51-4 もう一つのダンジョン
俺達はダンジョン管理部署の副部長執務室、つまりベル君の執務室兼研究室にいた。
ダンジョン管理局トップのライオル局長に次ぐ、次長待遇の役職らしい。
まだ若い見習いだから副部長職のようだが。
物凄い資料の山だ。
部屋の壁中に置き巡らされた棚いっぱいに資料が詰められ、一部はみだしている物もある。
それでも、うちが販売しているファイル関係のおかげで、ちゃんと整理がついているらしい。
「おまえ、資料室をもう一個貰っておいた方がいいんじゃないのか?」
いつも魔法PC先生頼みの俺は、この手の資料を扱うのは苦手だ。
俺の子供の頃にはPCなど無かったのであるが、一回便利なものを味わってしまうともう駄目だな。
「それだと資料室へ行く手間が余計かかるじゃないですか」
「いや、それなら別にいいけどな」
相変わらず、生真面目一本の学究の徒か。
まあ、その御蔭でこういう時にはとんでもなく頼もしいのだからいいのだけれど。
ベル君は俺にソファを勧めると、魔導冷蔵庫からペットボトルの御茶を取り出して注いで煎餅と一緒に出してくれた。
相変わらず渋い趣味だな。
まあ、それを販売しているのは、うちの商会なのだが。
俺も遠慮なく煎餅をバリバリ齧りながら話を聞く。
「さてと、本題の裏ダンジョンについてなのですが、僕が元々ダンジョンの異変について色々調べていたのはアルさんも知っていますよね。
その際に奇妙な現象に気が付いたのです。
いろんな報告を受けましたが、その中で同じダンジョンの中であるにも関わらず、まったく違うダンジョンであるかのような現象が起きている事が多いのです」
なるほど、ベル君は科学者なわけだ。
報告されてくる事実を読むだけの人間には中々見えてこない物が見えてくるんだな。
やっぱり、こいつを出世させておいたのは大正解だった。
「それで人をやり、各地のダンジョンへ調査に行かせました。
その結果、王国並びに帝国のダンジョンには、『もう一つのダンジョン』があるとしか思えないという結論にいたりました。
まだ、その全容は掴めていませんが、そういう仮説でも立てない事には説明出来ないような事があまりにも多いという事なのです」
「そうか、実はな……」
俺は自分が今まで集めた内容を話し、ベル君の推論を完成してもらうことにした。
「なるほど!
世界を越える事さえ可能にするダンジョンの秘密という事ですか。
そして謎の管理者の存在。
これは面白くなってきましたね」
お?
ベル君も言うようになってきたじゃないか。
さすがは専門家だけの事はある。
とりあえず、アドロスダンジョン内部で起きているベル君の理論の根拠となっているものを教えてもらうことにした。
「まず、アドロスのはぐれとして頻繁に各所で目撃される、御存知のキメラ。
あれはよく遠出して、はぐれになる事がありますが、そのはぐれになる間の部分に関して、そこでの目撃例がまったく無い事があります。
他の迷宮にいるキメラは、あそこまで自分のエリアを離れたりはしないものなのです」
「え! そうなのか?」
あいつらが極端に御散歩好きなわけじゃないっていう事?
「なんといいますか、まるでどこかに空間を繋いでいる通路があるかの如くに振る舞うのです。
しかも限られた期間だけ。
エミリオ殿下がキメラに遭遇した時も、そういった周期に符号していたようです」
「つまり、あのダンジョンに重なっているという、もう一つのダンジョンがあると仮定出来ると」
「そうなりますね。
他にも、迷宮の深層まで入りすぎた者が突然上層まで来てしまうとか。
転移石も無いのにね」
なるほど、裏ダンジョンの入り口というか裏口というか、本来でない入り方をしてしまったようなものか。
「それが、どうして上に上がってきていないんだい?」
「アルさんが、それを訊きますか」
あ、そうだった。
あの頃は変な奴等が上にいたんだったな。
この俺が全部掃除したんだった。
「冒険者ギルドの方に情報がいっていないというのもなんだよな」
「そういう目に遭った人達は、なんか凄く大変な目に遭ったので、命あっての物種という事で冒険者を辞めてしまうケースが多いらしいです。
それでギルドにも報告が行っていないケースが殆どだと。
そういう人達は酒の席などで話したりするのですが、ヨタ話として相手にされないケースが殆どで。
真面目にそういう話を聞き込みしているのは、この僕くらいのもんですから」
「なるほどな。
それで次回アドロスの中で『通路』が開くとしたら、大体の周期を概算で計算できるかい?」
「ええ、それは可能ですけど、少し御時間は頂く形になります。
具体的にいつかと言われても、ちょっと今ここでは御答え出来ないですね。
丁度、今やっている研究が行き詰っていたところなんで、こっちの案件に取りかかってみましょう」
「任せたぜ!」
こうして俺達は地球への帰還を目指し、裏ダンジョン攻略を進めていく事を決めた。
真理にも伝えたが、ちょっと浮かない顔だ。
「おそらく、まだ例のダンジョンは復旧していないと思うのだけれど。
まあ、あなたなら死にはしないかしらね」
なんか、とんでもない事を言っている奴がいるな。
「そんなにヤバイのか?」
「うーん、なんていうのかしらね。
まあ経験してみればわかると思うわ。
ああ一応、念のため私も一緒に行くわよ。
あ、でも戦争の方は大丈夫?
あなたの留守とかにケモミミ園を狙われたりしたら嫌かな。
私も今の情勢の中でケモミミ園を離れたくはないわ」
うん、それは俺だって嫌だよ。
裏ダンジョンアタックは、色々な案件を片付けてからかなあ。




