表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/52

第ニ章 3話 副理事長・御堂 恒一


病院の最上階。


静まり返った副理事長室で――


男は、書類に目を通していた。


副理事長・御堂みどう 恒一こういち


整えられたデスク。


無駄のない配置。


その空間には、一切の乱れがない。


カリ、とペンが紙の上を滑る。


サインを終えると、書類を静かに閉じた。


「……さて」


小さく呟く。


その声に応える者は、誰もいない――はずだった。


御堂は、ゆっくりと机の上のスマートフォンへ手を伸ばす。


だが――


触れる直前で、指が止まった。


一瞬の沈黙。


そして。


『……進捗はどうなっていますか?』


まるで、誰かと通話しているかのように、自然な口調で話し始めた。


だが――


着信音も、発信の操作もない。


それでも、確かに“会話”は成立していた。


『まあ……順調のようですね』


声が、返ってくる。


どこからともなく。


室内に響いているのに、位置が定まらない。


御堂は、表情一つ変えない。


「今は、簡単な事後処理を行う、準備をしております」


「ちょっとした手違いで、小娘を一匹取り逃しまして……」


淡々とした報告。


その言葉の裏にある意味を、隠す気もない。


「まあ……問題はありません」


わずかに間を置く。


「ただ――」


視線が、窓の外へと向いた。


「バルサ……という人物が入り込んでおります」


一拍。


「この者は……白新様の手の者、という認識でよろしいでしょうか?」


空気が、ほんの僅かに歪んだ。


そして――


『ああ……バルサ君ですか』


楽しむような声。


『彼は、好きにさせておいて下さい』


軽い口調だった。


だが、その一言に、明確な“優先順位”が含まれている。


『彼は、少し特殊でしてね』


『色々と、面白い任務を任せている存在なんです』


『自由に、動き回る権限も与えているんですよ』


御堂の指先が、わずかに止まる。


「……そうですか」


短く返す。


その声音は変わらない。


だが――


ほんの僅かに、温度が下がった。


(勝手な真似を……)


内心で、静かに吐き捨てる。


秩序を乱す存在。


制御できない駒。


御堂にとって、それは“排除対象”でしかない。


だが、口には出さない。


「承知致しました」


あくまで従順に。


そして、話題を切り替える。


「エリカさんの件ですが――」


その名を口にした瞬間。


空気が、微かに重くなった。


御堂は気にせず続ける。


「外堀は、ほぼ埋まりつつあります」


書類の端を、指で軽く叩く。


「間もなく、完全に確保できる状態になりますので……ご安心下さい」


沈黙。


数秒。


だが、その時間が妙に長く感じられた。


『……そうですか』


声が、ゆっくりと返ってくる。


先程とは違う。


少しだけ、低く。


『でも、あまり雑には扱わないで下さいね』


『あれはまだ、〝壊すには惜しい”存在なので……』


その言葉に――


御堂の目が、わずかに細くなった。


「……承知致しております」


だが、即座に表情を戻す。


完璧な仮面。


『期待していますよ、御堂くん』


最後の声。


それと同時に――


空気の“圧”が、ふっと消えた。


静寂が戻る。


御堂は、ゆっくりとスマートフォンを手に取った。


画面は、真っ暗のまま。


通話履歴など、最初から存在しない。


「……ふん」


小さく鼻を鳴らす。


そのまま、窓の外へと視線を向けた。


「バルサ……」


低く呟く。


「好きにさせる、か……」


その目には、明確な敵意が宿っていた。


「余計なことをしなければいいが……」


そして、もう一つ。


「エリカ……」


その名を、静かに繰り返す。


「もうすぐだ」


冷たい確信。


その声には、一切の迷いがなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