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転生鍛冶師の武器無双~自作の武器でSランクの魔物を相手に試し斬りしていたら、何故か最前線で送られることになったんだが~  作者: WING
第2部

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第7話:通りすがりの〈鍛冶師〉クロム

 なんだ、随分と騒がしいと思ったら。


 俺は魔境沿いの森の中を歩きながら、木々の隙間越しに見える戦闘の気配に肩を竦めつつ、わざわざ自分から面倒ごとに首を突っ込んでいる現状について軽く後悔する。

 同時にあの異様な魔力の濃さに興味を引かれている自分を否定できずに、そのまま足を止めることなく歩みを進めていた。


「あん? デヴォウラーじゃねぇか。森から出て来るなんて珍しいな」


 思わず口から漏れたのは、驚きというよりは確認に近い独り言であり、視界に映った巨大な黒い影と、その周囲に散らばる兵士たちの状況を見れば、今さら状況説明など必要ないことは明白だった。


「そこのあなた! すぐに下がりなさい! 相手はSランクの魔物です!」


 凛とした、よく通る声が飛んでくる。

 ああ、指揮官か?

 声の主へとちらりと視線を向ければ、傷を負いながらもなお立ち続けている金髪の女騎士が、明らかに消耗しきった状態でこちらに退避を促しているのが見えた。


「下がれ、ねぇ」


 俺は一度だけ周囲を見回す。

 地面には倒れ伏す兵士、血の匂い、崩れた陣形、そして退路を塞ぐように立つデヴォウラー。


「……いや、どこに下がるんだよ」


 思ったことをそのまま口にすると、女騎士が一瞬だけ言葉に詰まった。


「逃げ場ないだろこれ、完全に囲い込み終わってるじゃねぇか」


 むしろ今から逃げる方が難易度高いだろ、と内心で付け加えながら、俺は視線を再びデヴォウラーへと戻す。

 その瞬間、ぴたりと視線が合い、ヴォウラーの動きがわずかに止まる。

 明確な警戒。

 先ほどまで好き放題暴れていた個体が、初めて様子を見るという選択を取った。


「お前、そんなに賢かったか?」


 そして、その顔をよく見て――気づく。

 左前脚の付け根付近に、うっすらと残る古い裂傷。


「……ああ、なるほど」


 俺は小さく笑った。


「お前、この前のやつか」


 デヴォウラーの喉が、低く唸る。


「ほら、ほら、思い出したか? 人の獲物かっさらおうとして失敗して逃げてったやつだろ、お前。最近大人しいとは思っていたが、俺に付けられた傷のせいだったか」


 あのとき、せっかくの素材がボロボロにされてイラついていたからな。

 軽く記憶を掘り返しながら、俺は肩に担いでいた大剣をゆっくりと構え直す。


「俺の前に来るとか律儀だな、おい。感心するぞ」


 まあ、今回は逃がさないけどな。


「それじゃあ、試し斬りの相手になってもらうぜ」


 次の瞬間、デヴォウラーが地を蹴った。

 爆発的な速度で迫る巨体。


「危ない!」


 背後から彼女の声が聞こえるも、余計なお節介だ。

 普通なら反応すら間に合わないだろう一撃を、俺は半歩だけ体をずらして躱し、そのまま流れるように大剣を振り抜く。


「……ほいっと」


 振り抜いた瞬間、刃が裂け、まるで生き物の口のように大剣の刃が左右に開き、噛みつくようにデヴォウラーの肉を食いちぎった。


 ぐちゃり、と嫌な音が響く。

 ただ斬るのではない。

 喰らう。

 削るのではなく、奪い取る。


「強化したのに能力そのままじゃねぇか、この剣」


 俺は顔を顰めながら、再び振るう。

 デヴォウラーの巨体が大きく後退する。

 先ほどまでの余裕は完全に消え、明確な敵として俺を認識しているのがわかる。


「どうした犬っころ、さっきまでの勢いは」


 軽口を叩きながらも、間合いを詰める。

 逃げようとするが、逃がすつもりはない。

 振るうたびに、刃が裂け、肉を喰らい、血と魔力を吸い上げていく。

 間違いなく強力な大剣だ。


「剣としては合格。でも能力がゴミ」


 冷静に大剣の評価を行う。

 デヴォウラーが反撃に爪を振るうが、その軌道は単調で、速度も見切れる範囲に収まっている。


 躱し、喰い斬る。

 それだけで、戦いは一方的に傾いていく。

 やがて、巨体が膝をつく。


「さて」


 俺は一度、大剣を軽く振って血を払う。

 こいつの能力は検証も済み、もう出番はない。


 ゆっくりと息を整え、大剣に込める力を制御する。

 裂けかけていた刃が、ぴたりと閉じ、ただの剣へと戻る。


「締めはまともにやるか」


 懐に踏み込み――一閃。

