第34話:領主はやらない
工房に籠もって素材と睨み合いを続けていると、どうにも思考が煮詰まる瞬間というものがある。
そういう時に無理やりひねり出した案は大抵ロクな出来にならないと、職人としての経験が告げている。
なので、俺は気分転換のために素直に外へ出ることにした。
村――いや、もはや街と呼んでも差し支えないローヴァの中を、特に目的もなくぶらつきながら歩いていると、整備された道や建ち並ぶ建物の一つ一つが視界に入り、改めて「やりすぎたかもしれん」と思うくらいに様変わりしている。
数ヶ月前の面影などほとんど残っておらず、あの頃を知っている人間からすれば、ここが同じ場所だと説明しても信じてもらえない可能性すらあるだろう。
「まあ、悪くはない」
小さく呟きながら、街の外れへと足を向ける。
人の気配が薄くなり、やがて自然の色が濃くなる境界付近に差し掛かったところで、ふと視界の端に動くものが映った。
細長く、地面を這う影。
「……ムカデか」
視線を落とせば、そこには節の連なった長い身体をくねらせながら進む、多脚の虫が一匹。
特に珍しいものでもないし、わざわざ気に留める必要もない存在だが――。
「……あー」
その動きをぼんやりと眺めていた瞬間、頭の中で何かが噛み合った。
節ごとに連動する滑らかな動き。
柔軟でありながら、一本の流れとして繋がっている構造。
「……それ、ありだな」
口元が自然と歪む。
固定された形ではなく、状況に応じて形状を変える武器。
直線の剣では届かない場所に届き、通常では避けられる軌道を捻じ曲げて当てる。
「変形機構……蛇腹か」
瞬間、イメージが一気に具体化する。
――決まった。
「よし、作るか」
踵を返し、工房へと戻る。
そこからの動きは早かった。
素材の選定から始まり、分割構造に適した金属の調整、接続部の強度確保と可動域の最適化、そして魔力による制御機構の組み込み。
一つでも手を抜けば破綻する繊細な構造であるがゆえに、普段以上に神経を研ぎ澄ませながらの作業が続く。
だが――楽しい。
難しいからこそ、面白い。
そうやって数日が経過し。
「ついに完成だ」
手の中に収まるそれを見下ろしながら、小さく息を吐く。
一見すれば細身の剣。
だが、刃は細かい節で分割されており、それらが連結された構造は、まさに蛇のようにしなることを前提としている。
「いい出来だ」
軽く振るうと、節が連動して滑らかに動く。
手応えは上々。
「……試すか」
そう思い、外へ出ようとしたところで、ちょうど扉が開いた。
「ここにいたか」
現れたのはエリシアだった。
そして俺の手元を見て、わずかに眉を顰める。
「……また変なものを作ったのか?」
「失礼な。傑作だぞ」
軽く掲げて見せる。
「蛇腹剣。伸びるし曲がる」
「意味が分からない」
だろうな。
「百聞は一見にしかずだ。ちょっと魔境行ってくるわ」
「待て」
止められた。
「なんだよ?」
こっちは早く試したいんだよ。
「数日もこもって、クロムが考えた要塞だ。少しは視察に来い」
「うーん、気分次第」
「……相変わらずだな」
エリシアは深くため息を吐いた。
「そこが俺さ。お前も来るか?」
「……行く」
はい同行決定。
そんなこんなで魔境に到着。
試し斬りの場としては、相変わらず最適すぎる環境である。
「さて」
剣を構える。
ほどなくして現れたのは、巨大な甲殻を持つ魔物。
Aランク指定の魔物だ。
「まずは軽く」
一歩踏み込み、通常の剣として振るう。
だが本命はそこじゃない。
「――っと」
魔物が距離を取った瞬間、手首を返し、魔力を通す。
次の瞬間、刃が分解されるようにしなり、軌道が変わる。
「は?」
エリシアの声が聞こえた気がするが無視。
蛇のようにうねる刃が、死角から魔物を切り裂く。
そのまま連続で振るえば、鞭のようにしなる斬撃が空間を制圧する。
「……ははっ、いいな。これ」
予想以上に扱いやすい。
距離も角度も自由自在。
その後も、いくつかの魔物を相手に試しながら、動きと調整を繰り返していく。
――そして帰還。
「で、何と戦ってきたんだ」
途中で休んでいたエリシアのところに戻って来た。
「甲殻系と狼型と、あとでかいの一体」
「雑すぎる」
まあ細かいことはいいだろう。
「で、感想だが――」
軽く剣を振るう。
「当たる場所を選ばないのがいいな。あと回避されにくい」
「だろうな……」
エリシアが額を押さえる。
「扱える者が限られるだろうが、厄介極まりない武器だ」
「褒めてる?」
「呆れている」
だろうな。
それから月日が流れた。
ローヴァは完全に変貌を遂げた。
城壁と堀に囲まれ、機能的に配置された街並み。
人の数も増え、活気は以前の比ではない。
もはや誰がどう見ても、これは街だった。
そんなある日。
「王都より使者が参りました」
呼ばれて向かった先には、見慣れない装いの男が立っていた。
「国王陛下の命により――」
形式ばった口調で告げられる内容を聞きながら、俺はなんとなく察する。
「クロム殿に、この地の領主に任命する」
「うん。断る」
俺の即答に、沈黙が流れる。
「……理由を伺っても?」
そりゃ聞くよな。
「面倒だから」
それ以外に何がある。
工房に籠もって好きなもの作ってる方が性に合ってるんだよ、俺は。
まあ、国王には目的があって俺を領主に任命したのだろう。
俺を国に縛って、他国に渡らないようにしたかったのだろうが、残念。
「国王の狙いが透け透けだ。悪いな。そういうのは他を当たってくれ」
呆然とする使者を横目に、俺は軽く手を振ったのだった。
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