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第四章 3話 天界フルーツの届け先


天界は――異様な慌ただしさに包まれていた。


それも当然だった。


本来、裁く側であるはずの天使長補佐――ザリエルが、今回は“被告人”として裁かれる事になったのだから。


普段、元老院主導で行われる議会に、傍聴希望者などほとんど存在しない。


しかし今回は違った。


神人、天人、下級天使達までが殺到し、議会周辺は騒然としていた。


その対応に追われているのが、数少ない見習い天使達だった。


当然――セルも、その中の一人である。


「まったく……とんでもない事態になったものなのだ……」


セルは、山のような書類を抱えながら、傍聴希望者の確認作業に追われていた。


「次なのだ!」


一人ずつ、書類と顔を照らし合わせる。


「氏名!」


「所属!」


「許可証!」


ピシッと指を突きつけながら、セルは妙に偉そうだった。


だが、その時――


ペシッ!


突然、後頭部を叩かれた。


「誰だっ! セル様の頭を気軽に叩く愚か者は!!」


勢いよく振り返る。


そして――固まった。


「……あっ」


そこに立っていたのは、サマエルだった。


「あら……ごめんなさい?」


「忙しかった?」


柔らかい笑顔。


しかしセルの顔色は、一瞬で真っ青になっていた。


「あっ……こ、これは……サマエル様……」


「な、何か御用でしょうか……?」


「うん、急用なの!」


「えっ……きゅ、急用……?」


セルの目が泳ぐ。


「あの……い、今……し、仕事が……」


するとサマエルは、小さく首を傾げた。


「えっ?」


「でも、あなた……私から直接お仕事を貰えて、すごく喜んでたって聞いたけど……」


「私の勘違いだったのかな?」


「もしかして、迷惑だった?」


セルの背筋が凍る。


「あっ、いえっ!! とんでもございません!!」


「むしろ光栄であります!!」


セルは勢いよく敬礼した。


だがサマエルは、さらに優しく微笑む。


「そう……よかった」


「じゃあ、あの見習い天使……処罰しなくてもいいわね?!」


「えっ」


「あっ……いや、その……誰がそんな事を……?」


「えっ……あなたの……お友達?」


「い、いえっ!!あ……そうです!!」


セルはさらに真っ青になった。


「あのっ!で、では……何をすればよろしいのでしょうか!?」


ビシッ!!


再び敬礼。


「えっ、いいの?」


「なんか悪いわね?」


「とんでもございません!!」


セルの声が裏返った。


するとサマエルは、綺麗な袋を取り出した。


「これをね?」


「エリカちゃんに届けて欲しいの!」


袋の中には――毒々しい色をした果実が入っていた。


セルの表情が引きつる。


その視線が、果実へ吸い寄せられる。


(あっ……ヤバいやつなのだ……)


本能がそう告げていた。


「あ、あのぅ……」


「サマエル様は、あのバカエリカと仲がよろしかったのでは……?」


「うん?」


サマエルは、不思議そうに首を傾げた。


「そうよ?」


「それが何か?」


「いや……こんなものを……」


セルは、恐る恐る果実を見る。


サマエルの目が、少しだけ細くなった。


「……何か問題でも?」


「いっ、いえっ!!」


「承知致しました!!」


セルは反射的に敬礼した。


「そっ、じやあ……お願いねっ!」


サマエルは満面の笑みを浮かべる。


そして次の瞬間。


「じゃあ、それ頂戴!」


「あっ」


セルが抱えていた書類を、サマエルがひょいっと奪った。


「そこの見習い君〜♪」


近くを走り回っていた別の見習い天使が、ビクッと反応する。


「これ、お願い♪」


大量の書類を押し付けるサマエル。


「あっ……はい! 承知致しました!」


笑顔で受け取る見習い天使。


その後ろで――


セルは、泣きそうな顔で両手を合わせていた。


(すまんのだ……!!)


しかし。


見習い天使は、笑顔のまま――目だけでセルを殺しに来ていた。


「引き受けてくれるって♪」


サマエルは、嬉しそうに振り返った。


「よ、よかったです、のだ……」


セルは乾いた笑みを浮かべる。


こうしてセルは――


得体の知れない“天界フルーツ”を抱え、人間界へ向かう事になったのだった。




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