8.
「で、仕事の話なんだけど」
「どうかしたの」
「あのブロック――まあ、とりあえずそう呼ぶことにするけどさ、新宿で爆発したのに、八王子まで飛んで来たじゃない?」
「まあ、そうだけど」
「あれ、それなりに重さあるよね? 火山の軽石とか、火山灰とかだったら、それぐらいの距離を飛んでもおかしくはないけど、あの重さがあそこからここまで飛んでくるってことは……あ、軽石って分かるよね?」
確かに、あれは高校の授業で手に取ったことがある軽石よりは遥かに重かった。錘、とまではいかないが、「あ、それなりに重いな」という程度には重量を感じた。
「僕も地学は取ってたけど……って、君、地学の時はいつも隣の席だったじゃないか」
「そうだけどさ、覚えてるかなーって」
「僕はそこまでバカじゃないけど」
「わ、珍しく言うねえ。ま、分かるならいいの。あの重さが、あれだけの距離を飛ぶことは通常ありえない……つまり」
「つまり?」
彼は身をずいっと乗り出してくる。その速度と圧力に、僕は思わず、缶ビールを左手に持ったままのけ反った。
「もしこれが、宇宙人の仕業で、超常現象だとしたら、全国、いや、全世界にそれが散らばっていてもおかしくない」
「……そこまでか?」
「予想だよ、よ・そ・う」
彼は元の姿勢に戻ってから、僕よりも先に缶ビールを飲み干した。僕はゆっくりと自分の分のそれを飲み、唐揚げに箸を伸ばす。結局瀬戸田には唐揚げを二つあげた。
「僕たちは宇宙人に試されてるんだよ。宇宙人があのビルに何か仕掛けて、爆発させて、その弾みでメッセージを一文字ずつ書いたブロックをあちこちに飛ばす。それを僕たちが見つけて、組み合わせて解読して、解読した結果を見てどうするか」
「そもそも宇宙人なんかいるのか」
「おれは信じてるよ? 地球外生命体。まあ、犯人捜しももちろん大事なんだけどさ、一筋縄で行かなさそうって言ったポイントは二つ。ブロックをすべて集められるか、解読した結果に人類がどう反応するか」
「随分とスケールの大きい話だな」
「だから『人類が』試されてるって言ったの。僕たちとか、警察とかだけが、じゃなくて。ブロック集めに人々が団結できるか? 解読したメッセージに対して、意志を一致させて応答できるか? それが今の人類にどれぐらいできるか、その辺を宇宙人は見たいんじゃないかな」
突飛なところもあるが、なるほどと思ってしまう部分もある。この問題を仕掛けた相手はともかく、それに対して、人類はどう対処するのか。それが一番の問題だ。そこまでは僕も簡単に思慮は及ばない、そこは彼の方が経験や力量的には上なのかもしれない。
「まあ、面白い話として聞いてはおくが……」
明太子パスタを啜って、囓りかけの唐揚げを一口、食べようとしたところで、瀬戸田の鋭い視線に気付いた。彼がそんな表情をするとは珍しい。
「ただの面白い話じゃないっての。これは本当に起こりえることなの」
ああ、そうなんだ、と、切り捨てることもできた。僕はこんな組織に身を置いているとはいえ、まだまだその方面には疎いし、本気になれない部分もある。とりあえず、次のいい仕事が見つかるまでの食いつなぎだと考えている側面もある。実際、これでも他の仕事をこっそり探しているが、僕の奇妙な経歴だと採ってくれる会社は少ないだろうと、半分諦めもある。
だが、彼の言葉は、彼の視線は、その内容に常識からずれたところがあるにしても、至って真剣だった。高校時代は、こんなに真面目な一面があるような人ではなかった気がするが、月日が彼を変えたのだろうか。
「……失礼。さっきの言葉は撤回する」
「それでいいの。千春は黙っておれの助手として付いてきたらいいの」
「直接所長から命令を受けたのは僕なんだけど」
「それは表向き。所長は心配だから、おれを付けたの。分かる?」
「……分かった」
言いくるめられてしまった感じが否めないが、この瀬戸田の家に住まわせてもらっているというのもある、当面彼に仕事の件で楯突くことはやめておくことにした。




