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転生鍛冶師の武器無双~自作の武器でSランクの魔物を相手に試し斬りしていたら、何故か最前線で送られることになったんだが~  作者: WING
第5部

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エピローグ

 使者が去った後に残ったのは、気まずい沈黙と、やたらと重たい視線の集中砲火だった。


 いやまあ、分かる、分かるぞ、その気持ちは。


 内心で肩を竦めつつも、だからといって「はい分かりました領主やります」と頷く気が一ミリも湧いてこないあたり、我ながらどうしようもない性格をしていると思う。


「……クロム、本気で言っているのか?」


 最初に口を開いたのはエリシアで、その声音には呆れと苛立ちと、ほんのわずかな期待の残滓が混ざっているように聞こえた。


「冗談に聞こえたか?」


 軽く返すと、エリシアは深く息を吐き、こめかみを押さえるという分かりやすい反応を見せる。


「聞こえないから困っている」

「なら問題ないな。本気だ」


 これ以上ないくらい明確な意思表示だと思うのだが、どうにも納得してもらえないらしい。


「この街は、お前が作り上げたようなものだ」

「訂正しとくが、俺は好き勝手やっただけだぞ。形にしたのはみんなだ」


 事実をそのまま口にすると、エリシアはわずかに言葉に詰まり、それでもなお食い下がってくる。


「だからこそだ。中心に立つべき人間が必要だ」

「いや、それが俺じゃないって話だろ」


 俺は両手を軽く広げてみせる。


「見ての通り、政治とか統治とか向いてる顔してないだろ?」

「顔で判断するのか……」


 至極真っ当なツッコミを受けつつも、俺は気にせず続ける。


「向いてないもんは向いてない。鍛冶場に籠もってる方が百倍有意義だ」


 そう言い切ったところで、今度は横から別の声が割って入ってきた。


「でもクロムさん!」


 ミーナだ。

 珍しく、いやいつも通りと言うべきか、真剣な表情でこちらを見ている。


「街のみんなも、クロムさんならって思ってるはずです!」

「それは過大評価だな。期待は裏切るためにあるんだぞ」

「開き直らないでください! てか、裏切らないでください!」


 怒られた。

 うん、知ってた。


「いやさ、気持ちは分かるんだけどな」


 少しだけ真面目な声で続ける。


「俺がやると、たぶん碌なことにならんぞ。好きなもん優先するからな」

「それの何がいけないんですか!」

「全体のバランスが死ぬ」


 即答したら、ミーナが言葉に詰まった。

 ほら見ろ、想像できただろう。

 その時だった。


「……なんですか、この空気」


 場の入口から、場違いなほどの間の抜けた声が聞こえてきた。

 振り返れば、そこにいたのはレオンだった。

 ミーナの旦那であり、村でもそれなりに顔が利く、まあ一言で言えば「いいやつ」である。


「お、いいとこ来たな」


 俺は軽く手を挙げる。


「ちょっと俺の代わりに領主やってくれよ」


 空気が凍った。


「……は? クロムさん、何言ってるんですか?」


 レオンが間抜けな声を出し、ミーナが固まり、エリシアが頭を抱えた。

 うん、いい反応だ。


「いや、ちょうどいいだろ。商人やってて顔も広いし、性格もまともだし、バランス取れるし」

「いやいやいやいや! 無理ですって!」


 レオンが両手を振って全力で否定してくる。


「なんで僕なんですか!」

「消去法」

「理由が雑すぎる!」


 ミーナもようやく復活した。


「ちょっとクロムさん何言ってるんですか!」


「適材適所だろ?」


 真顔で返すと、二人が同時に頭を抱えた。

 エリシアは……もう何も言わずに天井を見ている。


 しばらくの混乱の後、結局この場で結論が出ることはなく、話は一旦保留という形に落ち着いた。


 まあ、当然だな。

 いきなり「領主やれ」は無茶振りにも程がある。


 それからの日々は、そんな騒動が嘘のように、むしろ加速していった。

 城塞化されたローヴァは、その防衛力と利便性の高さから噂が広まり、近隣の村や集落から人が流れ込んでくるようになった。


 職を求める者、安住の地を求める者、ただの好奇心で来る者――理由は様々だが、そのすべてを受け入れるだけの余裕が、この街にはあった。


 気づけば、人口は倍近くに膨れ上がり、通りには常に人の流れができ、夜になっても灯りが消えない場所が増えていた。


「……本当に、街になったな。要塞化されているけど」


 ぽつりと呟くと、隣に立っていたエリシアが小さく頷いた。


「そうだな。私は一度、王都へ戻る」


 その言葉は、どこか区切りを告げるような響きを持っていた。


「ただし、騎士は数名ここに残す。拠点としての価値は既に確定しているからな」

「そりゃどうも」


 軽く返す。


「……本当に来ないのか?」

「行かん」


 即答すると、エリシアは苦笑した。


「だろうな」


 それだけ言って、彼女は背を向ける。

 去り際の足取りは軽く、どこか満足げにも見えた。


 ――それから数ヶ月。


 結論から言えば、領主は決まった。

 レオンだ。

 正式に男爵位を授かり、このローヴァの領主として認められたらしい。


「クロムさん! あなたって人は!」


 ある日、工房に怒鳴り込んできたレオンが、開口一番そう叫んだ。


「なんで僕なんですか!」

「似合ってるぞ、男爵様」

「茶化さないでくさいよ!」


 顔を真っ赤にしているあたり、まだ慣れていないらしい。

 まあ、当然か。


「安心しろ、困ったらミーナがどうにかする」

「妻に丸投げしないでくさい!」


 いいツッコミだ。

 ミーナの方はというと、意外にも落ち着いていて、既にそれなりに領主としての立ち回りをこなしているらしい。

 人ってのは分からんもんだ。


 そして俺はというと、相変わらず工房に籠もっていた。

 鉄を打ち、火を見つめ、形を作り、試し斬りをして、また改良する。

 その繰り返し。

 だが、その単調なはずの日々は、不思議と退屈とは無縁だった。


「……さて、次はどうするかね」


 手にした新しい武器を軽く振りながら、俺は口元に笑みを浮かべる。

 この街は、まだまだ変わっていく。

 人が増え、技術が集まり、いずれは王都にすら並ぶ場所になるかもしれない。

 だが、それは俺の役目じゃない。

 俺はただ、ここで好きな鍛冶をするだけだ。

 それで十分だし、それがいい。


 火花が散り、鉄を叩く音が響く。


 その音に耳を傾けながら、俺はゆっくりとハンマーを振り上げた。

 この手で、どこまでいけるか、試してみるのも悪くない。


 俺の理想の鍛冶ライフはまだまだ続く。




 ――第一章【完】――


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