145-7 逆襲のグリモワール
「やつら、こないね」
「うん、どうしちまったのかな」
既に二つの鯉のぼりを集めて、優勝V2に王手をかけた第三幼稚園。
しかし、残る第一幼稚園の動きが不気味だ。
第一幼稚園、正確には第一ケモミミ幼稚園は元祖ケモミミ幼稚園だ。
メンバーや指導者は入れ替わろうとも、もっとも歴史のある(というほどでもないのだが)由緒正しきケモミミ幼稚園なのだ。
「きっとやつらは、たくらんでいるのさ」
「そうかもしれないけど、はやくがんばらないと、やつらはタイムオーバーだぜ」
「このまま、まもっているだけでも、こいのぼりがのこりいっこであるうちは、はんていがちできるからな」
そう、午後三時を以って大会は終了し、このままでは第三幼稚園の優勝だ。
『戦わずしての負け』
これは一番良くない事だと、この幼稚園では教えられている。
人生は最後まで頑張って戦っていこうという意味で。
頑張らない習慣をつけると、人間はまったく頑張らずに無気力に過ごす習慣を身に着けてしまう。
戦わずしての負け犬になるのは禁止事項なのだ。
ちなみにケモミミ園の犬に負け犬などは只の一匹もいない。
皆、勝ち犬というか、犬生を完全に満喫している。
もちろん、猫もそうなのだが。
あの元祖ケモミミ園の連中が、その重要な教えを忘れるなどという事があるだろうか。
否、そんな馬鹿な事があるはずはない。
一体何を企んでいるのか。
すると第一幼稚園の連中が大騒ぎしながら攻めてきた。
「おらあ、タマとったるでえ」
「そりゃあ、はでにいくぜえ」
「おらおらおら、おりゃあ」
中には手に楽器を持った連中もいて、皆大声で叫んでいる。
第三幼稚園の子供達は目を瞠った。
そして互いに目配せをした。
(おかしい。
れんちゅうは、なにをさわいでいるんだ)
(ああ、おかしいね。
これは、なにかのようどうだ)
そして、ある子は気がついた。
足元で微かな振動がある事を。
ハッとした、その子はパッと地面に伏せて耳を押し付けた。
「ゆれてる!」
「へえ、どれどれ」
彼らは顔を見合わせた。
「「「まさか!」」」
そして、ついには声まで聞こえてきた。
「そーれ、どっかん」
「やーれ、どっかん」
「モグラになったみたいで、ちょうたのしい~」
あろう事か、トンネルを掘って地下から攻めてきていたらしい。
いくら力の強い獣人の子とはいえ、さすがにこれはやり過ぎではないかと思うのだが。
「それ、はんたいがわからたてあなをほって、ふくろのネズミにしたれー!」
「ふくろネズミ、おいしいよね」
「いや、そうじゃなくてだな。
あーでも、たべたくなってきちゃった」
「じゃあさ、ここでふくろネズミがりといこうぜー。
うえっへっへっへ」
こちらも、あっという間に穴を掘りまくると第三幼稚園の子達は中へ踊り込んだ。
反対側に開けた縦穴からも第三幼稚園の子供達がなだれこんで挟み撃ちの体勢だ。
「そこまでだ!」
だが、連中の様子がおかしい。
なんだかニヤニヤしているし、しかも人数がやけに少ない。
「しまった、はかられたか」
慌てて外に出ると、攻め込んできた第一幼稚園主力の連中に、第三幼稚園の連中は数で押されて防戦一方だった。
「ああ、こいのぼりが!」
何故か鯉のぼりが、何者かによって引っ張られているかのように怪しい動きをしていた。
「くそ、こうなれば、しかたがない。
ひっさつさいしゅうおうぎ、グリモワール・アタック」
そして彼は投げた。
自慢のグリモワールを。
「バカめ、グリモワールはなげるものじゃないんだぜ」
その鯉のぼりが靡く、怪しい動きのするあたりから嘲るような声が聞こえてきた。
「そこか!
かくしコマンド、ひっさつオフェンス・ジャマーはつどう」
「なに!」
すると投げられたグリモワールは空中で分解し、長い紙となってそいつを拘束した。
「う、うわあ、まきつく。
くそ、ひきちぎれん」
「あっはっは、バカはおまえだ。
グリモワールがちぎれるわけないじゃん」
グリモワールは基本的に不滅な物が多く、一旦この世に誕生すると物理破壊は受け付けない物が多い。
だから、なおのこと性質が悪いのであるが。
「まもりのグリモワール、のうりょくさいだいはつどう~」
そして強制的に姿を現させられたグリモワール工作員に、更にグリモワールが絡みついた。
「ぎゃああーー」
ポールの上から落ちてきたミイラ男と化した可愛いネコミミ坊やを沖田ちゃんが受け止めると宣言した。
「勝者、第三幼稚園! V2おめでとう」
みれば、最後の鯉のぼりを皆で担いで帰ってきた第三幼稚園のオフェンス部隊がいたのだった。




