第33話:ローヴァの要塞化4
そこから先の展開は、ある意味で拍子抜けするほどに順調だった、と言ってしまえば聞こえはいいが、実際のところは〝順調にならざるを得なかった〟と表現した方が正確かもしれない。
なにせ、現場に投入されている道具が、もはや常識という枠組みを軽く踏み越えた代物ばかりなのだから、人力で進まない理由を探す方が難しいというのが実情だった。
スコップで一掘りすれば地面が数メートル単位で抉れ、ツルハシを振るえば岩がまるで乾いた土塊のように砕け散るという光景が当たり前。
この時点で、「重労働」という言葉はこの現場から静かに消滅していた。
結果として、当初は数ヶ月単位で見積もられていた外周の堀の造成は、わずか数日で大枠が完成するという、なかなかに頭のおかしい進行速度を叩き出すことになった。
戦国時代の人が見たら仰天すること間違いない。
「……いや、早すぎだろ」
完成した外周の堀を見下ろしながら、思わずそんな感想が口から漏れる。
幅も深さも十分、落ちたらまず無事では済まない程度にはしっかりとした障害物になっており、防衛ラインとしての機能は十分に果たしていると言っていい出来栄えだった。
「お前が言うな」
隣から飛んできたエリシアの冷静なツッコミに、俺は軽く肩を竦める。
まあ、原因の大半が俺であることは否定しない。
否定はしないが、それはそれとして――結果が出ているなら問題ないだろう、というのが職人としてのスタンスである。
「で、次は二の丸ってやつか?」
「……その呼び方はどこから来ているのかは聞かないでおこう」
聞かないでくれるなら助かる。説明が面倒だからな。
ともあれ、次の工程は内側の防衛ライン、つまり二層目の堀の造成へと移行することになり、現場は再び活気を取り戻しながら作業を再開していった。
だが、俺としてはただ同じ作業を繰り返すつもりはない。
効率化とは、一度やって終わりではなく、常に更新され続けるものだ。
「……次に必要なのは」
少し離れた場所で腕を組みながら、頭の中で工程を整理する。
堀ができ、防衛ラインが整う。
その次に来るのは――。
「街だな」
呟きながら視線を周囲へと巡らせる。
拡張された空間に建物を増やしていくとなれば、当然ながら大量の資材が必要になる。
石も使うが、数と加工のしやすさを考えれば、主軸になるのは木材だ。
「……木が足りねぇな」
いや、正確には足りてはいる。
魔境は近いし、切ればいくらでも手に入る。
問題は――その〝切る〟という工程の効率だ。
「……あー、なるほど」
思考が一周して、ようやく納得する。
今まで気づかなかったのが不思議なくらい単純な話だった。
「切る道具、しょぼすぎる……」
斧もあるし、最低限の鋸もある。
だが、どれもこれも「できるからやってる」レベルであって、「最適化されている」とは言い難い。
だったら答えは簡単だ。
「作るしかないな」
再び工房へと引きこもる。
木材専用――それも、ただ切るだけではなく、圧倒的な効率で伐採を可能にする道具。
刃の角度、振動の伝達、魔力の流し方、対象の材質に対する最適化。
考えることはいくらでもあり、それを一つ一つ形に落とし込んでいく作業は、やはり楽しい。
そして数日後。
「よし、完成」
手にしたのは、一見すればただの鋸。
だが中身は、当然ただではない。
対象を〝木材〟に限定することで、余計な負荷を削ぎ落とし、その分だけ切断性能に全振りした特化型。
いわば――木殺しだ。
「おい、これ使ってみろ」
現場で適当に一人捕まえて手渡す。
男は首を傾げながらも、近くの木に刃を当て――シュッ。
「……え?」
一瞬だった。
音すらほとんど鳴らず、次の瞬間には大木がゆっくりと傾き、そのまま地面へと倒れ込む。
沈黙。
そして――。
「はあああああああああああ!?」
まあ、そうなるよな。
「何だそれは!」
「木が紙みたいに切れたぞ!?」
ざわめきが一気に広がる中、エリシアが額を押さえながらこちらを見る。
「……もう驚かないつもりだったが、やはり無理だな」
「進めるための工夫だよ」
軽く言うと、深いため息が返ってきた。
「お前の工夫は、いつも極端すぎる」
「効率重視って言え」
その後、鋸が配られ、伐採作業はもはや別次元の速度へと突入した。
木が倒れ、運ばれ、加工され、建材へと変わっていく流れが、滝のように加速していく。
そしてさらに数日後。
王都からの増援が到着した。
騎士、職人、労働力――どれも十分すぎる人数が揃い、しかも既に住居の受け入れ体制も整っているため、混乱はほとんど起きなかった。
むしろ、準備が整いすぎていて若干引かれていた気がするが、まあ気にしない。
そこから先は、もはや雪崩だった。
人手と道具が揃った結果、街作りは一気に加速し、日を追うごとに景色が変わっていく。
建物が増え、道が広がり、機能が追加されていく。
ローヴァは、確実に村から街へと変わり始めていた。
――そんな中で。
「……さて」
俺は工房の中で腕を組み、目の前に並べられた素材をじっと見つめていた。
木材、鉱石、魔物素材。
どれも上質で、加工すればいくらでも形になる。
問題は――。
「何作るか、だよな」
ぽつりと呟く。
防衛拠点としての街が形になりつつある今、必要になるのは間違いなく武器だ。
だが、その方向性が定まらない。
量産か、特化か。
汎用か、対魔物特化か。
考えれば考えるほど、選択肢が増えていく。
「……珍しく悩んでいるな」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはエリシアが立っていた。
「何を作るつもりだ?」
「武器だな。ただ、どういうのにするかで悩んでる」
正直に答えると、エリシアは少し考えた後、口を開く。
「ならば、剣や槍を量産すればいいのではないか。騎士たちにも扱いやすい」
うん。量産は好きじゃない。
「……帰れ」
「なぜだ」
即答すると、真顔で返された。
「ありきたりすぎる。参考にならん。論外だ」
「実用性を重視しただけだ」
「つまらん」
ばっさり切り捨てる。
「もっとこう、ロマンとかねぇのか」
「武器にロマンを求めるな」
正論だが、それはそれ、これはこれだ。
「とにかく、今は邪魔だ。いい案思いついたら呼ぶ」
「……理不尽だな」
呆れたように言いながらも、エリシアは素直に工房を出ていった。
静かになった空間で、俺は再び素材へと視線を落とす。
「さて……どうするかね」
口元にわずかな笑みを浮かべながら。
俺は、新しい武器の構想を練り始めるのだった。
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