第四章 6話 天界の新秩序・その3
ガリエルが、ゆっくりと右手を掲げた。
次の瞬間――
議場中央へ、巨大な光の幕が展開される。
空間そのものが、微かに震えていた。
「《メモリアル・オラクル》――起動」
静かな声が響く。
その瞬間。
無数の神聖文字が、空中へ浮かび上がった。
ざわっ……
議場全体が、大きく揺れる。
「まさか……本当に使うつもりか……!?」
「あり得ん……!」
元老院委員達の顔色が、一斉に変わっていた。
《メモリアル・オラクル》。
それは――
強い実行意思を伴った思考接続を、“証拠”として記録する特級機構。
しかも、一度正式記録として保存された情報は、いかなる権限をもってしても改竄不可能。
天界でも、極限られた状況でしか使用されない禁忌級の装置だった。
委員長の額を、冷たい汗が流れる。
「ま、待て……!」
「それは……!」
だが。
ガリエルは、一切反応しない。
《対象照合開始》
《対象――ザリエル元左天使長補佐官》
《関連接続記録――確認》
《実行意思記録――正常保存》
機械とも、生物ともつかぬ声が、議場へ響く。
そして――
《記録を再生します》
その瞬間だった。
――異様な“会議”の様な会話が始まる。
『どういう事だザリエル!』
『説明せよ!』
『急に我々との接点を繋ぐなど……危険すぎる行為だぞ!』
複数の声が響く。
老人のような声。
冷たい声。
怒気を孕んだ声。
その全てが、異様な圧を放っていた。
ざわっ……
傍聴席が揺れる。
元老院との“直接接続”。
それ自体が、極秘事項だった。
『お許しを……元老院元首様』
ザリエルは、内心で静かに頭を下げる。
『しかし、今は千載一遇のチャンスなのです』
『今でしたら……元老院様方のお力をお借りすれば、全てに決着をつける事ができます』
『ぜひ、お力添えを!!』
議場の空気が、凍りついていく。
元老院委員達の顔色が、目に見えて変わっていた。
わずかな沈黙。
そして――
『使っておきながら、何を言っておる』
低い声が響いた。
『始めた以上は……完全にやり遂げよ』
その瞬間――
委員長の顔から、血の気が消えた。
『――――っ!!』
傍聴席から、大きなどよめきが巻き起こる。
「ま、まさか……!」
「元老院が……!?」
「あり得ない……!」
その言葉を最後に。
脳内会議は、唐突に終了した。
《――記録終了》
光の幕が、静かに消えていく。
そして――
議場は、完全な沈黙へ包まれていた。
誰一人として、口を開けない。
ただ一人――
ガリエルだけが、静かに元老院席を見つめていた。
――その時だった、沈黙を貫いていたザリエルが……急に言葉を発した
『待て!俺の審議は終了したはずだ!俺は自分の罪を認めている……』
『これ以上、審議を続ける意味はないはずだ……それとも……』
『俺の刑罰では、その価値が無いと言うのか!!』
突然の叫びだった――
「オラクル・ヴェッセルの戒めを解除するとは……さすがは、ザリエル様ですな……」
仮・委員長がつぶやいた
『兄貴!あんたは……生みの親を落としめるつもりか!!』
ガリエルは、無表情だった……




