第1話:魔境とパイルバンカー
俺は今、鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。
その手に握られているのは、俺の身長以上はある巨大な機械仕掛けの武器。
いや、武器と言うには些か巨大すぎるそれは、まさに、人が扱うことを前提としていない代物だった。
にもかかわらず、俺の手の中では、これ以上ないほど馴染んでいる。
当然だ。
俺が、一から作った武器――『試作型貫杭機構』。
まあ、『パイルバンカー一号機』ってところだ。
重量おおよそ四百五十キロのそれは、あらゆる存在を一撃で屠る威力を秘めている。
そのような代物をどうやって作り、どうやって持っているのか。
「――グルァァァァァァアッ!」
突如、目の前に現れた巨大な、中型トラックほどの大きさをした黒い虎の形の生物。
目は赤く、牙はサーベルのように伸びており、四肢は筋肉質で太い。
「へぇ……テネブラ・ファングか。Sランクの魔物とは、ご褒美か? いや命がけの福引きだなこれ」
目の前の魔物は、一匹いれば街一つが壊滅するクラスであり、軍隊が出ても討伐には多くの犠牲が出る。そんなレベルの魔物がこの森には跋扈している。
ゆえに、人々はこの森を〝魔境〟と呼んでいる。
「さて、パイルバンカーの実技試験と行こうか」
パイルバンカーを構え、目の前の魔物と対峙する。
正真正銘、命を賭けた戦い。
「まあでも安心してくれ。俺はロマンのためなら命も張る男だ」
向こうもこっちの武器を警戒してか、中々攻撃をしてこない。
「お、いいね。わかってるじゃないか。警戒するタイプか。なら、こっちから行かせてもらうぜ!」
俺は地面を踏みしめ――駆け出した。
それに合わせて、向こうも動き出す。
地面を蹴った瞬間、足裏から伝わる感触が一瞬で消え、視界の端にあった木々が線のように流れていく。
重さ四百五十キロの鉄塊を片手で振り回しながらの突進――常識的に考えれば自殺行為だが、今の俺にとってはこれが一番効率がいい。
「――チッ!」
テネブラ・ファングの動きは、予想よりも遥かに速かった。
黒い巨体が、地を抉るようにして横へと跳び、次の瞬間には俺の側面へと回り込んでくる。
筋肉の収縮が見えた時点で回避行動を取ったが、それでも一拍遅い。
鋭く振るわれた前脚が、空気ごと俺を薙ぎ払った。
「ッ……!」
咄嗟にパイルバンカーを盾のように構える。
直後に金属と肉体がぶつかる鈍い衝撃。
腕にかかる負荷が骨まで響き、身体ごと数メートル後方に弾き飛ばされる。
背中から地面に叩きつけられ、肺の中の空気が強制的に吐き出された。
「カハッ……」
ゆっくりと立ち上がりながら、俺は軽く首を回す。
「今の、レビュー☆1だな……」
まともに食らっていれば普通は即死だ。だが、武器で受けたことでダメージは最小限に抑えられている。
「やっぱり、初見で当てるのは難しいか。説明書もチュートリアルもないしな」
問題は明確。
「取り回しだな」
この武器は重すぎる。
いや、扱えないわけじゃない。だが、当てるための動作がどうしても一拍遅れてしまう。
対して、あの化け物は軽い。巨体のくせに、まるで影のように動く。
「グルルァァ……」
低く唸りながら、テネブラ・ファングが距離を詰めてくる。
赤い瞳は、完全に俺を狩る側として捉えていた。
「おー怖い怖い。完全に食う側の顔してるな。でも残念、俺の視点だと解体待ちの資源だ」
口元を歪めながら、俺は再び構えを取る。
今度は、無闇に突っ込まない。
相手の動きを、しっかり観る。
脚の筋肉の動き、重心の移動、呼吸の間――ゲームで何千何万と繰り返してきた観察を、現実でそのままなぞる。
――来る。
次の瞬間、テネブラ・ファングが素早い速度で踏み込んできた。
右か。
俺は半歩だけ身体をずらす。
