12.
すると田上さんが、一枚の写真を出してきた。そこには立派な、茶色い外壁の一棟のビルが写っていた。
「これが解体直前の姿です。オフィスビルとして様々なオーナーさんに貸していました。建築当時から外壁の色はやや褪せていますが、それでもいい色ははそれなりに保たれていました。耐震基準に合いませんで、耐震工事もできない状態でしたので、これを一旦解体して、新しく建て直しまして、その際に、まだ使える外壁の茶色いタイルは一部使おうと思っていたのですが……その茶色のタイルが一つも見当たらないんです。鉄骨やコンクリート片が見当たらないのもおかしいのですが」
「そうなんですね……」
瀬戸田は、白い物体が山積みになっている部分に近付いた。そして、町田さんから手袋を借り、しゃがみ込んでその欠片を一つ手に取った。僕たちがこれまでに目撃したような、綺麗に形が整った立方体ではなく、不規則な形をしていた。
「その色、コンクリートにしては不自然なんですよね」
「ええ、塗料を塗っている面が白いのは分かるのですが、全体的に真っ白になっているのが不自然ですね。――あの、町田さん、田上さん」
「はい」
「なんでしょう」
彼はその欠片を持ったまま立ち上がり、二人の方向を見た。
「この現場から、不自然に形の整った、しかも黒で文字や数字が記されている立方体が、各地に飛散している、というのはご存じですよね」
「ええ、もちろんです」
「話には聞いております。ですが、にわかに信じられません」
どうやら田上さんは実物を見ていないらしい。僕は数字の『13』と平仮名の『う』と書かれた実物を持っていたので、紙袋からチャック袋に密封していたそれを出して田上さんに見せた。
「これが飛散した物体です。とりあえず、『立方体』と呼んでいるのですが……警察ではこれを何と呼んでいますか」
「私たちの方では『キューブ』と呼んでいます。外国人が拾得する可能性もありますので」
「では、それに倣います。この文字や数字が刻まれた『キューブ』が、この現場の爆発で発生した可能性があります」
数字と文字が書かれているのを彼に確認させる。彼は難しい顔をして、うーんと唸った。
「そんなもの、建てる時に使っていないはずなんですが」
「そこも不自然なポイントです。ですが、この現場で爆発があった直後に、この『キューブ』が、現場のすぐ近くで拾われています」
瀬戸田があの破片を持って、二人の前に立った。僕は彼が何をしようとしているかを何となく察した。
「今朝、同じ形で文字や数字が入っていない『キューブ』を、当研究所で解析しようとしましたが、解析しようとした途端、爆発して粉々になりました」
「え、そうなんですか」
「はい。これが現場の写真です」
瀬戸田は僕に『キューブ』と現場で拾った破片を預け、携帯電話をポケットから出し、少し操作してからその画面を二人に見せた。
「ええ……そうなんですか……」
「あら……えと、その画像は後で頂きたいですし、話も詳しく聞かせほしいのですが、爆発したときにけが人は出ていませんか」
「私と野島とがその部屋にいたのですが、私が危険を察知して『キューブ』から離れましたので、ふたりとも粉を吸い込んで少し咳き込むだけで済みました。なので、それが何からできているのかは、今のところ、まだ解析できていません。コンクリートや鉄以外の物質に、何らかの形で変質している可能性もあります。ですので、ここで一つ、この破片を調べさせてください。ここで解析できるような準備はしてきていますので」
「『キューブ』ではなく、その破片を、ですか」
町田さんは怪訝な顔をしたが、瀬戸田がやろうとしていることを察していた僕は、そうすれば、新しい情報が得られるだろうと気付いていた。




