第四章 5話 天界の新秩序・その2
「では……その内容を、お聞かせ願えますかな?」
委員長が、慎重に問いかける。
ガリエルは、静かに一礼した。
「はい……」
「ザリエルの反逆行為につきまして、協力者の存在が確認されております」
議場が、ざわつく。
「協力者……?」
「左様にございます」
「ならば、その者の審議を後日行えば良いのでは?」
「はい……しかしながら」
ガリエルは、静かに議場を見渡した。
「その者は、本日この場へ出席しております」
空気が変わる。
「元老院の皆様も……」
「本日、まとめて審議を終えたいと、お考えではないかと存じます」
「ふっ……」
委員長が、薄く笑う。
「何を馬鹿な事を……」
「話にならぬ」
その瞬間。
ガリエルは、静かに委員長を指差した。
「――その協力者が、あなたであってもですか?」
空気が凍った。
「なっ……!?」
委員長が、思わず立ち上がる。
「何をほざいておる!!」
怒声が響く。
しかし次の瞬間――
委員長は、周囲の視線に気づいた。
わずかな沈黙。
そして、気まずそうに再び腰を下ろす。
「……それは、いくら天使長のあなたでも……」
「職権を逸脱しているのではないかな?」
ガリエルは、表情を変えない。
「はい……」
「しかしながら――」
「元老院の方々も、それを望んでおられるようですが?」
「……何?」
委員長の眉が動く。
ガリエルは、静かに議場を見渡した。
「恐れ入りますが……」
「関連審議を希望される方は、挙手をお願い致します」
「何を馬鹿な――」
委員長の言葉が止まる。
次々と。
元老院委員達の手が、静かに上がり始めた。
一本。
二本。
三本――
やがて、その数は過半数を遥かに超えていた。
ざわっ……
傍聴席が、大きく揺れる。
「な、なんだ……これは……」
委員長の顔が、引き攣る。
その時だった。
一人の大柄な委員が、静かに立ち上がった。
「僭越ながら……」
「この後の進行は、私が務めさせていただきます」
低く重い声。
議場が、一気に静まり返る。
「申し訳ございませんが……」
「疑惑が浮上した以上、たとえ委員長であろうと、審議対象となっていただきます」
「ご理解いただけますかな?」
委員長は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
そして――
「ならば……!」
場にそぐわぬ大声が響く。
「証拠があるというのなら、今すぐ開示したまえ!!」
議場へ、重苦しい沈黙が落ちる。
新たな仮委員長は、静かにガリエルへ視線を向けた。
「それでは、天使長ガリエル――」
「証拠物件の開示を、お願い致します」
「承知致しました」
ガリエルは、静かに前へ歩み出る。
その瞳には、一切の揺らぎがなかった。
「これより開示するのは――」
「天界特級記録機構」
「《メモリアル・オラクル》による記録です」
――その瞬間。
議場全体が、凍りついた。
「なっ……!?」
「まさか……!」
「あり得ん……!」
元老院委員達の顔色が、一斉に変わる。
傍聴席からも、激しいどよめきが巻き起こった。
《メモリアル・オラクル》――
それは、天界でも極限られた条件下でのみ使用を許される、特級記録機構。
強い実行意志を伴った思考接続を、“証拠”として保存する禁忌級の装置だった。
そして――
一度、正式記録として刻まれた情報は、いかなる権限をもってしても改竄できない。
委員長の顔から、血の気が消えていく。
ガリエルは、そんな様子を静かに見つめながら――
ゆっくりと、告げた。
「それでは――」
「記録を再生致します」