耳元を掠める風圧とともに、牙が空を裂いた。
「……やっぱりな」
回避はできる。
だが、反撃が間に合わない。
振りかぶる、狙う、撃ち出す――その一連の動作が、どうしても遅い。
その隙を突くように、二撃、三撃と連続で攻撃が叩き込まれる。
受け、往なし、避ける。
だが攻められない。
「なるほど、これは簡単じゃないな」
息を整えながら、思考を回す。
パイルバンカーは、一撃の威力に全振りした武器だ。
つまり――当てれば勝ち。
逆に言えば、当てられなければ意味がない。
「だったら」
必要なのは、当てるための状況を作ること。
俺はわざと、大きく踏み込んだ。
隙だらけの動き。
案の定、テネブラ・ファングの目が細められる。
「――グァァァッ!」
一直線に突っ込んでくる。
牙を突き出し、確実に仕留める軌道。
だが、それでいい。
俺は逃げない。
むしろ、さらに一歩踏み込む。
「さあ、完璧な角度で来てくれ。加工の都合上な」
交差する軌道。
牙が胸を貫く――その直前。
「――そこだ!」
俺は武器を捨てた。
一瞬、テネブラ・ファングの動きが鈍る。
あり得ない行動に対する本能的な躊躇。
その一瞬で十分だ。
俺は横に滑り込み、無防備になった脇腹へと潜り込む。
そして、地面に落ちたパイルバンカーのグリップを掴み、身体全体を使って持ち上げる。
「重っ……!」
しかし、距離、角度、タイミングのすべてが揃った。
これ以上にない、千載一遇のチャンスを前に俺は――引き金を引いた。
「一撃必殺ッ! ロマン武器こそ至高ッ! 喰らいやがれ!」
内部機構が咆哮するように唸り、圧縮された力が一気に解放される。
次の瞬間、轟音が森全体に響き渡る。
杭が射出され、テネブラ・ファングの胴体を貫いた。
装甲のような毛皮、分厚い筋肉、骨、内臓も、何もかもを無視して一直線に。
一拍遅れて、衝撃が爆ぜる。
巨体が宙に浮き、そのまま地面へと叩きつけられた。
沈黙。
しばらくの間、森には何の音も響かなかった。
そして、ゆっくりと息を吐きながら、俺は武器を下ろす。
目の前には、完全に動かなくなったテネブラ・ファングの亡骸。
「威力は、文句なし」
正直、ここまでとは思っていなかった。
一撃でSランクを沈める。理論上は可能だと思っていたが、実証できたのは大きい。
「問題はこっちか……」
俺は撃ち出した杭を確認する。
先端はひしゃげ、亀裂が入り、もはや再使用は不可能な状態だった。
本体も威力に耐えられなかったのか、劣化が起きている。
「現状、一発限りか。コスパ最悪じゃねぇか。ロマンの代償が重い……」
まあ、予想通りではある。
あの衝撃に耐えられる素材を、今の俺は持っていない。
「なら、強度を上げるしかない。幸いにも、素材は手に入った」
視線を、倒した魔物へと向ける。
黒い体毛、異様に硬そうな骨格、そして――あの牙。
「……いい素材が揃ってるじゃないか」
俺は膝をつき、死体の解体を始め、価値のある部位を見極めていく。
骨は高密度で、金属に近い性質を持っている。
牙はさらに上だ。魔力を帯びており、衝撃に対する耐性が異常に高い。
「これをベースに合金を組めば……」
脳内で、いくつものパターンが組み上がっていく。
鉄だけじゃ足りない。
この牙を粉砕して混ぜるか、それとも芯材として使うか。
衝撃吸収と貫通力の両立――難しいが、不可能じゃない。
「……いいな、次が見えてきた。最高のロマン武器を作ってやる」
思わず笑みが漏れる。
強敵を倒した達成感よりも、新しい武器の設計が浮かんだときの方が、よほど楽しい。
必要な素材を回収し終えた俺は、立ち上がる。
「さて、帰るか」
こうして俺は帰路に着くのだった。
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