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転生鍛冶師の武器無双~自作の武器でSランクの魔物を相手に試し斬りしていたら、何故か最前線で送られることになったんだが~  作者: WING
第2部

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第6話:王女エリシア

 大陸中央から南部にかけて広大な版図を誇るアルヴァレン王国と、北方と中央を中心に圧倒的な軍事力で領土を拡張し続けるディグラート帝国との戦争は、もはや数年単位に及ぶ長期戦へと突入しており、両国の国境線一帯では大小さまざまな戦闘が繰り返されながらも決定打に欠け、互いに一歩も引かぬまま膠着状態が続いていた。


 その最前線において、王国側の主力戦力として帝国軍の侵攻を現在進行形で食い止めてきたのが、アルヴァレン王家に連なる第二王女にして第三騎士団団長を務めるエリシア・ハイネス・アルヴァレンであり、金の髪を風に揺らしながら天を駆けるかのごとき剣技を振るう彼女の存在は、兵たちにとって象徴であると同時に、決して崩れぬ防壁そのものでもあった。


 しかし、その彼女に対して、ある日王都から届けられた命令は、あまりにも唐突なものであった。


「一時帰還、ですか」


 軍幕の中で報告を受けたエリシアは、抑えた声音の奥に明確な不満を滲ませながら、目の前の伝令をまっすぐに見据えた。


 帝国軍の動きは依然として活発であり、いつ大規模な攻勢に転じてもおかしくない状況であるにもかかわらず、その最前線を預かる指揮官に対して帰還命令が下されるというのは、戦略的に見ても納得し難いものであったからである。


「陛下のご命令により、団長は速やかに王都へ帰還せよとのことです。また、その間の指揮は――」


 伝令は一拍置き、言葉を続けた。


「第二王子グラント殿下率いる第二騎士団に引き継がれます」


 その名を聞いた瞬間、エリシアは小さく息を吐いた。

 ややあって、入れ替わるようにして軍幕へと姿を現したのは、重厚な鎧に身を包んだ一人の男――アルヴァレン王国第二王子、グラント・ハイネス・アルヴァレンであり、三十四歳という年齢相応の落ち着きと、幾多の戦場を渡り歩いてきた者特有の鋭さを併せ持つその姿は、確かにこの戦場を任せるに足るだけの風格を備えていた。


「随分と不満そうな顔だな、エリシア」

「当然でしょう、兄上。戦況が落ち着いているとは到底言えない中で、最前線の指揮官を引き抜く理由としては、あまりにも説明が不足しています」


 淡々と、しかし一切の遠慮なく言い切る妹に対して、グラントは肩を竦めてみせる。


「相変わらず融通が利かんな。これは命令だ」

「ですからその理由をお聞きしているのですが」


  短く言葉を交わしながらも、その声音に険悪さはなく、互いの力量と立場を理解した上での、いつものやり取りであることは明らかであった。

 沈黙の後、グラントはため息を吐いて理由を口にする。


「前線における長期駐留は兵の疲弊を招く。士気低下と戦力劣化を防ぐため、一部を王都へ帰還させ、再編成および休養を与える。加えて詳細な戦況報告を行うよう命じられている」

