイントがあっても失格である。
ただし、美しくポーズをビシっと決めないと、それも有効にはならない。
美しさは武器。
まず何を差し置いても生き残ることが先決という、いかにもこの世界らしいルールを取り入れた。
もし他の組が全て失格なら、残った一騎が勝利者という明快なルールだ。
身長差があるので大人と子供の部は分けた。
会場にはスタディコーナーを設けて、動画サイトから仕入れたタンゴ映像が流されたり、タンゴの解説書が置かれたりしている。
会場は小学校の体育館を用い、当然のようにドワーフ達が勢揃いした。
バンドネオンによる演奏をするだけでなく、本人達も踊る気満々のようだ。
男の子達は新聞紙の兜を被っている。
新聞紙の兜を気に入ったらしくて、大人でも被っている奴がいる。
別にいいけどな。
なんか見ていると笑える。
なんていうかもうコーディネート的にね。
エルミア軍団も来ているし、王族の子供達やサイラス子供軍団も呼んできた。
他に人化したプリティドッグに、顕現した精霊達も参加する模様だ。
御山へ行ってジェニーちゃんも連れてきた。
彼女はトーヤとコンビを組むようだ。
ジェニーちゃんは新聞紙の兜が気に入ったようで、カラフルなサンデー版を使って作っていた。
そのためだけに、俺はわざわざサンデー版の新聞紙を自分で作ったのだ。
ドラゴンハーフの子は、どんな格好をしていても可愛い。
最初はゴーレム達による模範演技だ。
女性役のゴーレムは黒髪に真っ赤なダンス用のドレスで、大変にエキゾチックな顔立ちだ。
もはや人間の女性と比べても遜色が無いほどの出来栄えとなった、うちのゴーレム達。
材質も色々と試したので、皮膚や肉の感触というか見た目というか、まさに人間そのものだ。
ゴーレム達は見事なタンゴを踊ってみせた。
テンポは速いが、その所作には優雅さがあり、要所要所でピシっと決めて魅せる。
男女それぞれが、実に魅力あるダンスを見せてくれる。
試合時間は一曲分で約三分。
それからの本番で、まずむくつけきドワーフの団体が頭に新聞紙の兜を被って踊る。
しかも何故か男同士でペアを組んでいるし。
さすがにむさくるしいな、おい。
特にあの図体がなあ。
判定はゴーレムが審判をする。
「はじめ!」
何故か、あまりダンスの開始に相応しくない掛け声がかけられた。
遊びに命を賭ける気質の、うちのゴーレム達の悪い癖がまた出てしまったようだ。
審判がいつのまにか武道着のような格好をして、手には赤い旗と白い旗を持っている。
そして同じようなスタイルの副審が二人立っていた。
ドワーフ音楽隊による見事な演奏が繰り広げられたが、踊っている連中は少し微妙な雰囲気だ。
なんていうか、戦場のムード?
軽やかに動いてはいるのだが、これからダンスを踊るとかいう感じではなくて「これから一戦始めるぞ」という雰囲気だ。
いや、鎧はつけていないし武装もしていないのだが、なんというか纏う空気がな。
あるのは、ただ新聞紙の兜だけなんだけれど。
足の運びも何か怪しい。
まるで剣を持って対峙しているかのような動きをしている。
互いに牽制をし間合いを計り、そして切っては結ぶといった感じで、剣戟の音が聞こえたような錯覚を起こす気配を放っている。
連中、のめりこんでいやがるなあ。
やがて、そのうちの一組が予備動作もなく動き、隣の組へ激しい一閃を決めた。
いや、組み上げた手をビシっと相手の顔に向かって鋭く見事に突き出して決めただけで、別に本当に当たっている訳ではないのだが。
「参った!」
何故か相手は戦意を喪失してそう叫び、「一本! それまで」と審判の声が上がる。
そして負けた方は速やかに退場していった。
おい、いつの間にかルールがかなり厳しいものになっているな。
戦場で討たれた者が踊ってなんていられるはずがないってか。
残心があるため、そのペアはそのまま次々と相手を変えて、素早く連撃を決めていって五組を連続撃破した。
女性役の戦士の掌底が決まったり、女性役が回転して足を上げたキックのポーズがバシっと決まったり。
ちなみに残心があるというのは、体操の選手であれば最後にマットの上でピタっとポーズを決めているような感じだ。
この体勢からなら体の戻しがうまくいき、すぐにでもファイティングポーズを取り、敵との戦闘に入れる。
体操選手とて着地でよろけていたりすれば体勢が取れず、すぐに次の動作へ移れまい。
もちろん、無様によろけて慌てて取り繕ったような場合には、採点においては厳しい減点が待っており、金メダルは遠ざかっていき順位は下がっていくのだ。
このタンゴにおいては、逆に敵のキックの爪先が鳩尾に食い込む羽目になるのだ。
いやダンスだから実際には命中していないけどね。
危ないのでフルコンタクト制は採用していない。
この世界では魔物や盗賊、あるいは交戦相手の兵隊相手に油断していれば命を取られる。
残心が無いというのは、間髪入れずに訪れる次のシーンで生き残る確率が異常に下がる事を意味した。
しかもドワーフどもめ、何故か羽飾りを取りにいく奴が一人もいない。
そういう技とかとあまり関係のない事をして勝つのはドワーフの好みではないようだ。
五人抜きの戦士は審判からエースの称号並びに勲章が与えられて、衣装に撃墜マークの星が刻まれた。
よくよく見れば、この人もエルドア国家特級技師の方だな。
俺が制定した異世界タンゴのルールが、プレー中に何かまったく違う存在に作り変えられていったようだ。




