12__〔愛し子〕の決断
2日目の朝の続きです。
前半は シシィ目線で、後半は ロキ目線の お話です。
いつも時間がかかって 済みません。
___視点:〔愛し子〕- シシィ___
眼寤めて 暫くは、ベッドの上で じっとしていたシシィだが、啻 ぼんやりしていた訳ではない。
何度か 口を動かし、その度に 神妙な顔をしていた。
声を発しようとして、しかし それが叶わなかったが故の 不満顔だ。
眉を寄せ 小さな口をへの字にし、やや 頬を膨らませている。
『愛らしい』と映る筈のモノだが、怎んせん、シシィが本気で不服そうにしている為『可愛らしい』とは異なる表情になっている。
尤も、虚空を睨んでいる様な 子供らしからぬ睛をしていても、ロキは『可愛い』と言うだろうが。
不機嫌-そのものの顔で 繰り返しチャレンジはしていたが、一向に声は出ない。
「 ………… 」
やおら、シシィは ふわふわのベッドの上に竚った。
表情は、先程よりも険しい。
どうやら、声を出す事は 諦めたらしい。
昨日-半日で鍛え上げた バランス感覚で、シーツやら 掛け布団やらの上を歩く。
そして、ベッドの端へ往くと 躇う事なく跳び降りた。
乳児から幼児へ 超速で成長したとは云え、シシィは 産まれて4ヶ月の子供だ。
頑丈で豪奢な造りのベッド台は 床から70センチあり、その上に敷かれたマットレスは 35センチの厚みがある。
つまりは、床から 100センチ以上の高さがある。
これは、シシィの身長を上回る高さだ。
其処から跳ぶなど、20時間前まで 竚ち上がった事もなかった、生後-4ヶ月の 人間の子供がやる事ではない。
更に、幼児の体型は、手足は 小さく短く、比率からして 頭は大きい。
直立して動く生物としては 非常にバランスの悪い体型で、何もない場所であっても 前にも後ろにも転び易いのだ。
自分の身長よりも高い場所から 硬い床へ跳び降りる。
ロキがいたら 大騒ぎしそうな行為を、シシィは やった。
趾から着地したのは、流石と云えよう。
だが と云うか、やはり と云うか。
体型に因るバランスの悪さは、昨日-今日の歩行経験では補えなかった。
床に着地したシシィは、跳び降りた勢いを殺す事が出来ず 前舒めりに転んだ。
艶やかな黒髪は 放射線状に拡がり、短い両腕は 咄嗟に伸ばされ、前傾の勢いを殺せなかった 小さな軀は、洌い床に打ち付けられた。
「 ………… 」
シシィは、ベッドから跳び降り べしゃりと転んだまま、動かなかった。
両手・両足は 伸ばされたまま、額を 床に付けたままの状態だ。
初夏とは云え、朝夕の気温は まだ低い。
そして、石造りの城と云うのは 室内気温も低くなる。
特に 床は、素足で歩くには適さない程 洌い。
其処に、突っ伏す様に転んだのだ。
硬さも 洌さも、泣き出すに値するモノだっただろう。
しかし、シシィは 泣かなかった。
むくり と上体を起こすと、憮然とした諷な表情で 竚ち上がった。
乱れた前髪の間から見える額も 小さめな鼻の頭も、赤くなっている。
それでも、淡い紅藤色の瞳に 泪が浮く事はない。
何故、惟った様に動けないのか。
そんな疑問と不満が滲み出てはいるが、彼女は これ等の問題点をクローズアップする事を 後回しにしたのだろう。
圓らな瞳は 進むべき先を振り仰ぎ、寝室のドアへ 走った。
勿論、小さな幼児である彼女だ。走る と云っても、速くはない。
それ攸か、走っている速度ではない。
だが、本人は 本気だ。
全力疾走の回転数で、懸命に 脚を動かしている。
まぁ、速度云々は 然て措き、数10歩と進んで 寝室のドアに辿り着いた。
此処で 難関となったのが、扉の開閉だった。
シシィの身長は、凡そ 95センチ。
これに対して、取手は 120センチの高さに取り付けられている。
その差-25センチだが、この 25センチが難関なのだ。
幼児の手足は 小さくて短い。
精一杯 背伸びをしても、趾が小さい為 大して足しにはなっていない。
