第四章 4話 天界の新秩序
ザリエルの審議が始まった――
巨大な議場の中央。
そこには、元老院・委員長を中心として、三十名あまりの元老院委員達が静かに座していた。
その周囲を囲むように、無数の傍聴席が並んでいる。
しかし――
今回は、その席がほぼ埋まっていた。
神人。
天人。
下級天使。
さらには、普段は議場へ近づく事すら許されない者達まで、この異例の裁判を見届けようとしていたのだ。
重苦しい緊張感が、空間全体を支配していた。
コンコン……
静寂を打つように、小さな音が響く。
「ただ今より――」
「被告人、ザリエル元天使長補佐の審議へ入る……」
委員長の低い声が、議場へ静かに広がった。
「傍聴の者は、静粛を旨とし……」
「審議の妨げとならぬよう、心掛けるように……」
誰一人、口を開かない。
「では――罪状の読み上げを」
その言葉を受け、一人の委員が立ち上がった。
「被告人――ザリエル元左天使長補佐官は……」
「右天使長補佐官、サマエル天使長補佐を、人間界特別視察の際に亡き者としようと画策……」
「それにより――天界への反逆行為を行った疑いが持たれております」
静かな声。
しかし、その内容は重い。
議場に、ざわり……と小さなどよめきが広がった。
「証拠物件の開示を」
次の瞬間。
議場正面に、巨大な光の幕が展開される。
そこへ、複数の映像記録と証拠資料が映し出された。
ざわ……
ざわざわ……
傍聴席から、抑えきれぬ動揺が漏れる。
コンコン……
「静粛に」
委員長の一言で、空気が再び静まった。
「弁護側から、弁明は?」
視線が、弁護担当委員へ向けられる。
しかし――
「……ございません」
短い返答だった。
その瞬間。
議場の空気が、わずかに揺れた。
ざわ……
今度のざわめきに対し、委員長は静粛を促さなかった。
それだけで、異常さが伝わる。
「では――」
「被告人から、申開きはあるか?」
議場中央。
そこには、《神託の壺》が静かに安置されていた。
純白の壺。
表面には、無数の神聖文字が刻まれている。
内部へ納められた存在は、許可を得た場合のみ発言を許される。
だが――
ザリエルは、何も語らなかった。
沈黙。
ただ、それだけが返ってくる。
「……うむ」
委員長は、静かに目を閉じた。
「これにて――罪状は確定」
その瞬間だった。
「少々、お待ちいただけますか?」
静かな声が、議場へ響いた。
空気が変わる。
視線が、一斉に声の主へ集まった。
そこに立っていたのは――
天使長、ガリエル。
「ガリエル天使長……」
委員長が、わずかに眉をひそめる。
「もちろん、あなたにも発言権は存在する……」
「しかし、理解しておられるな?」
「身内の審議においては、原則として参加資格を持たぬ事を……」
ガリエルは、静かに一礼した。
「もちろん、承知しております」
「ですが――」
「私が申し上げたいのは、ザリエル個人への異議ではございません」
その瞳は、静かだった。
だが――
どこか異様な圧がある。
「関連審議の申請を、お願いしたく存じます」
――その瞬間。
議場全体が、大きくざわめいた。
「なっ……!?」
「関連審議だと……?」
傍聴席が、一気に騒然となる。
コンコンコン!!
「静粛に!!」
委員長の声が響く。
だが、ざわめきは収まらない。
「関連審議……だと?」
委員長の目が、鋭く細められる。
ガリエルは、静かに答えた。
「左様にございます」
その瞬間――
誰もが理解した。
これは、単なるザリエル裁判では終わらない。
ここから――
天界そのものを揺るがす波乱が始まろうとしていた――。




