15.
瀬戸田曰く、あれほど大きな爆発になったのは、黒いマットの上にサンプルを置いていたとはいえ、欠片の振動がマットの下の、敷き詰められたような状態の小さな欠片に伝わり、それが背後の欠片の山に伝播したのではないか、という。
あの爆発でまたメディアが騒ぎ、カメラやマイクを執拗に向けられたが、所長は相手にしなくていい、と言い、彼自ら車を出して高田馬場まで迎えに来てくれた。
ちなみに、瀬戸田が「エリクサー」と称して飲んでいたのは、トカイワイン、それも非常に甘いので、匙で一口だけ飲むので有名なエッセンシアだった。曰く、以前に同じ魔術を使ってへとへとになったときに、たまたま所長がヨーロッパ旅行から持って帰ってきたそれを飲むと、一晩で回復したので、以来一回分を常に持ち歩いているという。
「それで、これからどうすれば」
欠片は現場から持ち帰った。だが、あの現場の具合を見ると、瀬戸田も「爆発の危険がある調査方法はできない」と、膝上に乗ってきたランの背中を撫でながら言う。
「あの、午前中に調べて粉々になったやつもさあ、もう一度同じ方法で調べたいのは山々なんだけど、もっと酷いことになる可能性もあるし、それを誤って吸い込んでも大丈夫なのかの保証はないし。もう僕たち吸い込んじゃってるけど」
「つまり、あれはダークマターなのか」
「そうかもしれないし、もちろんそうでないかもしれない。いずれにしても、調べられるのを拒んでいる感じだから、仮にどこかの他の研究所に持ち込んだりしても難しいんじゃないかな。そこでまた爆発したら、その可能性があると知っていて持ち込んだこちらの責任になってしまうし」
彼は元々、これ以上調べる気がなかったかのように流暢に言う。僕にはまだその辺の考えを短い間にまとめる力が足りない。
「……それなら、正体不明のまま置いておくしかないのか」
「そーゆーこと。どっちにしても、解析はほぼ不可能。そういう仕掛けを作った人を特定しなきゃだけど、まあ、普通の人ではないよね。おれみたいな超能力者か、それとも未知の生命体か。あ、千春」
「何」
「ケーサツからメール入ってない? 今日の件もそうだけど、新しい『キューブ』が見つかった情報とか」
「見てみる」
時刻は午後四時。今回のような危険な現場に遭遇することもあるが、タイムカード的には早出、残業は基本的にしなくてよい、一応ホワイトな職場である。わざわざサイフォンを前の職場から持ってきて作り、落ち着くために飲んでいたブラックコーヒーを飲み干して、今日最後になるであろう仕事に取りかかる。
僕専用に割り当てられた、仕事用のメールアドレスの受信箱を開く。新規メールが二件、いずれも警察関係から入っていた。一つは、つい十分前に到着したもの。今日の爆発について、明日は一日雨予報なので、週明けの月曜日にまた現場で話を聞きたい、という内容だった。報道陣が厄介なので、捜査関係者が八王子の事務所まで迎えに来てくれる、とのことだった。
もう一つは、『キューブ』それ自体の収集状況についてだった。昨日、情報求む、の一報を全国に出してから、今日の三時までに、東京や関東一円のみならず、全国で、警察署や交番に、文字と数字の入った『キューブ』が届いたという。その数、約二十四時間で十個。北は北海道から、南は沖縄県まで、北から順に届けられた『キューブ』の数字と平仮名がメールに示されていた。
「恵里菜、昨日書いてくれたのは」
「パパが持ってるよ。――あ、パパ、ちはるお兄ちゃんが呼んでるよ」
「はいはい。どしたの」
「『キューブ』について、昨日恵里菜さんが推理していた紙が見たいのですが。先程、警察の方から、新たに十個の『キューブ』が見つかったのとの情報が入ってきましたので」
「おー、そうかそうか。――ん、これね。書き加えといて」
「はい」




