13.
「はい。もし、同じ解析方法をこの破片に用いて、同じような反応が起きれば、『キューブ』とここにある破片が同じ物質でできている――具体的にその名前はまだ分かりませんが――ことが証明できます。つまり、もしそうであるなら、ここにあったはずのコンクリートや鉄、タイルなどの建築資材がすべて、何らかの超常的な力によって変質させられたということになります」
「超常的な……力……」
その方面には疎い感じの田上さんが、やはりまだ信じられないという表情をする。瀬戸田は言葉を続けた。
「この世界には、まだまだ人類が理解できないことが多くあります。私たちはそれらに興味を持ち、少しでも解明しようと活動しています。その方面に明るくない田上さん、あなたが不審がるのは、少しも不思議なことではありません。ですが、現実に、このようなことが起こる世の中なのです。少し、協力してくれませんか」
彼はマスクとヘルメットをしていても分かる、真剣な表情で彼に語りかけた。僕は彼が、この仕事に対して本気で取り組んでいるのを感じた。彼にとっては、この仕事が天職なのかもしれない。
熱心に説得する瀬戸田に、少しは気を許そうという心持ちになったのか、田上さんは一つ、うなずいた。
「分かりました。お願いします。力を、貸してください」
彼は瀬戸田に右手を差し出し、瀬戸田はその手を握って、大丈夫だ、と視線で言葉を交わす。瀬戸田は警察官の町田さんの方も向いた。彼女の許可も必要だろう。
「それであれば、必要な調査でしょう。本当は午前中に行ったという解析の詳細を聞いてからが望ましいですが、特別に許可します。ビデオでその様子を記録してもよいでしょうか」
「いいですよ」
彼女はトランシーバーを使い、通話を始めた。現場の入り口の警戒をしている運転手役にでも声を掛けているのだろう。まもなく、その人が、ビデオカメラを持ってきた。彼女はそれを受け取り、運転手を警備に戻らせた。
「どうぞ、始めてください」
彼女がビデオカメラを起動し、録画ボタンを押す。瀬戸田はカメラに向かって話し始めた。
「川島社会科学研究所の瀬戸田です。今からこの現場にある破片について成分分析をしたいと思います。もしその結果、このビルに使われていたタイル、コンクリート、鉄骨などの成分が何ら検出されず、『キューブ』と同じように分析中に爆発を起こした場合、未知の物質の可能性があります。爆発の危険がありますので、その兆候が見られた場合は『伏せてください』と言いますので、指示に従ってください。野島、サンプルを」
僕は持ったままでいた破片を、彼に渡した。一つだけではサンプルにするには不十分だからだろう、適当に破片の山から持ってきて、と言われたので、僕はその山の麓から一つ、さらに山の中腹にあったものを一つ取ってきた。どちらも不規則な形をしていた。
「では、後ろにあります、爆発した後に発生した欠片の中から無作為に選んだこの三つを分析にかけたいと思います。分析には何ら道具を使いません。私の超能力を用います」
えっ、と、町田さんの横に並んで立っていた田上さんは声を上げたが、ビデオカメラを構えていた町田さんは微動だにしない。そういう現象に慣れているのだろうか。
「では、一つ目」
僕は近くでメモ帳とペンを持って構える。午前中に『キューブ』に対してしたように、持参していた黒い布を地面に広げ、その上に破片の一つを載せ、欠片の数センチ上に両手をかざし、目を閉じてぶつぶつと何かを唱え始める。彼は『キューブ』が爆発したとき、爆発直前にそれが震えた、と言っていたので、瀬戸田ではなく、解析にかけられている欠片をじっと見る。
すると、彼が唱え終わった直後から、その欠片がひとりでに小刻みに動いているのに気付いた。僕は瀬戸田の肩を叩いた。彼もその様子に気付く。僕も瀬戸田も立って、午前中の解析のような小爆発が起こると思い、欠片から離れようとしたが、瀬戸田が待機している二人に言ったのは、予定通りの警告の言葉ではなかった。
「――外に逃げてください!」
え、と思ったのもつかの間、僕は瀬戸田に手首を掴まれる。導かれるままに走り出した、その瞬間。
『ドドーン!!』
午前中のそれよりも、より激しい、いや、激烈な爆発音。一気に煙に巻かれて、視界がグレー一色になる。前後左右の感覚を失う。急なことに、僕は驚きを通り越した。