「なるほど、理解しました」


 やがて、グラントはふと真顔に戻り、わずかに声の調子を落とした。


「帰路についてだが、そのまま王都へ戻るのではなく、一度ルーベント辺境伯領へ立ち寄れ」

「ルーベント辺境伯領、ですか?」

「ああ。魔境沿いの防衛を担っているあそこは、正規軍にも劣らない精強な軍を揃えている。今回の戦争で余力が削られているのも事実だ」


 そう言って、グラントはエリシアの目をまっすぐに見据える。


「帝国との戦いが長引いている以上、あの戦力を遊ばせておく余裕はない。援軍の要請を伝えてこい。これは王命だ」

「それが本命ですか……わかりました」


 わずかな逡巡ののち、エリシアは静かに頷いた。

 王命である以上、従わぬ理由はない。

 それに――戦力を集約するという判断自体は、決して誤りではないと理解していたからである。


「残りはそのまま前線に残し、兄上の指揮下に」

「任せておけ。そう簡単に戦線を崩すつもりはない」

「当然です。崩されては困ります」


 短く言い交わし、エリシアは踵を返す。

 こうして彼女は、最前線を離れ、王都への帰路へとつくこととなった。


 辺境伯領へと至る道は、王国領の中でも特に危険度の高い地域として知られており、その理由はただ一つ、常に強力な魔物が生まれ続ける〝魔境〟と隣接しているためであったが、同時にそこは熟練の兵たちが巡回を行っていることもあり、正規の街道を進む限りにおいては、そうそう大きな問題が起きる場所ではなかった。

 実際、エリシア率いる部隊もまた、順調にその道を進んでいた。


「――団長! こちらに魔物が接近中! 数は百を越えます!」


 先行していた兵の一人が、声を上げる。

 次の瞬間、魔境側の森の奥から、無数の気配が一斉にこちらへと接近してくるのを、エリシアは鋭く感じ取った。


「ッ! 急ぎ戦闘態勢を取れ!」


 短い命令とともに、部隊が即座に陣形を整える。

 やがて木々の間から姿を現したのは、灰色の毛並みを持つ狼型の魔物、グレイウルフの群れだった。

 数こそ多いものの、個体としてはさほど脅威ではなく、現状の部隊でも討伐は可能だ。

 しかし。


「……?」


 エリシアは、わずかに眉を顰めた。

 本来であれば、人間の集団を前にした魔物は、威嚇、あるいは即座に襲撃に移るはずである。

 しかし、その群れは、まるでこちらの存在を無視するかのように、進路を変えず、そのまま横を駆け抜けていったのである。


「――待て」


 小さな違和感が、確信へと変わった直後だった。

 森の奥、先ほど魔物たちが現れた方向から、空気そのものを押し潰すかのような圧が、ゆっくりと、しかし確実にこちらへと迫ってくる。


 それは、これまで幾多の戦場を経験してきたエリシアでさえ、反射的に背筋を凍らせるほどの〝格の違い〟を持った存在であった。


「――来るぞ」


 誰ともなく漏れたその言葉と同時に、木々をなぎ倒す音とともにそれは姿を現す。

 先ほどのグレイウルフが可愛く見えるほどの黒く巨大な体躯、異様なまでに濃密な魔力、そして明確な捕食者としての意思。


「デヴォウラーか」


 Sランク――人の手に余る災害級の魔物。

 その生態は、飢えを満たすために目に映るすべてを喰らう獣だ。

 Sランクとしては最上位に位置する強さを有する。


 デヴォウラーの視線が、ゆっくりとエリシアたちを捉えた。

 獲物を見定めるように。


「……総員、迎撃態勢」


 静かに告げたその声に、恐怖はなかった。

 だが次の瞬間から始まった戦いは、彼女の率いる精鋭部隊をもってしてなお、あまりにも一方的な蹂躙であった。

 皮膚が硬くて剣が通らず、纏う魔力に阻まれて魔法攻撃の効果が薄い。

 反撃は即座に死を伴う。

 わずかな時間のうちに、部下たちはその狂爪に次々と倒れていく。


 何度もSランクの魔物を倒してきたエリシアであっても、部下を守りながらデヴォウラーの相手は厳しかった。

 一対一であっても、勝機は五分ほどだろう。


「ッ! 退け!」


 判断は早かった。

 しかし、その退路すらも、デヴォウラーは容易く封じる。

 まるで、逃がさぬとでも言うように。

 そして、エリシアは部隊の全滅を覚悟した、そのときだった。


「あん? デヴォウラーじゃねぇか。森から出て来るなんて珍しいな」


 場違いなほどに軽い声が響いた。

 次の瞬間、エリシアたちの視界に、大剣を携えた一人の青年の背中が映る。

 まるで、散歩の途中にでも立ち寄ったかのような気軽さで、デヴォウラーの前へと歩み出るその姿を。




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