第3話:血錬式貫杭機構
煌々と熱を放つ炉の中には、ひびの入った杭が赤黒く染まりながら静かに息をしていた。
杭を見れば、もはや武器としての役目を終えていることを雄弁に語っているが、俺にとっては違う。
これは終わったわけじゃない。
次の段階の進化前だ。
「……壊れたからこそ、見えるものもある」
炉の前に立ち、熱気を肌で感じながら、俺は静かに呟く。
手元には、テネブラ・ファングから剥ぎ取った素材一式。
牙、骨、血液と、Sランクの魔物から手に入れた規格外の素材。
そして、その中でも特に目を引くのがひとつ。
「やっぱり、こいつだな」
湾曲した巨大な牙。
表面は黒く鈍い光を放ち、ただの骨とは明らかに異なる質感を持っている。
素材鑑定の結果はすでに頭に入っている。
高密度、魔力伝導性、衝撃耐性と、どれを取っても現状の鋼材より一段階上。
「予定通り、これを芯に使う」
単純に外殻として使うんじゃない。
内部構造――芯として組み込む。
外側は鋼で内側は牙。
衝撃を受け止め、分散し、なおかつ貫通力を増幅する構造。
「……悪くない」
口元が、自然と緩む。
これが一番楽しい。
俺は牙を炉の横に置き、鋼材を取り出す。
そして、密閉していた瓶の蓋を開けた。
中には、まだ温もりを残したテネブラ・ファングの血液。
鉄臭さと、魔物の血特有の臭い。
「これも使う」
ただの鋼じゃ足りない。
魔物の特性を取り込む。
血を混ぜ、叩き、鍛え上げる。
理屈としては単純だが、実際にやるとなると加減が難しい。
混ぜすぎれば脆くなり、少なすぎれば意味を成さない。
何度も試したことがあり、これは経験でしか補えない。
「……まあ、これはこれまでの感覚でしかないな」
炉から取り出した鋼に、血を落とす。
じゅ、と焼ける音がやけに甘く響いた。
足りない。まだだ。
もう一滴垂らし、すかさず叩く。
ガンッ、と鈍い衝撃が腕を通じて脳に響く。
ああ、いい音だ。
叩き、垂らし、叩く。
血と鉄と熱が混ざり合い、やがて音は規則を持ち始める。
それはまるで、儀式のように。
叩くたびに、血が鋼へと染み込んでいくような感覚。
ただの錯覚かもしれないが、それでも確実に変化は起きている。
色が変わり、質感が変わり、密度が増していく。
「いい、反応だ。これは完成が楽しみだな」
思わず、低く笑みが漏れる。
そこからさらに叩き、熱し、叩き、折り、重ねる。
その合間に、加工した牙を芯として差し込み、再び包み込むように鍛える。
単なる一体化などではなく、これは融合に近い。
外殻と芯が、それぞれの特性を殺さずに噛み合うように。
神経を研ぎ澄ませる。
一打ごとに、微細なズレを修正していく。
――どれだけ時間が経ったかはわからない。
俺はそれを手に取った。
「……段違いだ」
手に取った杭は、以前のものとは明らかに違っていた。
重量はほぼ同じだが、内部の密度が違う。
叩いたときの反発、伝わる振動、そのすべてが硬いと感じさせる。
以前にも増して、壊れないという確信に近い感触。
「これなら――」
言いかけた、そのときだった。
ガチャっと扉が開く音が聞こえた。
「クロムさん、入りますよ……って、やっぱり!」
振り向けば、ミーナが焼いた肉の乗った皿を手に、呆れた顔で立っていた。
「まだ鍛冶していたんですか⁉ 昨日は寝るって言いましたよね!?」
「ミーナ、これは違うんだ! その、素材を見ていたら……つい……」
「だからって限度があります! 目元にクマができているじゃないですか」
ずい、と距離を詰めてくるミーナに、俺は冷や汗が流れる。
こうなったミーナは、俺が寝るまで何を言っても聞かない。
「問題な――」
