第一章 9話 朝焼けの決着
「……いい動きだ」
バルサが静かに呟いた。
その声には、先ほどまでとは違う色が混じっていた。
わずかな“本気”。
セレグは構えたまま、微動だにしない。
だが――
(……来る)
内側で、エリカの意識がわずかに揺れる。
(さっきとは……圧が違う……)
「当然だ」
セレグが低く応じる。
「ここからが本番だ……壊れるなよ?」
次の瞬間。
空気が裂けた。
「っ――!!」
見えない刃。
空間そのものが切断される。
セレグは反射で身体を捻る。
だが、完全には避けきれない。
ギィィンッ!!
「……っ!」
肩部の装甲が削れた。
黒い火花が散る。
(装甲が……削れた……!)
「避けたか」
バルサが一歩踏み込む。
その動きは、これまでとは明らかに違う。
重い。
速い。
そして――正確。
「……なるほど」
セレグが小さく呟く。
「さっきまでは遊びか……」
「理解が早いな」
バルサの声が落ちる。
次の瞬間。
連続斬撃。
空間が歪み、切り裂かれる。
セレグは全てを捌く――
だが。
(……エネルギーが……足りない)
動きが、わずかに鈍る。
「来る……!」
エリカの声が内側で響く。
(これ以上は……崩れる……!)
「まだだ」
セレグが踏み込む。
残った力を集中させる。
一閃。
だが――
止められる。
黒い刃が、完全に受け止めた。
「限界の様だな?」
バルサが静かに言った。
次の瞬間。
ドンッ!!
衝撃。
セレグの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
「……っ……」
立ち上がろうとする。
だが、動きが重い。
(もう……無理……!)
エリカの声が震える。
「……まだだ」
セレグが無理やり身体を起こす。
だが――
バルサは、すでに目の前にいた。
「終わりだ」
刃が振り上げられる。
その瞬間――
〝姉さぁあああん!!〝
横から、巨大な影が突っ込んできた。
ドゴォォッ!!
オーク二体。
全力の体当たり。
バルサの動きが、一瞬止まる。
「……っ!」
「今だ!」
セレグが叫ぶ。
残った力を、すべて集める。
一撃。
直撃。
バルサの身体が、わずかに揺れる。
だが――
「邪魔だ」
黒い衝撃が爆発した。
オーク達が吹き飛ぶ。
〝ぐああああっ!!〝
セレグも弾かれる。
だが、即座に立ち上がった。
「……いいタイミングだった」
小さく呟く。
(時間は……稼げた)
その時。
ふと、視界の端が明るくなった。
「……あっ」
東の空が、ゆっくりと白み始めていた。
夜の色が、剥がれていく。
バルサが空を見上げた。
「もう……時間か?」
圧が、消える。
あの圧倒的な気配が、すっと引いた。
「興が削がれたな……」
静かな声。
「今日は……ここまでにしておくか……」
セレグは、ゆっくりと立ち上がる。
「……逃げるのか?」
「違う」
バルサがわずかに笑う。
「また次回だな……」
そのまま、気配が静かに闇に溶けた。
完全な静寂。
セレグは小さく息を吐く。
(……限界だな)
装甲が、音を立てて崩れ始める。
ギィ……ン……
黒い装甲が剥がれ落ちていく。
元の身体へと戻ってゆく……
「……帰るか」
意識が揺らぐ。
空間が歪む。
光が裂ける。
その瞬間――
エリカの意識が、浮かび上がる。
(……終わったの……?)
「ああ」
セレグが静かに答えた。
(ギリギリだ)
次の瞬間。
視界が、白に塗りつぶされた。
――
目を開けると。
そこには、見慣れた白い天井があった。
まるで、何もなかったかのように――