手も小さいので、ドアに凭れる様にしながら 指先まで伸ばしても、届かない。届きそうにない。
「 ………… 」
シシィは、4ヶ月の人生で 最大に不満そうな顔になった。
このままでは、この関門は突破出来そうにない。
背伸びをしてみる。
指先から 10センチ以上 離れた高みに、取手はある。
シシィは、精一杯 爪先立ちをした。
そして、数秒で 無理だと悟った。
一瞬、ジャンプしてみようかと惟ったが、すぐに それも無駄だろう と結論付けた。
強化されたとは云え、シシィの運動能力は 人間の3歳児よりも下だ。
跳んだ攸で、何センチも跳び上がれないだろう。
自身の身体能力を 正確に分析して、シシィは 考えた。
この部屋に 椅子の様なモノはない。
あったとしても、今のシシィの力では 持ち搬ぶ事が出来ない。
では、諦めるのか。
この選択だけは、彼女の中で有り得ない。
そうなれば、選択肢は 1っだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:東の魔王 - ロキ___
ロキは、巨大な森の一郭を とことこと歩いていた。
此処は、北の塔から4キロ程 北に進んだ場所だ。
大木の根元を歩きながら、ロキは 睛を凝らしていた。
時折 頭上へも視線を向けるが、その表情は渋い。
「 ーーーーーーないな〜ぁ」
背負っている籠の中には、僅かな野草が入っているだけだ。
《 結構 歩いたのに、ないなぁ。》
北の塔に近いとは云え、この森に生命がない訳ではない。
ロキの魔力が届く範囲であるが、アクリスがいた様に 他の動物達もいるし、木々も 逞しく生きている。
実が生っている樹もあれば、柔らかそうな若芽を孳らせている野草もある。
しかし、魔力を通した眼で見ると、致死性の毒が ふんだんに含まれているのが視えるのだ。
而も、どれも これも、浄化など出来そうにない程の 猛毒だらけだ。
自分でも 耐えられそうにない毒だ。
シシィに こんなモノを喰べさせるなど、論外である。
漸く見付けたのが、一掴みの野草だった。
《 そろそろ 戻らないと、なのに………。》
籠に入れた野草は、カラスノエンドウの様な丸い葉と 莢付きの実をした植物だ。
灰汁はあるものの、それさえ何とかすれば 喰べられなくはない。
そう判断して、貴重な食糧を摘み採ったのだ。
しかし、これを最後に 食用になりそうな植物が見付からないのだ。
「何でも かんでも、毒があるんだもんなぁ」
アクリスは、一体 何を喰べていたのだろうか、などと考えながら 只管 探し廻る。
喰べられそうな植物も見付からないが、真っ先に仆したアクリス以外の動物も 見掛けていない。
尤も、こちらは ロキを避けて 遠退いている為でもあるのだが。
《 …………諦めるか。》
そろそろ戻らないと、シシィが起きてしまう。
アクリスを捌く時間も考慮すれば、切り上げ時だ。
「しょ〜がない」
大きく息を咐いて、ロキは 天を仰いだ。
子供の視点から見上げる 彼方の梢と、其処から零れ隕ちる 木洩れ陽に、悔しげな睛を向けた。
最も簡単にアクリスを狩れただけに、少々 楽観視していた様だ。
北の塔を出るまでは『喰べれそうな野草の 1っでも』と惟っていたのに、惟いの外 巨大な獲物を狩れた瞬間、意識が変わってしまった。
《 世の中、そんなに旨く いかないよね。》
再び 大きな溜息を零して、ロキは 肩の力を落とした。
いや、落とそうと した。
「 ––––––––––––っ⁈ 」
ロキは、溜息を吐き出し切る直前に 鋭く息を飲んで、振り返った。
野草や木の実を探していると同時に 毒の鑑定もしていた為、ロキの探査範囲は 酷く狭まっていた。
距離で云うと、半径2キロにも充たない範囲を 重点的に検索していた。
その為、気付かなかったのだ。
「うそっ、なんで⁉︎ 」
そう言うが早いか、ロキは駆け出していた。
前回 書いた様に、この後の展開に困っていたりします。
まぁ、何とかなるでしょう。
………たぶん(汗)




