145-8 真の決戦
「あー、ちくしょう。
やられたぜー」
「あっはっは、おまえらホントにけっさく。
いいな、こんどまたモグラあなほろうぜ」
「ちくしょう。おまえらこそ、かくしコマンドとは、みごとにしてやられたぜ」
そして、また仲良くシュークリームにありついていた。
ついでに織原を拝み倒したエリーンも御相伴に与っていた。
まあ、子供達のおやつには数が足りたので。
こんな事だろうと思って、織原もかなり多めにシュークリームを作ってきてあったのだ。
主にエリーン向けの増量であった。
莫大な材料費と手間暇がかかったのであるが、愛しの彼女と織原家の『ばあや』の応援を貰って頑張ったのだ。
姉と母親も一生懸命に手伝ってくれた。
最近、異世界の子供達の話をする勇人ちゃんは凄く明るくて楽しそうなので。
異世界から帰還を遂げた頃、一時は豪く心配されていたものだった。
家族とも、あまり話さない日々だったので。
そしてポツポツと聞かされた、向こうの世界で無残に扱われた話に家族一同涙したものだった。
だが、今は違う。
『みんなの魔法番長』なのだから。
異世界帰りの彼に理解の深い、可愛い彼女が出来たのも大きいのだろう。
あの悲惨極まるどん底の状態から、まさか速攻で彼女を作ってくるとは意外だったようで、家族一同から大爆笑されてしまっていたのは余談だ。
そして表彰式が始まった。
園長先生がリーダーの子に表彰台(というか小学校の校庭にて校長先生が朝礼で使うあれ)の上で賞状を手渡した。
後で立派な額に入れられて、第三幼稚園の園舎の大広間に飾られるのだ。
「あー、みんなよく頑張ったな。
という訳で表彰を行います。
第三ケモミミ幼稚園諸君、諸君らの健闘と勝利、その連覇の栄光を称えて、ここに優勝旗と陸の五月人形を授けます。
はい、みんな拍手~」
そして陸の五月人形も立ち上がり、自らも力強く拍手していた。
だが、そこでさらに一際大きな拍手を重ね合わせた奴がいた。
思わず全員が振り向いたのだが、そこには奴がいたのだ。
海の五月人形が。
陸の五月人形は、最初に驚愕の表情を浮かべ、そしてそれは段々と怒りの表情に変わっていった。
「てめえ、俺と子供達の晴れ舞台に一体何の用だ」と言いたいが如くに。
だが、その頭には当然のように彼らがいた。
そして奴の主であるメリドが陸の五月人形へ話しかけた。
「バブバブバブバブバブウ」
すると、次第に困惑の表情に変わっていく陸の五月人形。
骸骨面の七変化は、見ていてなかなか興味深いものがある。
結構、その心の内が伝わってくるものなのだから。
どうやら、赤ちゃんにも御祝いとして贈られる五月人形には、赤ちゃん語も理解出来るようだった。
「おい、お前ら。
俺にもわかるように説明してくれ。
悪いが、このイベントは三歳以上が対象だから、お前らは呼んでいないんだ。
基本的に幼稚園内の行事だしな。
それに大会はもう終了したぞ」
するとレオンが「チッチッチ」という具合に、顔の前で人差し指を振ってみせた。
「違うんだなあ、園長先生。
僕らはメインイベンターなんだな」
それを聞いて呆れ返る園長先生。
「もしかして、こいつと勝負をしにきたのか?」
「だって、今年は海の五月人形がいるんだよ?
それで勝負しないなんて!」
両親に似ずに、意外と好戦的な台詞を吐きまくるルイ。
これだから御友達は選ばないと。
今更そんな事を言っても無駄なのだが。
誰かのせいで、生まれる前から運命ならぬ祝福の力で固く結ばれた仲間なのだから。
「それにさ」
悪戯っぽくウインクしながらルイが続ける。
「彼本人はやる気よ」
思わず振り向いた園長先生の前に、兜の緒を締め直している陸の五月人形がいた。
これは日本の格言に基づいた「俺が勝つ」という意思表明というかアピールであろうか。
まるでプロレスラーが興行の前にやるパフォーマンスのようだ。
そして彼を挑発するように中指を立ててみせる海の五月人形。
それを見たケモミミ園の子供達の間にも怒号が湧いた。
「やっちまえ、りくのごがつにんぎょう」
「ちまつりだー」
こうなっては、もはや決戦は必至。
血祭といっても五月人形だから血は出ないけどね。
「お前ら、ちょっと待っていな。今すぐ会場を作ってやるから」
諦めた園長先生はコロッシアムの作成に入った。
もちろん、拡張空間にだ。
それは、いつもの如くあっという間に出来上がる。
本日の会場はローマ帝国時代の闘技場を模した物のようだ。
「じゃあ、子供達は全員集合してねー。
これより、子供の日スペシャルタイトルマッチ『陸の五月人形対海の五月人形』を始めます」
そして五月人形マッチ専用拡張空間の入り口を潜って観客席に陣取った子供達。
観客となる子供達は大勢いるのだが、巨大な五月人形に合わせたサイズのコロッシアムがあまりにも広すぎて人数が少なく見えるのが残念だ。
子供達は全員、手に山本さん謹製の柏餅の包みと御茶のペットボトルを持っている。
「やれー、まけるな。
りくのごがつにんぎょう」
「がんばってー」
そして相手陣営も応援は姦しい。
「バブバブバブバブウ」
メリド王子は、豪く興奮している。
赤ちゃんだから何と言っているのかは不明なのだが、励まされた海の五月人形は奮い立ったようだ。
向こうの応援席には呼ばれてきたレオン配下である魔物の子供達が揃い踏みだ。
そして睨み合う両者。
「ファイっ!」
レフェリーであるエリーンの掛け声によって、一気に歩み寄りガツーンと力強く組み合う二体の巨大五月人形。
その額には同型機である二体の識別のためにオリハルコン製の山吹色に輝く『陸』『海』の漢字を象った兜飾りを追加装備として配してある。
「「「うおーーー」」」
子供達の歓声が、出来たばかりのコロッシアムを振るわせて、激突する二人の武士の魂が異世界に大音響を木霊させた。
「元気があって大変よろしい。
今年もいい子供の日になったかな」
そんな園長先生の満足そうな呟きを乗せて、春の風は異世界の五月の空(拡張空間内)を棚引いていくのであった。




