06__孤独じゃなくなった魔王様 2
小さい子を書くのって、難しいですね。
早く大きくならないかな。
今回は(『も』かな)ロキの お話です。
___視点:東の魔王 - ロキ___
夕食の後片付けをしてる俺の耳に、ぽすん とか、ぼすん とかって音が聴こえる。
離れた場所にある ソファの上で、シシィが 動いてる音だ。
朝ご飯(時間的には お昼に近かったけど)の後 お昼寝をした彼女は、眼が寤めると 運動を始めた。
只管 竚ち上がろうとしてる。
ソファは柔かいし 怪我はしないけど、足場としては 良くない。
這い這いもしなかったのに、いきなり 竚とうとか、シシィは やる事が無茶だ。
でも、どうしても 竚ちたいらしい。
這う事は 一切せずに、ただ 竚つ事に執着してる感じだ。
まぁ、あっちこっち這い廻られて 怪我とかされるよりマシかな、って惟って 放置してるんだけど。
《 片付け終わったら 付き合ってあげよう。》
時間は、幾らでもあるんだ。
長い夜を シシィの為に使うくらい、なんて事ない。
寧ろ 嬉しい。
これで、暇を潰すのに困らなくて済むし。
此処にいるの、暇なんだよねぇ。
1日が長いったら ないんだ。
この間なんか、マントの裾をボタンだらけにしちゃったし。
時間を潰す方法に悩んで、夜通し ボタン取り付けてるとか……魔王のする事じゃないよな。
《 マントなんか、一生 着ないからいいけど。》
勿論、そのマントは 俺用にって用意されてたモノで、当然 今も、裾はボタンだらけだ。
色もサイズも違うボタンで彩られたまま、タンスの奥に仕舞ってある。
リクが見たら、土下座して泣きそうだし。
だからって、あれを ちまちまと外してたら、俺が泣きそう。
証拠隠滅の為にも 燃やしちゃうのが 一番なんだけど、ちょっとだけ……いや、だいぶ 問題がある。
《 北の塔ごと燃やしそうなんだよなぁ。》
魔力をコントロール出来なくて 幹部すら近付けないって云うのに、魔法なんか使ったら どうなるんだか。
はっきり云って、俺が悚い。
盛大に後悔しそうな結果になりそうで、悚すぎて出来ない。
何も壊したくないし、誰も傷付けたくない。
そうなると、微々たる魔法も使えない。
だから、魔法で火を点ける なんて、以ての外なんだ。
そうなると 竃で燃やすしかないんだけど、此処にも 問題がある。
どうしても 灰が残っちゃうんだ。
それの何が問題かと云うと、リクが ゴミと一緒に 灰とかも持ってくからだ。
ゴミを纏めとくのは俺だけど、自分じゃ 捨てに行けないから。
………まぁ、大体 察しが付いた人もいると惟うけど、そのゴミをね、リクがね、チェックしてるんだよね、何でかね。
前に、竃で マント燃やしてゴミに出したら、翌日 詰め寄られた。
俺に詰め寄ったら リクが苦しいのに、構わずに 詰め寄って来たんだ。
マントに 竈の火が燃え移って、お怪我をなさったのでは⁈
そう言って、必死の形相で 問い質してきた。
ーーーーーーいや〜ぁ、あれは 悚かった〜ぁ。
いろ〜んな意味で 悚かった〜ぁ。
燃え滓なんて 殆どなかったのに、何処までチェックしてるんだか。
あの時は、時間潰しに 針と糸出して、マントに刺繍してて。
マント中に刺繍しちゃって、解くのも手間だし 哀しくなるから、竃で燃やしたんだ。
而も、緻く切ってから 燃やしたんだ。
燃え滓があったとしても、本当に ち〜っちゃな布切れだった筈なのに。
リクは、それを見付け出して マントだと判別したんだ。
《 あいつ、コワイ。》
どんだけ 俺の世話をしたいんだ、あいつは。
俺が こんなじゃなかったら、一から十まで 何でもしそうな勢いだ。
あの前に『役に立ってない』なんて言ったのが いけなかったかな。
でも、事実だし……あ、いやいや、頑張ろうとはしてくれてるんだけどね。
でも まぁ、事実だし。
さて、問題を 元に戻そう。
《 ボタンって、燃えないよね。》
竃の火力なんか 高が知れてる。
火の魔法なら 燃やせると惟うけど、俺がやったら シャレにならない結果が俟ってる気がしてならない。
証拠隠滅 じゃなくて、国家消滅になりかねない。
《 折角 シシィと会えたのに、そんなの 冗談じゃない。》
食器を洗い終えた俺は、流し台の前に据えてある踏み台から 跳び降りた。
自分の身長くらいある踏み台だけど、一気に跳び降りた。
軀のサイズは 小さいけど、魔族だから 頑丈に出来てる。
たぶん、4階の窓から跳び降りても 怪我はしないと惟う。
今の攸、やる予定ないけど。
シシィは、どうなんだろう?