「問題あります! はい、これ! とりあえず食べてください!」
半ば強引に皿を押し付けられる。
焼きたての肉の香りが、ようやく空腹を自覚させた。
「……確かに、腹は減ってるな」
観念して、椅子に腰を下ろす。
一口、口に運ぶ。
香ばしい脂と、しっかりした肉の旨味が広がる。
「うまいな」
「私が焼きましたから当然ですよ。ちゃんと休んで、ちゃんと食べる。これ基本ですからね」
腕を組んで頷くミーナに、苦笑する。
「わかったよ。次から気をつける」
「次からじゃなくて、今からです」
ぴしゃりと言い切られた。
食事を終え、軽く体を休めた後、俺は再び立ち上がる。
「次だな」
「……まだやるんですか?」
「杭は完成した。だが、それを撃ち出す本体が旧式のままだ。それに一発撃ってこのざまだ。もう直して改良しないとまた壊れる」
試作型の本体部分へと視線を向ける。
「威力に耐えられなければ意味がない。出力も、取り回しも、全部見直す」
「……本当に、鍛冶のことになると止まらない人ですね」
呆れ半分、諦め半分の声を背に、俺は作業へと戻る。
そこからは、時間の感覚が曖昧だった。
一日、二日、三日。
寝て、起きて、叩いて、削って、組み直して。
ひたすらに繰り返す。
限界に達した筋肉は悲鳴を上げるも、それすらもどうでもよかった。
脳内にはすでに完成形が見えている。
だから止まらないし、止められない。俺の衝動が、止まることを拒んでいるのだ。
そして、その時はやって来た。
「……できた」
三日三晩の末、目の前には新たなパイルバンカーがあった。
無骨な外見はそのままに、内部構造は完全に別物。
強化され、魔物の血を混ぜたことで赤黒く変色した杭、それに合わせて最適化された射出機構。
無駄が削ぎ落とされ、洗練されている。
「名付けるなら――『血錬式貫杭機構』かな?」
俺は完成した武器を担いだ。
「さて、作ったら試す、だよなぁ?」
完成して早々、俺は魔境へと向かった。
前回よりもさらに奥へ進むと、空気が重く、魔力の濃度が濃く変わった。
明らかに、危険度が段違いだ。
「まったく、武器を試すのにはいい環境だ。素材の面でも、だけど」
しばらくして、それは見つけた。
巨大な体躯。
まるでサイと牛を掛け合わせたような異形の魔物。
そして何より、その全身は――
「……金属、なのか?」
鈍く光る外殻。
明らかに通常の攻撃では通らないだろう装甲
「だが、ちょうどいい」
俺は構え、呼吸を整える。
相手は見るからに鈍重で、その体格と装甲を活かした攻撃をしてくるだろう。
なら、相手が動くよりも速く動き、一撃で仕留める。
俺は足に力を込め――駆けだした俺は一瞬で魔物の背に乗っていた。
「――終わりだ」
その言葉とともに、俺は引き金を引いた。
次の瞬間、機構は唸りを上げ、杭が上へと引かれ――轟音とともに射出された。
射出された杭は一切の抵抗なく装甲を易々と貫き、そのまま内部を破壊して血を吹き出しながら崩れ落ちた。
「……はは」
思わず、笑いが漏れた。
「いいな、これは。予想以上だ」
狙いはブレることはなく、大きかった反動も制御できる。
そして何より、前回は亀裂、ひびが入った杭と本体は壊れてない。
強化は成功した。
「次は……」
倒れた魔物の素材へと視線を向ける。
この装甲の金属は、明らかに使える。
俺の脳内には、新しいアイデアがすでに浮かんでいた。
「ここ最近はロマンを求めていたからな。たまには〈鍛冶師〉らしく、剣でも打つか」
俺は素材を剥ぎ、鼻歌を交えながら帰宅するのだった。
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