第二章 8話 覚醒した果物戦士
男は、何かの医療機器をセットし始めていた。
それは、おそらく……死を招く〝呪薬注入器〝のような物だった……
……ああ……
もう、時間がない……
(いやだ……)
(まだ……)
私、なんか、悔しい……
えっ……なにが悔しい?
こんな時に……こんな疑問?
なんか……思考が分断されてゆく……感じ……
……えっ……
何が……私は?……何を……どうしたい?
思考が……まとまらない……
(教えて……)
(私は……どうしたいの……?)
その時――
『アユミ!なにが望みなの?』
はっきりと、耳元で声がした。
『私は……私は、まだやりたい事があるの!!!』
『こんなところで、死にたくはないの!!!』
『――わかったわ!』
その言葉と同時に――
目の前に、何かが“いた”。
小さな体。
妖精のような姿。
だが、その存在はどこか現実から浮いていた。
(なに……これ……)
(妖精……?)
言葉は、声にならない。
だが――
頭の中に、直接響いてくる。
『私の名前は、パルミアよ!』
『あなたの助けになるわっ!』
『あなたの願いが、カタチになった存在よ!』
『あなたのチカラを強化できるわ!』
その瞬間――
アユミを縛っていたすべてが、消えた。
ガムテープ。
ロープ。
まるで最初から存在しなかったかのように。
(……動ける……)
ゆっくりと、指先が動く。
そのまま――体が、浮かび上がる。
(え……?)
自然に、立ち上がっていた。
視線を上げる。
黒服の男は、まだ気づいていない。
点滴の準備に集中している。
(……今なら)
考えるより先に――体が動いた。
一歩。
音もなく、距離を詰める。
「――っ?」
振り向いた瞬間。
手が、相手の胸に触れる。
ドンッ!!
鈍い衝撃音。
男の体が、そのまま吹き飛んだ。
「うわ〜〜っ!!!」
「……え?」
理解が追いつかない。
(今……なにしたの……?)
だが――
「なんだ!?」
周囲の男たちが、一斉に動く。
ざっと見て――十人ほど。
「囲め!」
一気に距離を詰めてくる。
(まずい……)
そう思った瞬間。
『感じて!』
小さな存在――パルミアが言う。
『思考は、もういらない』
「……え?」
『分断されたままでいいわ!』
その言葉で――
何かが、切り替わった。
(……ああ……そっか……)
考えなくていい。
身体が、勝手に動く。
「はっ!」
一人。
「ぐっ!?」
吹き飛ぶ。
もう一人。
だが――
「くそっ……!」
数が多い。
背後を取られる。
「終わりだ!」
振り下ろされる電撃棒。
(……やば――)
その時。
バチンッ!!
鋭い音が、地下に響いた。
「え……?」
目の前の男が、吹き飛ぶ。
攻撃は――止まっていた。
「大丈夫?アユミさん!」
聞き慣れた声。
「えっ、エリカ……ちゃん!?」
振り向く。
そこにいたのは、エリカだった。
まだ万全ではないが――
さっきまでベッドにいた時より、はるかにしっかりと立っている。
その背後で――
『ちょっと前に、ようやく捕捉できた』
セレグの声が響く。
『急に、アユミの気配が跳ねた』
『だから追えた』
『ここは――地下、第二霊安室の工事区画だ』
「……なにその場所?」
アユミが顔をしかめる。
「私って、そんなところにいたの?……最悪じゃない!」
周囲を見渡す。
残った男たちが、じりじりと距離を取る。
「まったく……ゾロゾロ、いるわね!」
ため息をつくアユミ。
「面倒くさい」
軽く首を回す。
「まとめて来なさいよ」
エリカのその一言で――
空気が変わった。
男たちが、一斉に動く。
その中心で――
アユミは、小さく息を吐いた。
思考は、まだどこか途切れている。
だが――
身体は、はっきりと分かっていた。
(……まだ、終わってない)
その横で、パルミアが静かに微笑む。
『ええ――ここからよ』
淡い光が、さらに強くなる。
地下の空間に――
新たなる戦いが、始まろうとしていた……