俺に劣らない 強大な魔力を持ってたり、俺が名前を付けたせいで 急に成長しちゃったりしたけど、シシィは 人間だ。
いや、人間『だった』かな。
成長しただけじゃなくて、体質とかも変化してると惟うんだ。
そうなると、気になるのが 強化-度合いだ。
一体 どのくらい強化されたのか、それに因って 俺の対応も変わるし。
《 魔物なら、名前を付けると 変化するけど。》
仂の強い魔族に名前を付けられると、啻のスライムだって ランクアップする。
一説には、ダンジョンの中ボスになったスライムもいる って聴いたから、相当だと惟う。
同じ理屈なら、シシィだって……人間だって、何等かの変化はあったと惟う。
俺には、確認する手段がないから 判らないけど。
《 本当に、魔族になってたら………。》
素敵だな と惟いながら、俺は、キッチンから ダイニングを廻って、リビングへ邀った。
シシィは、リビングのソファの上で 飽きもせずに竚つ練習をしてる。
…………と 惟ってた。
「シシィ?」
俺がリビングに着いた時、シシィは ソファにいなかった。
ふかふかのソファの上で 竚つ練習をしてた筈だった。
3歳児の軀だから 無理だったけど、リビングは キッチンから見える位置にある。
随って ソファも、見える位置にある。
洗い物の途中までは、シシィがソファにいる音も聴こえてた。
途中から 考え事してて、音がしなくなってた事に気付かなかったけど。
《 もう 歩けるんだ。》
驚くと、声って出ないんだね。
こんなに早く歩ける様になるなんて 惟ってもみなかった。
ソファを降りて、興味のままに歩き廻ってるのかな。
《 あ、いた。》
シシィは〔愛し子〕だ。
そもそも、気配は 特殊だ。
此処から 何10キロも離れた生贄の祭壇に邀う、呪布に葆まれたシシィを見付けられるくらいだ。
この北の塔の中にいるシシィを見付けるのなんか 息をするくらいの感覚で出来る。
《 じゃあ、何で 気付かなかったんだよ。》
惟わず、自分で ツッコむくらいの事態だ。
だって、視えて当然の事を見遁してた様なモノだ。
考え事してたからって、見遁す様な気配じゃないのに。
現に、今だって シシィが歩き廻ってるのが判る。
彼女は リビングから出て、広い廊下を ちょこちょこ歩いてる。
《 絶対 強化されてるじゃん。》
幾ら 人間の成長が早いって云っても、こんな早い訳ない。
お昼の前には、ちょっと腕を動かしただけで 倒れかかってたのに。
シシィって、凄いなぁ。
《 俺なんか、20年近く このままなのに。》
成長って 何だっけ? ってくらい、このままだ。
此処に篭ってから 1ミリも成長してないと惟うんだけど。
それ攸か、この先 もう20年くらい成長しないかもしれないのに。
《 いいなぁ、早く成長出来て。》
そんな事を惟いながら、俺は 廊下へ出た。
シシィは、結構 近くにいた。
彼女は、廊下を歩いてた。
長い廊下を 往ったり復たりしてる。
《 面白いのかな、あれ。》
俺は、部屋を出た処で 竚ち停まったまま、シシィを見てる。
廊下を歩く シシィは、壁から離れて 20歩も歩かない内に また壁に掴まる。
壁に打付かる様な勢いで 突進して、姿勢を直すと また壁から離れる。
廊下を横切る形で、反対側の壁へ向けて 歩き出す。
これを 只管 繰り返してる。
何度も そうして歩いてるけど、遠くには往ってない。
だって、長い廊下の先に行くんじゃなくて、すぐ其処を ただ往復してるだけだし。
廊下を縦に歩くんじゃなくて、横切ってるだけなんだ。
つまり、廊下の幅を利用して 歩く練習をしてるんだ……と惟う。
シシィの顔が 真剣(に見える)だから、たぶん そうだ。
ちゃんと竚ってられる様にはなったみたいだけど、シシィは、まだ 歩くのが辿々しい。
気持ちとは裏腹に、短い脚は 回転数が上がらない。
前のめりになりながら、反対の壁に到達する。
やっぱり 打付かりそうな勢いで。
小さい趾は、比率的に大きな頭を支えるには バランスが取り辣い。
慣れないと、歩くのは困難なんだ……と惟う。
昔すぎて 良く憶えてないけど、そんな時期が 俺にもあった筈だ。
《 だけど、何で 廊下?》
ずっと見てたんじゃなかったから 判らないけど、ソファを降りて 掴まり歩きしてたなら、廊下には出なかったんじゃ……?
まだ 歩くの巧くないのに、ソファから こんなに離れた処へ来る理由って 何だろう?
