7.
*
午後六時半
「これでいい?」
「じゅーぶん!」
ガリガリ、と音を立てて、「ラン」と「みい」は、瀬戸田が皿に用意したそれぞれの夕食を食べている。普段なら、これから僕が、僕と瀬戸田の分の夕食の用意をするところだが、今日は疲れたので、お弁当を家の近くのスーパーで調達した。魚が食べたい、と言った瀬戸田には鮭弁当を、僕は明太子パスタと唐揚げを選んだ。
「あ、唐揚げ一個ちょうだい」
「どうぞ。一個でも二個でも三個でも」
「三個だったら千春の分の方が少なくなるじゃん。だから一個でいいの」
「お好きに」
それらを一通り電子レンジで加熱し、箸は家にあるものを使う。唐揚げをお皿に移して温め終えると同時に、食器の用意をしてくれていた瀬戸田が冷蔵庫を開けた。
「ビール?」
「ビール」
「あいよー」
僕も彼も、お酒はよく飲む人だった。冷蔵庫には常にビールやリキュールがストックされている。理想を言えば、飲み過ぎを防ぐために、飲む分だけ冷やしておくのがいいそうだが、そんな暇がない僕たちは、週末に買いだめしたお酒は、すべて買ってすぐ冷蔵庫に入れていた。
「はい、今日もお疲れ様」
「お疲れ」
「かんぱーい!」
「乾杯」
夏なので、余計にその味は五臓六腑に染み渡る。最近の若者は、あまりビールを好まず、飲んでも薄いものばかりだと、年齢がまったく読み取れない所長は飲みに行ったときに嘆いていたが、僕は前の職場の同僚に、瀬戸田は所長に、それぞれ昔ながらのラガービールを教え込まれ、それ以外のビールはあまり飲まない。
「あー、何か久しぶりに忙しくなる予感だね」
「おおごとになりそうなのか」
「だと思うよ? まあ、あまり僕たちが忙しくてもいけないんだけど」
そういう時は、世の中によくないことが起きているときだからさ、と彼は付け加える。
そうだ、僕たちの仕事は「通常この世の中ではありえないこと」を調べること。不倫調査や、迷い犬・迷い猫などの捜索といった、探偵業みたいなこともするが(その方面での許可もうちの事務所は持っている)、本業である超常現象や異能力が絡む事案に向き合うときは、大抵それは人類に対して有益ではなく、むしろ今回の件のように害を及ぼす案件であることが多い。その辺は複雑である。
「……その辺の特別な警察みたいなものだと思っていればいいんじゃないか」
「まあね。それは、そうなんだけど」
瀬戸田の飲むペースは速い。にも関わらず、酔った顔をなかなかしないから不思議なものである。
「でさ、今回の件なんだけど」
「うん」
「一筋縄では行かない気がする」
「……急にどうした」
この男は、本当に仕事が好きな人である。僕は仕事以外の時間に仕事の話をするのは好きではないが、彼は平気でしてくる。親友なので、今はその話をしたくない、とも言えず。
「んー、勘ってやつ?」
「超能力か」
「さあね。おれも自分が持ってるそれ、超能力かどうかってのはよく分からないし。所長は『十分に超能力者だ』って言ってくれるけどさ」
「それは魔法学的分析において、じゃないのか」
「どうなんだろうね。確かにそれは得意だけど、そこに直感まで含まれるかどうかは分からないかな」
誠に面倒くさい男である。確かに、彼はいわゆる「魔法」のようなものを感じ取れるというし、実際に僕もその現場に遭遇しているので否定できない。それとこれとはまた別、なのかもしれない、が。




