18.
「あ、千春お兄ちゃんも手伝うんだよ!」
「はいはい」
僕は犬や猫に構おうとしたが、恵里菜がそう言うのなら、彼女の側にいなければ。彼女がキットを覆っていたビニールを剥がし、瀬戸田がそこから出てきた説明書に目を通す。
「えーと、まずは、何か必要な道具はないかな……プラスドライバーとはさみがいるんだって。単一電池も二本……これ、あったかなあ」
「電池はこの間コンロに使った残りがあったと」
「あ、そういやそうだったかも。千春、取ってきて。ついでにドライバーとはさみも」
「はいはい」
ここにはもう、居候し始めて約半年になる。瀬戸田もある程度の家事はするが、僕も得意の料理以外にも、よく片付けや掃除をするので、どこに何があるかは、大方把握していた。
台所の引き出しから、乾電池で作動するコンロに使った単一電池の残りを見つける。ちょうど二本あった。
次に、電子レンジを置いている戸棚の引き出しから、はさみを一本と、ドライバーを見つける。このドライバーは、プラスが大小二本、マイナスが一本、それにキリも一本ついたセット品だった。僕がこの部屋に引っ越したとき、家具を組み立てるのに重宝したものである。ネジの大きさがどうなのかはまだ見ていないが、二本あればどちらかは使えるだろう。
「はい、道具はこれだけ?」
「おっけー。あ、恵里菜ちゃん、ドライバーって使ったことある?」
「ううん。どらいばーって、なあに?」
彼女は首を横に振った。小学三年生では、釘をトンカチで打つ体験はしても、ネジをドライバーで締めたり緩めたり、ということはまだ習わないらしい。実は日曜大工が好きな瀬戸田が、三つのドライバーを手に取った。その目が輝いている。自分の子供ではないが、子供と一緒に工作をするというのが楽しみなのだろう。
「ドライバーはね、これのことをいうんだよ。こっち側が持ち手で、先っちょの形が、それぞれ違うんだよ。ほら見て、これとこれ、大きさは違うけど、先っちょが四つに枝分かれしているのが、『プラスドライバー』」
「ぷらす、って、なあに?」
「えーと、そうだね……えーとね、恵里菜ちゃん、足し算をするときに、数字と数字の間に、線を二つ組み合わせた、こんな記号を使うよね」
「うん」
彼は急いで紙とペンを自室から持ってきて、適当な数字二つ――『8』と『5』を書き、その真ん中に『+』の記号を書き入れた。
「この『足す』記号のことをね、『プラス』とも言うんだよ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、八、プラス、五は、十三! ってことだよね」
「そうそうそう、えらいえらい!! じゃあ、もう一つはその逆だね。こっちの一個しかないドライバー、これは『プラス』の反対になるんだよ」
「引き算に使う、横の線ってこと?」
彼はまた、式を紙に書く。実に楽しそうである、彼は教員に向いているのではないだろうか。あるいは、こんなに丁寧に教えられるのならば、家庭教師でも良さそうな気がする。こんな、稼ぎはいいけど、危なかったり、予想外のことが起こるような職場にいるよりは。
「そ、そういうこと。これは、『マイナス』っていう形をしているから、『マイナスドライバー』って言うんだ。引き算の『引く』のところだね。じゃあ、八、マイナス、五は、いくらになるかな」
「三!」
「正解! いいね、その調子。今回は、このマイナスドライバーさんの出番はないようだから、このプラスドライバーさんを使ってみようか」
「うん! あ、でも、一つ質問」
「お、まだ他に気になることがあるかな」
すると、彼女は瀬戸田が持っていたボールペンを手にとって、紙に掛け算の記号、『×』と、割り算の記号、『÷』を書いた。
「『足す』、の記号は『プラス』って読んで、『引く』、の記号は『マイナス』って読むんだよね。じゃあ、『掛ける』と『割る』ていうときに使うこの記号は、そのままでは何て読むの?」
僕は、そこまで考えが及ぶことに脱帽した。確かに、自分の本来いるべき学年より上のレベルの教材をこなす頭脳を持つとは聞いていたが、ドライバーの『プラス』と『マイナス』について知ったところから、掛け算や割り算の記号についてまで、その思索が及ぶとは。