他の部屋に往きたかったなら、こんな歩き廻り方しないと惟うし。
同じ様な場所を 往ったり復たりするだけなら、部屋の中でも出来るしね。
自分で廊下へ来たがった訳でもなさそうなんだけど、どうしてだろう?
そう惟って いつの間にか俯いてた顔を上げた。
「 ーーーーーーあれっ?」
素ッ頓狂な声をあげたのは、廊下に シシィの姿がなかったからだ。
さっきまで廊下にいたのに、彼女の小さな姿は 睛に映る場所になかった。
《 今度は、バルコニーか。》
何だか、判った気がした。
シシィが 廊下に出ちゃった経緯が。
廊下からバルコニーへの入口は、昼間は 開けっ放しだ。
って云うか、今は 粗方のドアが開けっ放しになってる。
風を入れる為に、開けてあるんだ。
外に出るのは出来なくても このくらいは赦されると惟うし、赦してほしいし。
そんな訳で、幾つかの窓と 廊下に繋がる綜てのドアが、昼間は 開けてあった。
いつもは 閉めてる時間なんだけど、今日は 開けたままになってた。
俺は、少し足早に廊下を歩いて バルコニーへ出る。
シシィは、バルコニーにいた。
バルコニーの手摺の柱に掴まって、竚ってた。
飾りの施された柱と柱の間から 頭を出して、外の景色に魅入ってる。
そうだよね、高い処からの景色なんか 初めて見るよね。
「ってか、危ない」
バルコニーから身を乗り出してるなんて、危ないよ、自殺行為だよ。
頭 重いんだよ? 乗り出したら 隕ちちゃうよ?
勿論、隕とさせないけど。
でも、旁から見てると 悚いじゃん?
眼の前で ちゅるん とかされたら、って惟うと。
そんな訳で、俺は シシィを後ろから抱っこした。
何度も云うけど、俺だって 幼児な訳だし、そんなに腕とか長くない。
それでも 魔族の強靭な軀の お陰で、力は強い。
実際、シシィを 軽々と抱っこ出来るしね。
これまでは 利点があるなんて惟わなかったけど、今日は いろいろと便利だと実感してる。
《 やっぱり、誰かがいてこその力だよね。》
独りでいる時は こんなの必要だとも惟わないけど。
シシィを援ける事が出来るなら、これは『有り』だよね。
裁縫や料理には 全く必要なかったけど。
頭の片隅で、そんな しょ〜もない事を考えてると、腕の中で シシィが動いた。
もぞもぞと身動きをしたのを感じて、考えに耽り気味の俺は シシィに視線を戻した。
「シシィ?」
俺に擁え上げられてるシシィは、両手と両足を ばたつかせてる。
「外が見たいの?」
さっきみたいに バルコニーの柵から頭を出されるのは困るけど、外を見るくらいは させてあげられる。
俺は、シシィを擁えたまま 柵の上に跳び乗った。
抱き締めたまま、器用に 手摺の上へ座る。
「これで、いい?」
南向きのバルコニーから、昊を見上げる。
森の奥に沈んだ夕陽の残照が、西の昊を 赤く染めてる。
東からは 夜がやってきてて、空の半分を 藍色に塗り潰してる。
毎日 見てる景色だけど、今日は 凄く綺麗に見える。
《 同じ昊でも、こうしてると 全然 違って見えるんだなぁ。》
いつもは、もっと空虚に見えてたのに。
哀しくて 淋しくて、夕暮れ時の昊は 嫌いだったのに。
《 今日は、本当に 綺麗だ。》
でも、それよりも 腕の中の温かさが嬉しかった。
シシィの重さも 体温も、感じる程 嬉しさが募る。
こう云うの、なんて表現すれば いいんだろう。
『倖せ』なんかじゃなくて、もっと ずっと深い言葉。
今の俺には、相応しい言葉が惟い付かないけど。
凄く、凄く 倖せだ。
《 俺、このまま 死んじゃうんじゃないかな。》
今日-1日で 倖せになりすぎじゃないだろうか。
こう云うのって『しぼうふらぐ』とか言うんじゃないか?
俺の中の男の記憶に、そんなのがあったけど。
おまけに、そいつは そう云う状況で、本当に死んだみたいだし。
《 シャレにならないよ。》
倖せになった途端 死ぬとか、有り得ない。
倖せになるまえも 有り得ないけど、なってからは もっと厭だ。
愉しい事は、永く続かなきゃ。
《 折角 出会えたんだ………ずっと、ずっと 一緒に。》
美しい昊が 夜に染まってくのを シシィと眺めながら、俺は 心から そう願ってた。
シシィは 歩けるようになりましたが、まだ 喋りません。
喋るタイミングが掴めません(汗)
どうしましょ…。
今後の展開は、ノリと 勢いで決まります……たぶん。




