51-3 ベル君再び
というわけで、俺は王都の冒険者ギルドに手がかりを求めてやってきた。
「そういう訳なんだ。
ギルマス、何か手がかりはないだろうか。
なんでもいいんだが」
「裏ダンジョンか。
俺は聞いた事も無いが……レッグ、何か知っているか」
「裏ダンジョンねえ。
そして、その管理人ですか。
記録とか、あと他の人にも訊いてみますけどね。
あまり期待はしないでください」
「ありがとう。
当たってくれるだけで充分です」
俺は、そこから帝国の舎弟のところへと飛んだ。
「はあ~、裏ダンジョンだと。
そんな物があるなどと聞いた事もないが」
相変わらず書類から目を離さずにドランが訊いてくる。
「お前のところって、ダンジョンで色々と研究していたよな。
なんか資料みたいなものはないの?」
「それは瞬神ニールセンの管轄だったからな。
元々、俺は無関係だった。
まあ俺もダンジョンに関係する物で命を狙われていたがな。
だが、それはむしろアルバトロスの管轄だと思うぞ。
訊くのなら、疾風に聞け。
『御兄様』なんだろ?」
「そうか、ありがとう」
あー、あそこにまだ行ってなかったわ。
他の用件もあったので行ってくるか。
まるで御役所の窓口のたらい回しみたいだ。
しょうがないので奴の執務室に転移したら、そこには美しい女性がいた。
「おっと、これは御邪魔だったかな」
「待て待て、こいつは従姉妹のアンナだ。
おい、何か用があったんじゃないのか」
ああ、そういやサイラス王に妹がいたっけな。
この娘とは今まで会った事がなかった。
「アンナはメルス大陸に留学していたのだが、こんな情勢だから留学を切り上げて帰ってきたのさ。
ついでに、あっちの情勢も聞かせてもらっているわけだ」
なるほど。
それだとメルス大陸の連中の中にも、こっちサイドの国から子弟を引き上げている国もあるわけだ。
そこまでキナ臭くなってきているのか。
のっけから嫌な情報だな。
「御初に御目にかかります、魔王様。
アンナ・フォン・アルバトロスですわ」
「ああ、よろしく。
なあ、ミハエル。
そこはグランバースト公爵様とか言っていただくシーンなんじゃないか?」
「やかましい。
自分の胸に手を当てて考えてみろ」
あ、なるほど。
瞬時に納得出来たのでよしとした。
「それで、何か進展があったのか?」
「うーむ。
あまり良くないな。
情報があまりにも錯綜している。
わざと混乱させているのに、特にそれを隠そうとも思っていない。
だが帝国の時とは様子が違う。
何しろ相手が多過ぎて、恣意的なのか突発的なのかも判断がつかん。
下手すると、それを流している向こうでも判別がついていないかもしれない」
「わざとそうしているのかもな」
さすがのミハエルも渋い顔だ。
出来れば自分で行きたいと思っているのだろうが、転移の腕輪があるとはいえ相手が多数だし、万が一の事を考えているのだろう。
こんな時期に、正式訪問ではないミハエルがとっ捕まっても、それはまた面倒な事になる。
「それで俺の用件なのだが、裏ダンジョンというものを知らないか?
そこにいるという管理者も。
うまく攻略すると地球への移動が可能になるらしい。
お前に初代国王以前の、先祖代々の墓参りをさせてやろう」
ミハエルはまじまじと目を見開き、訊いてくる。
「ソースは?」
ネット掲示板か!
「初代国王と裏ダンジョンの冒険を共にした白銀竜バルドスと、伝説の指輪の番人だ。
後はこいつが事の発端の生き証人だな」
俺は子猫を取り出した。
猫はいきなりゲートを潜らされて、きょときょとしていたが、置かれた机の上でミハエルを見つけると「遊べー」とむしゃぶりついていった。
ミハエルは小猫を軽く指先でじゃらしながら鑑定を済ませた。
「ふむ。地球の猫……か。
なるほどな。
また、こんなタイミングで。
これもロスの思し召しというものか。
それで、お前は自分の国へ帰るのか?」
ミハエルは人差し指を小猫の顔の前でくるくると操り、楽しそうに繰り出してくる可愛い猫パンチを往なしながら訊いてくる。
なんたって、形だけとはいえ俺は今こいつの妹と婚約中の身なんだからな。
「ああ、帰る要件は親の墓参りと買い物だ。
所用も片付けないといけないし、その他の予定もあるんだ。
ま、単なる一時帰国だな」
「そうか」
そのまま帰ってしまうのか? と訊いたつもりなのは知っているが、敢えてそう答える。
奴も愚問と知ったようだ。
ふん、俺があの可愛いケモチビ達を置いて日本へ帰ってしまう訳がないだろうが。
俺なんか向こうへ帰ってしまったらボッチおっさん確定なんだぜ。
日本に居た頃なら気にもならないが、今の生活をやめて日本へ永世帰国なんてしたら発狂するわ。
「そういう話ならダンジョン管理部門で聞いてこい。
あそこの若いのは優秀だ、
案外と何か知っているかもしれんぞ」
ああ、ベル君の事か。
まあ期待せずに行ってみるか。
若い子の意見も聞いてみるとするかな。
小猫を風魔法で、ひゅるんっと手元に寄せると、ダンジョン管理部署へと向かった。
「あ、アルさん、学園で会って以来ですかね。
今日はどうしたんですか?」
「実はな……」
俺は子猫を見せながら、かいつまんで説明した。
だがベル君は子猫を優しく抱っこして愛しながら、こんな意外な事をのたもうたのだった。
「なるほどね。
わかりました。
今から資料を御用意しますので、少々お待ちください」
ズルっ。
なんだってー?
俺は再びずっこけた。
今回これが多いな。
「おい、ベルグリット。
お前、裏ダンジョンについて何か知っているのか?」
「ええ。
それこそ僕の研究テーマみたいなものですから」
満面の笑顔を浮かべるベル君を見つつ、俺は心が逸った。
まさか、こいつがそんな知識を溜め込んでいやがったとは~。
これはまた迂闊だったわ。
だがはたして、地球への道は開けるのだろうか。
真理の話では……。




