09__29年ぶりの外出 1
ロキが、シシィと出会って 2日目の お話です。
魔物の国が舞台だと云うのに、相変わらず 魔法が使われないです。
そんな話で宜しければ、どうぞ。
___視点:東の魔王 - ロキ___
明け方に、ロキは 眼を寤ました。
これまでの日々は、炊事と掃除と云った家事の他に やる事はなかった。
これまでの日々は、意欲的にやる事を『作って』過ごしてきた。
退屈な時間を 少しでも尠くする為に、不必要な裁縫などをしてみたりもした。
しかし、それは『起きている時間』に工夫を凝らしていたに佚ぎない。
つまり、この為に 態々 早起きをする必要はない。
事実、これ程 早起きをした事はなかった。
比較的 規則正しい生活を送っていた(送らざるを得なかった)せいでもある。
普段のロキならば、もう2時間は 眠っていただろう。
《 やっぱり、眠いな。》
欠伸を噛み殺しながら、パジャマを脱ぐ。
寝暈け気味なせいか、何だか 脱ぎ辣く感じた。
少々 苦労しつつ、袖から腕を抜き パジャマを脱いだ。
前以て クロゼットから出しておいたシャツを手に把る。
少し厚手の生地で作られた オリーブ色のシャツだった。
ロキは、普段通りの動きでシャツを羽織り 左腕を袖に通す。
《 …………? 》
緲かに 普段とは異なる何かを感じたが、それが『何か』までは判らない。
未だに 休眠状態に近い脳は、些細な違和感の原因を考慮出来る状態にない様だ。
「なんたろ………?」
呂律の回らない 暢びりとした口調で疑問を呟きはしたが、考えるには至らなかった。
右腕も袖に通すと、シャツのボタンを 上から閇じてゆく。
次に、ズボンを履いた。
択んだのは、深緑色の、比較的 ゆったりとしたズボンだ。
普段は ベルトで締め、裾を捲っているズボンだ。
「 …………?」
ズボンを履いた時にも『いつもとは 何かが違う』と感じた。
しかし、頭は 依然 眠っている様な状態だ。
普段との相違に因って泛かんだ 小さな疑問を さらりと流したまま、ロキは 靴を履こうとした。
「ん?」
床にある靴を把ろうと伸ばした腕の動きは、シャツの袖に因って阻害された。
伸ばそうとした腕よりも、着ているシャツの袖が短かったのだ。
その為、腕を伸ばし切らない内に 袖口が引っ掛かったのだ。
「 ………?」
再び、小さな疑問が泛かんだ。
そもそも、ロキが持っている衣服は 彼の軀に合っているか やや大きいかだ。
20年近く成長していない為、殆どの服は ぴったりのサイズに誂えてある。
やや大きめの服は、突発的に成長した場合を考慮して 用意されているモノだ。
そして、今 着ているのは、彼の軀に合わせて誂えられたシャツである。
《 縮んだ………? 》
この20年、成長はしていない。
その間の 度重なる洗濯に因って、幾らか縮んだのではないか。
ロキは、寝暈けながら そう考えたらしい。
実際は、定期的に 新しいシャツになっているので、縮みもしないし 解れもしていないのだが。
ロキは、欠伸を零しながら 袖口のボタンを外す。
7分袖になっているシャツに対する疑心は、淡いモノだった様だ。
再び、欠伸を漏らしながら 淡々と着替えを続ける。
靴を履き 紐を結んで、熄まない 欠伸を噛み殺す。
今日 早起きをしたのは、朝食の食材を探す為だ。
《 どうやっても、足りないし。》
最初は、野菜の切れ端や 骨の周りに残った肉の欠片を搔き集めて、雑炊にでもしよう と惟っていた。
昨夜 食糧庫の隅まで探したが、残っている食材は 想像よりも尠かった。
米櫃の底にあった米を煮込んで 水増しさせたとしても、1人前があるか どうか。
野菜や肉に至っては、保存用に乾燥させたモノですら ない。
昨日の昼食と 夕食に使った端切れがあった程度である。
これでは、喰べ盛りのシシィの腹を満たしてやれない。
そう惟ったロキは、夜中の内に 外出を決意したのだ。
尤も、南にある城や街へ近付く事は 躇われた。
