19.
瀬戸田が僕を見てくるが、残念ながら僕も答えを持ち合わせていなかったので、首を振った。僕もプラス記号やマイナス記号については知っていたが、確かに言われてみれば、掛け算の記号や割り算の記号が、それ単独でどう読むのかについては、教わった覚えがない。
「……えーと、恵里菜ちゃん、悪いんだけど、おれたち、その答えが分からないの。だから、一緒に調べてみようか」
「うんっ!」
なるほど、そういう方面に持っていけばいいのか。彼はまた自分の部屋に入り、タブレット端末を持ってきた。仕事では使っていないが、趣味の日曜大工の時に、いつも側に置いて色々と確認するのに使っているものである。
「えーと、これの使い方、分かる?」
そういえば、彼女は父が多忙なため、一年生の時から携帯電話を持たされているというが、先日見せてもらったそれは、いわゆる「ガラケー」だった。
「ううん、分からない」
「じゃあ、これの使い方も勉強しよっか」
「うんっ!」
時代はプログラミング必修化である。まだそれには早いが、様々な電子機器に触れさせておくのも悪くないだろう。
瀬戸田はまず、パスワードの重要性から教え、次にブラウザを開き、検索窓の位置を知らせたが、彼女は自分専用のパソコンは自宅で持っているという、瀬戸田のアドバイスに従って、「掛け算 記号 読み方」とキーワードを入力した。
実際、調べてみると、「×」の記号には、色々な読み方があるようだった。「バツ」でもよく、「ペケ」でもいい。「÷」の記号は「割る」でいいらしい。「÷」という記号以外にも、分数の存在や、割り算でスラッシュを使う国や場面があることも勉強になったようだ。
「じゃあ、工作に戻ろっか」
「はあい」
僕は投影見本も載っている説明書の、組み立てのページを開いた。説明書には漢字が多くある、彼女は僕たちの力も少しだけ借りて、それを解読する。彼女自身がペンを取り、分からない漢字にはふりがなを振って。そして、最初の手順で使う二つの部品を間違いなく、発泡スチロールの容器から取り出した。
「これを、こうして……えっと、この部品を、これにセットするの?」
「そうだね」
瀬戸田は決して手を出さない。助言だけして、組み立ては彼女に任せる。まるで本当の親のようである。
そして、三番目の手順で、ネジをドライバーで止めていく必要が出てきた。ここで瀬戸田は、トイレに行くと言い出した。きっとわざとだろう。僕はここまで、漢字の読み方を教えること以外、ほとんど何もしていないのだから。
「……この、ネジを止める時に、プラスドライバーを使う。えっと、このネジか。溝がプラスの形になっているから、プラスの方を使う」
「うん」
ネジはとても小さい。僕は小さい方のプラスドライバーをその溝に試しに当て、サイズが合うことを確認した。
「まず、僕が一つ、やってみるから、よく見てて」
「はあい」
三箇所の止める場所のうち、一つのネジ穴にネジを入れ、ドライバーで回していく。立っている僕たちの足元にランが纏わり付いてくるが、彼女もそれには目もくれず、熱心な視線を感じる。
――将来有望、か。
僕がこれぐらいの年の時には、自分は何をしていただろうか。少し年齢が上の子供向けの本は読んでいた気はするが、図画工作に関しては年齢並みだっただろう。釘を打つことぐらいは覚えたかもしれないが。
「やってみる?」
「うんっ!」
彼女はネジを一つ取り、ネジ穴に当てて、僕が渡したドライバーをネジの溝に合わせて、ゆっくりと回していく。途中、瀬戸田が戻ってきたが、顔を上げて彼の姿を確認することなく、途中外れながらも、ゆっくりと、彼女のペースで奥に押し込んでいく。最後に、ネジを止めた部品を逆さまにする。ネジは落ちてこなかった。彼女の顔に笑顔が広がる。
「できた!」
「そう、それでいいんだ」
「いいじゃん!」
僕は子供の褒め方がいまいちよく分からないので、その辺はテンションの高い瀬戸田に任せる。彼女はもう一つのネジも止めると、また同じように逆さまにして、ネジが落ちないことを確かめた。
「これでいいの?」
「うん、それでいいよ。それで、次は何をしたらいいのかな?」




