第四章 8話 天界フルーツの届け先 その2
今日もエリカは、病室でのんびりと過ごしていた――
理由は単純。
エリカのストレスの元になる存在が、今日もいないからだった。
「はあ〜っ……」
ベッドへ身体を預けながら、大きく伸びをする。
「これで、普通に体が動けば……何も問題ないんだけどな〜……」
当然すぎる悩みだった。
一方その頃――
安祐美は、今日もパルミアと、こそこそ話し込んでいた。
『だからね〜?あの果物は、やっぱり植物界でも珍しくて〜……』
「へぇ〜……」
『それでねっ――』
――その時だった。
「戻って来たのだぁーーーっ!!」
突然。
〝ガシャァァァン!!〝
窓を通り抜けて……突き破る勢いで、セルが病室へ飛び込んできた。
「うるさいっ!!」
〝ガコッ!!〝
エリカのツッコミが、綺麗にセルの頭へ炸裂した。
「いったぁぁぁいのだっ!!」
セルは頭を押さえ、その場へうずくまる。
「戻って来たじゃないわよっ!!」
「ここは、あなたの家じゃないのよ!?」
「なんなのだっ!この暴力大王っ!」
「誰が大王よっ!!」
「レディに向かって失礼でしょ!!」
エリカは、再びセルの頭を小突こうとして――ふと止まった。
「……あんた」
「何、その袋?」
セルが、妙に慌てた。
「こっ、これは……!」
慌てて後ろへ隠す。
だが――
セルの身体の方が小さいので、全然隠れない。
「そういう反応すると、余計気になるんだけど?」
「いやっ……これは危険物なのだ!」
「命に関わる可能性すらあるのだ!」
その瞬間。
ふわりと、パルミアが姿を現した。
『……あっ♪』
「ん?」
『それって、天界フルーツじゃない?』
『なんか……同族の気配がする〜♪』
「えっ……」
安祐美の表情が引きつる。
「天界フルーツって……あの猛毒の?」
「ちっ、違うのだ!!」
「これは、その……なんでもないのだ!!」
『え〜っ?見せて見せて〜♪』
パルミアが、面白がるようにセルへ飛びついた。
「わっ!?やめるのだっ!」
その隙だった。
「あっ……も〜らい!」
エリカが、ひょいっと袋を奪い取る。
「ああああぁぁぁーーっ!!」
セルが絶叫した。
「何するのだぁぁぁ!!」
「ちょっと見るくらい、いいでしょ?」
エリカは、袋の中を覗き込む。
そこには――
どこか毒々しい色合いをした、不思議な果実が入っていた。
「うわっ……」
「なによこれ……」
その瞬間だった。
――頭の中へ、突然声が響く。
『あっ♪ お久しぶりです、エリカさん♪』
「えっ……?」
エリカの動きが止まる。
「この声……」
『エルで〜すっ♪』
「げっ……」
エリカが、露骨に嫌そうな顔をした。
「なんで、あなたの声が聞こえるのよ?」
「これ、幻聴?」
『違いますよ〜♪』
『前に、セレグさんの件……お話ししたでしょ?』
「えっ……なんだっけ?」
「だから返すのだぁ!!」
セルが必死に飛びつく。
だが、小さいので全然届かない。
ぴょんぴょん跳ねているだけだった。
『だ・か・ら〜♪』
『セレグさんが、世界から魔族扱いされてる件ですよ〜♪』
「ああ〜……」
「なんか、聞いたような気もするわね……」
『そのフルーツを食べれば〜♪』
『解決するかもしれません♪』
「……うん?」
エリカが、片眉を上げる。
「かも?」
わずかな沈黙。
そして――
『……するかも、しれませんっ♪』
「適当なんじゃないでしょうね!?」
『大丈夫ですよ〜♪』
『多分っ♪』
「多分って言ったぁ!!」
病室へ、エリカのツッコミが響き渡った――。
――その時、
『あっ……はいはい……はいっ、わかってま〜す……それじゃあ……エリカさん!また!』
と、唐突にサマエルはその念話から去った……
自己中の極みだった。