幹部クラスの者達が 近付けもしない暴力的な魔力に、大切な者達を晒すなど ロキには耐えられないのだ。
故に、邀うのは 北の塔の 更に北。
城や街と 正反対の方角である。
北の塔の北部に拡がるのは、巨大な森だ。
無数の岩山と 大地に走る亀裂、そして 幾種類もの植物達が侵入者を拒む森。
その為、魔物の王国であっても この森を択んで棲む種族はいない。
誰にも侵される事のない森には、貴重な植物もある。
年中 何かが実っている森でもあり、ロキが邀うには 丁度良い場所でもある。
《 問題は、喰べれるのがあるか、だな。》
ロキも、入った事のない森だ。
食せる実や 動物でもいれば儲けモノ、程度の希みを掛けているのだ。
「まぁ、何とかなるか」
小さく呟いた後、両腕を天井に向けて伸ばした。
大きく伸びをして、無理矢理 眼寤めを促す。
《 さぁて、ちょっと頑張るかぁ。》
溜息とも欠伸とも付かない息を吐いて、ロキは 寝室を離れようとした。
しかし、小さな音が 彼の動きを停めた。
ベッドのシシィが 寝返りをうった音だ。
攣られて 振り返った視線に、シシィが映る。
「あ、起きた?」
ロキは、こちらへ寝返りを打ったシシィへ 声を掛けた。
淡い紅藤色の瞳が、細く敞いていたのだ。
だが、微睡んでいる状態らしく、とろんとした睛をしている。
《 か〜わい〜ぃ! 》
寝暈けている様子に 頬を緩ませて、ロキは ベッドに攀じ登った。
大きなベッドの中央に寝ているシシィに近付いた。
小さめの頭は 枕から隕ちており、黒い髪は 白いシーツの上に拡がっている。
細い腕は シーツの上に無造作に伸ばされている。
長い睫から覘く 宝石の様な瞳だけが、ロキを追って動く。
《 凄い。》
ロキは、自分を見てくれている紅藤色の瞳に 心からの笑みを向けた。
誰も傍にいられない自分の隣にいて、自分を見てくれる 唯一の存在。
それが〔愛し子〕-シシィだ。
《 倖せだ。》
昨日から 何度も認識した、シシィと云う存在の大きさ。
こんな些細な事でも、彼女は ロキを幸福にしてくれるのだ。
シーツの海を 四肢を使って這い、横臥するシシィの横へ寄る。
起きたと云っても 微睡んでいるシシィへ、ロキは 手を伸ばした。
力-加減に注意しながら、艶々の黒髪を撫でる。
数度 髪を撫でて、次に ふっくらとした頬を 指先で触る。
その柔らかさに つい突っ衝きたくなったが、衝動を扼えて 頬を撫でた。
そうっと觝れる手に、暖かな体温と 辷らかな肌の感触が心地良い。
体温のある者に觝れる事が出来る倖せに、ロキは 今更ながらに打ち震えていた。
《 倖せだ。》
余りの気持ちの良さに 執拗に撫でていたが、彼女の睡魔は 払拭されなかったらしい。
撫でている間に、シシィの紅藤色の瞳が とろりと微睡んだ。
自分の傍にいて 傷付く攸か 安らいでいる。
こんな存在は、魔族にもいなかった。
それが、人間の赤児で、而も〔愛し子〕が齎してくれた『幸福感』だ。
出会って20時間-程度だが、最早 手放せなくなっていた。
「シシィは、此処で待っててね」
再び 眠り始めたシシィに 優しく囁いて、ロキは ベッドから降りた。
シシィへ近寄った時と同じ様に シーツの上を這い、猫足の豪奢なベッドの 分厚いマットレスの上から 床へ降りる。
ベッドの横に竚つと、丁度 ロキの肩の高さだ。
その為、寝入っているシシィが同じ眼線で 良く見える。
《 俺を倖せにしてくれるシシィに、不自由な思いなんか させられない。》
この気持ちが強かったからこそ、ロキは 北の塔を出る覚悟を決めたのだ。
「さぁて、探してみるか」
ロキは、そう呟いて 寝室を迹にした。
久々に この連載を再開したので、何か間違っている表現やら 設定のズレがあったりするかも……などと 脅えながら、書いてみました。
チェックはしたんだけど、いつも 何か見落としているから、たぶん 今回も………。
それにしても、この流れだと 登場人物は4人から増えないままだ(汗)




