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転生鍛冶師の武器無双~自作の武器でSランクの魔物を相手に試し斬りしていたら、何故か最前線で送られることになったんだが~  作者: WING
第3部

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第16話:適材適所

 ――戦場の空気が崩壊した。


 ついさっきまで、人と人が殺し合うために張り詰めていた緊張は、突如として現れた魔物の大群によって、あまりにも脆く、あまりにも無様に、音を立てて崩れ去った。


「な、なんだあれは!?」

「魔物だと!? こんな数……あり得ない!」

「陣形を維持しろ! 崩れるな、崩れるなァッ!!」


 怒号と悲鳴が入り混じる。

 王国軍の統制を保とうとする声と、恐怖に飲まれた声が衝突し混濁している。

 帝国の動きはまだ見えないが、何かしら仕掛けてくることだろう。

 それにしても……。


「……うじゃうじゃいるなぁ、おい」


 視界の先、ものすごい勢いで押し寄せてくる魔物の群れは、どう控えめに見積もっても災害の域に達しており、あれを前にして冷静でいろという方が無茶な話である。

 

「いいねぇ……」


 俺はそのような災害を前に、思わず口元を緩めた。

 理由など決まってる。


「素材が、向こうからやってきたな」


 そう呟いた瞬間、自分でも「我ながらブレねぇな」と軽く呆れたが、事実なのだから仕方がない。

 普通の人間が見れば絶望的な光景でも、俺にとっては〝宝の山〟でしかないのだから、価値観というのは本当に厄介だ。


「クロム殿! これは――!」


 隣で完全に顔色を変えている部隊長が、こちらに何か言おうとするが。


「説明は後だ。っていうか見りゃわかるだろ」


 軽く手で制しながら、視線は一切魔物の群れから逸らさない。


「で、だ」


 一歩、前に出る。


「ここから先は、俺の仕事だ」

「……は?」


 間の抜けた声が返ってきたが、気にしない。


「お前たちは下がれ。巻き込まれるぞ」

「な、何を言って――!」

「いいから聞け」


 少しだけ声のトーンを落とす。

 それだけで、部隊長の動きが止まった。


「これは戦争ではなく魔物の処理だ」


 俺は肩を竦める。


「軍人には専門外だろ?」


 その一言で、部隊長は言葉を失った。

 まあ、そりゃそうだ。

 人間同士の戦いと、魔物の大群の処理は、似ているようでまったく別物だ。

 確かに軍でも魔物の討伐などは行うだろうが、それでも本職などに比べればだ。


「それと、全体指揮を執っているグラントたちには伝令を出せ」

「っ……な、なんと伝えれば!?」

「簡単だ」


 俺は、にやりと笑った。


「魔物は俺が片付けるってな」


 沈黙。

 数秒遅れて、部隊長が叫ぶ。


「む、無茶です! あの数を一人でなど――!」

「無茶かどうかは、やってから判断するが、まあ見た感じ雑魚ばかりだから問題ないだろ」


 軽く言い捨てる。


「ほら、さっさと行け。時間がない。それと、左翼には討ち漏らした魔物の対処と、帝国軍」

「……っ、伝令! 本部へ急行しろ! クロム殿の言葉をそのまま伝えろ! 左翼も同じだ!」


 ようやく動き出したか。

 それを横目に、俺は大きく息を吐いた。


「さて、と」


 腕輪に魔力を流す。

 空間に黒い穴が開き、内部に眠る無数の武器の気配が意識に流れ込んでくる。


「どれから試すかねぇ……」


 この状況でそれを考える自分に、ちょっとだけ笑えてくる。


「……まあいい」


 足に力を込める。


「全部試せばいいか」


 笑みを浮かべた俺は、次の瞬間には地面を蹴っていた。

 爆ぜるような踏み込みと同時に、身体が一気に前方へと加速する。

 風が唸り、景色が流れ、あっという間に魔物の群れとの距離が詰まっていく。

 普通なら自殺行為だが。


「ははっ……!」


 自然と口元が弧を描く。

 目の前に広がるのは、無数の獲物。

 しかも質はちょっと不満だが、量は申し分ない。


「最高じゃねぇか……!」


 〈鍛冶師〉として。

 そして、素材を求める者として。

 これ以上ない『収納の腕輪』に眠った武器の試し斬り日和だった。



 ◇ ◇ ◇



 王国軍本陣、天幕内。

 そこでは、先ほどまでの戦況報告を受けていた第二王子グラントと、第五騎士団団長シルフィアを中心とした指揮官たちが、重苦しい空気の中で次の一手を模索していた。


「……クロム殿の投入は、想定以上の効果を発揮しているな」


 グラントが静かに呟く。

 報告書に目を落としながら、その内容を反芻するように。


「左翼の維持どころか、敵の戦力を大きく削いでいる。まさに〝壁〟として機能していると言っていい」

「はい」


 シルフィアも頷く。


「正直、ここまでとは……」


 その言葉には、わずかな驚きが混じっていた。

 規格外であることは理解していたが、それでもなお想定を上回ってきた――そんな評価だった。


「――報告!」


 天幕の外から慌ただしい足音とともに声が響き、伝令兵がなだれ込むように入ってきた。


「左翼方面に――魔物の大群が出現しました!」


 その一言で、空気が凍りついた。


「……なんだと!? 規模は!?」

「不明! ですが視認できる範囲だけでも数百……いえ、それ以上かと!」

「馬鹿な……!」


 参謀の一人が顔を歪める。


「このタイミングで左翼に魔物だと!?」

「クロム殿の言っていた、帝国の策か……!」


 ざわめきが広がる。

 混乱、焦燥、そして危機感。

 だが、その中で。


「……なるほど」


 グラントはすぐに冷静さを取り戻していた。


「陽動の本命は、それか」

「殿下!」


 シルフィアが鋭く声を上げる。


「左翼は崩壊の危険があります。直ちに増援を――」

「その通りだ。だが――」


 言いかけたその時。


「し、失礼します!」


 別の伝令兵が飛び込んできた。


「クロム殿より伝言です!」

「内容は!?」


 シルフィアが即座に詰め寄る。

 伝令兵は息を整え、一言。


「魔物は俺が対処する、とのことです!」


 ――沈黙。

 そして、誰かが間の抜けた声を漏らしていた。


「対処、だと……?」

「一人で、あの規模を……?」


 ざわめきが再び広がる。

 だが、今度は恐怖ではなく、困惑と驚愕だった。

 そして、グラントが小さく笑った。


「……ふっ。本当に、彼には驚かされる」

「殿下、笑い事ではありません!」


 シルフィアが一歩前に出る。


「いかにクロム殿が規格外とはいえ、あの数を単独で相手にするなど――」

「無謀、か?」


 グラントが問い返す。


「……はい」

「だが、彼はそれを理解した上で言っている」


 断言だった。


「ならば――」


 グラントは視線を上げる。


「信じる価値はある」


 シルフィアは、一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 だがすぐに、強く頷く。


「……承知しました。第五騎士団、出撃準備!」


 踵を返し、指示を飛ばす。

 その声に、周囲が一斉に動き出す。


「私が行きます」


 振り返りもせずに、シルフィアは言い切った。


「クロム殿の援護、そして状況の立て直し――いずれにせよ、現地で判断します」

「任せる」


 グラントは短く答える。


「必ず生きて帰れ」

「当然です」


 そう告げ、シルフィアは天幕を飛び出した。


 向かうは左翼戦線へ。

 一人で魔物の大群に突っ込んだ、非常識な〈鍛冶師〉のもとへ。




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