 ただ純粋な技量だけで放たれた一撃が、正確に首を捉え――落とした。

 巨体が、地響きを立てて崩れ落ち、静寂が戻る。


「……はぁ」


 俺は肩の力を抜きながら、大剣を見下ろした。

 刃には、まだわずかに蠢く気配が残っている。


「せっかくの素材を食べるとか、駄作じゃねぇか。廃棄か?」


 〈鍛冶師〉としての評価は、限りなく低い。

 むしろマイナスだ。

 加工前の素材を勝手に減らす武器とか駄作も駄作である。


「……あの」


 声がかかる。

 振り返ると、先ほどの女騎士がこちらへ歩み寄ってきていた。

 満身創痍ではあるが、背筋は伸びている。


「先ほどは失礼した。助太刀、感謝する。私はエリシア・ハイネス・アルヴァレン、アルヴァレン王国第三騎士団団長を務めている」

「……え?」


 一瞬、思考が止まった。


「いやちょっと待て、今なんて言った?」

「アルヴァレン王国第三騎士団団長、エリシアだ」

「いやそっちじゃなくて、その名前」


 ハイネス・アルヴァレン。


「ま、まさか……王族、か?」

「第二王女だ」

「はあ!?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。

 いやいやいや、なんでそんなのがこんな辺境にいるんだよ!?

 エリシアは一歩踏み出す。


「先ほどの戦い、見事だった。あのデヴォウラーを単独で圧倒する実力、感服した」


 その碧眼が、真っ直ぐにこちらを射抜く。


「是非、我が騎士団に加わってほしい。望む報酬を出そう」

「え? 断るけど」


 即答だった。


「……早いな」

「俺、〈鍛冶師〉なんで」

「……〈鍛冶師〉?」


 周囲の兵士たちも含めて、空気が一斉に固まった。


「いやいやいや、今のどこが〈鍛冶師〉だ!」

「本職だぞ。さっきのはついでだな」

「ついででSランクを倒すな!」


 もっともなツッコミが飛んできたが、知ったことか。


「それよりだ。さっさと治療したらどうだ? あのままだと死ぬぞ?」


 俺の言葉にエリシアたちはハッとする。


「手の空いてる者は速やかに治療を始めろ。ポーションも惜しまず使え!」

「「「はっ!」」」


 迅速に負傷者の手当てを始める兵士たち。

 統率が取れており、彼女のカリスマが見て取れる。


 諸々指示を出し終えたエリシアに、俺は声をかける。


「なあ。これ、俺の獲物でいいよな?」

「あ、ああ。それは構わないが……」

「なら話は早い」


 次の瞬間、巨大な死体が消える。


「なっ……!?」

「収納の魔道具か……!?」


 周囲がざわつく。

 エリシアの視線が俺の腕輪を見つめている。


「譲らんぞ」

「……当然だろうな」

「先に釘刺しとくに越したことはないだろ」


 俺は大剣を担ぎ直し、踵を返す。


「じゃあな、王女様。あとは頑張れ」

「待ってくれ」


 呼び止められる。


「……名は?」


 教えても問題ない、かな?


「クロムだ」

「クロム殿だな。覚えた。にしても、王族だと知ったのに態度は変わらないのだな」


 最初は敬語を使おうとも思ったが、別に必要ないと思っただけ。

 理由は至って簡単。


「貴族は領地を治め、王は国を統治する者だ。感謝こそすれど、それ以上でもそれ以下でもない。立場は違っても、人間であることに変わりはないからな」


 一瞬だけ間があり、エリシアは小さく笑った。


「ふっ、面白い男だな」

「どうも。まあ、食事の好みくらいは違うかもしれないが」

「そうだな。好みは人それぞれだ」


 一通り負傷者の治療なども終わった。


「クロム殿、改めて感謝する」

「礼はもう受け取っている」

「そうか。ところで、どこに住んでいるか尋ねても?」

「ローヴァっていう近くの村だ」

「辺境にある村だったな」


 よくあんな辺境を覚えてられるな。村や街なんて沢山あるだろうに。

 王族も大変だな。


「魔境に最も近い村だからな」

「俺の思考を読むなよ……」


 まったく。


「では、改めて話をさせてもらう」

「来たところで勧誘は無駄だぞ」

「それも含めてだ」


 妙に真っ直ぐな目だった。


「……じゃあな」


 それだけ言って、俺は魔境へと戻る。

 背後で、遠ざかっていく気配がした。


「……はぁ」


 歩きながら、軽く空を見上げる。


「今日の素材は当たりだな」


 ただし剣は外れだ。

 とはいえ、面倒事が待っていそうな気配がしていた。

 主にエリシア関係の。


「俺は鍛冶がしたいだけなんだけどなぁ……」


 そんなことを呟きながら歩を進めるのだった。



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