第ニ章 4話 果物戦士、柏木 安祐美・爆誕!?
あの一件以来――
セルは、ここ……エリカの病室に居候していた。
もう、隠れて観察するのが面倒になったのか……
エリカには無断で、勝手に環境を整え始めている。
もちろん――
エリカが寝ている間に、だが……
どこから持ち込んだのか、病室の隅には小さなテーブルセットが置かれていた。
妙に上品な椅子と、白いクロス。
完全に、場違いである。
そして――
その中央に置かれているのは……
紫色の、禍々しい塊。
リンゴのような形をしているが、その大きさは三倍近い。
表面はぬめるような光沢を帯び、見る者に本能的な拒否感を与える色をしていた。
「ふふ……これが、パルムの実……」
セルが、うっとりとそれを見つめる。
「天界でも滅多に手に入らぬ、至高の果実……」
満足げに頷いた、その時――
「あっ!しまった!」
勢いよく立ち上がる。
「パルムの実には、セルローズティーが必要だった……!」
しばし悩む。
そして――
「……まあ、人間には見えないものだから、このままでいいか……」
軽く納得したように頷いた。
「ちょっと待っててね!パルムちゃん♪」
そう言い残し、セルの姿はふっと掻き消えた。
静寂が戻る。
ベッドの上では、エリカが静かに眠っている。
そして、テーブルの上には――
紫の果実だけが、ぽつんと置かれていた。
――その時。
トントン。
軽いノックの音。
ガチャ。
ドアが開く。
「エリカちゃん?」
安祐美が、顔を覗かせた。
「あっ……寝てるのか?」
そっと中に入り、ドアを閉める。
「もう、無理しすぎなんだよな……」
小さく呟きながら様子を確認する。
問題はなさそうだ。
ほっとした、その時――
「……ん?」
視線が止まった。
部屋の隅。
見覚えのないテーブル。
「……なにこれ?」
ゆっくりと近づく。
そして――
その中央にある“それ”を見た。
「……なに、これ……」
眉をひそめる。
どう見てもおかしい。
色も、形も、存在感も。
普通なら――
絶対に触れたくない。
だが――
「……なんか」
手が、伸びた。
「……気になる……」
自分でも理由がわからない。
嫌な感じがするのに、目が逸らせない。
「……変だよね……」
苦笑する。
それでも――止まらない。
そっと触れる。
「……あったかい……?」
予想外の感触。
そして、ふわりと甘い香りが広がった。
「……え?」
周囲の音が、少し遠くなる。
心が妙に落ち着く。
「……これ……」
ごくり、と喉が鳴る。
「……食べても、いいのかな……?」
一瞬だけ迷う。
だが――
「……まあ、果物っぽいし……」
軽く呟いて。
そのまま、かじった。
「――っ!?」
強烈な甘さが広がる。
「なにこれ……!」
思わず声が漏れる。
濃厚で、深くて、優しい味。
「……おいしい……」
もう一口。
さらに一口。
その時――
ピリッ。
「……あれ?」
舌に、微かな違和感。
だが、それ以上に――
体の奥が、じわりと熱を帯びた。
「……ちょっと、待って……」
手を見る。
「……なんか、あったかい……」
指先から、ほんのりと光が漏れた。
「……え?」
一瞬で、消える。
「……気のせい?」
首を傾げる。
だが、胸の奥に――
何かが残っている。
説明できない違和感。
その時――
「ただいまなのじゃ〜♪」
セルが、軽い調子で戻ってきた。
手にはセルローズティー。
しかし――
「……ん?」
視線が止まる。
テーブル。
皿。
紫の実が――ない。
「……は?」
ゆっくりと顔を上げる。
そこには――
口元をベタベタにした安祐美。
そして、漂う甘い香り。
「……あ」
数秒の沈黙。
「――――何をしたのじゃああああああああああ!!!」
絶叫が響いた。
「そ、それ……まさか……!」
安祐美を指差す。
「全部、食べたのか!?」
「え?あ、うん……美味しかったよ?」
「皮ごとかあああああああああ!!?」
セルが崩れ落ちる。
「終わったのじゃ……あれは毒じゃぞ……!」
「え、毒!?」
「しかも天界最高級の……しかも皮は猛毒で……!」
セルが頭を抱えて転げ回る。
「なんで食べるのじゃ!普通は食べぬじゃろ!」
「いや、なんか……気づいたら……」
「気づいたらで済む問題ではないのじゃあ!!」
その時――
ふわりと、甘い香りが強くなる。
安祐美の周囲の空気が、わずかに揺れた。
「……あれ?」
「また、なんか……」
指先が、かすかに光る。
今度は、ほんの少し長く。
「な、なんなのじゃそれは……!」
セルの声が震える。
「そんな反応、聞いたことがないのじゃ……!」
安祐美は、自分の手を見つめたまま――
ぽつりと呟いた。
「……なんか、変だよね……」
その言葉とは裏腹に――
胸の奥では、確かに“何か”が動き始めていた。
――その時。
「もお〜〜っ!うるさ〜〜いっ!!!」
突然、病室に響く怒声。
寝起きで、機嫌が最悪なエリカが、枕をセルに向かって投げつけた
「うげっ!」
変な声とともに、セルが吹き飛ぶ……
そして、病室は静かに沈黙した……




