第12話:王様と
「……ちょっと待て」
俺は、王城のやたらと天井が高くて声が無駄に反響する廊下を歩きながら、隣を歩くエリシアに向けて、露骨に面倒くさそうな声色で口を開いた。
「いきなり謁見ってどういうことだ、説明を求める」
いやほんと、段取りってものがあるだろ普通、せめて「明日会うから今日は休め」とか「風呂入っとけ」とか「最低限の礼儀を覚えろ」とか、そういうクッションがあるもんじゃないのかと思うのだが、どうやらすっ飛ばされたらしい。
俺としては別に構わないが、構わないからこそ逆に気になるというか、「なんでそんな急ぐの?」という疑問が浮かぶのは当然の流れである。
「陛下が、どうしても直接会いたいと仰られてな」
エリシアは歩みを止めることなく、淡々とした声音でそう答える。
「……なるほど、トップ自ら見極めに来たってわけか」
俺は軽く鼻を鳴らしながら、頭の中で状況を整理する。
国家レベルの資源をぶんどる契約を結ぼうとしている相手が、どこの馬の骨とも知れない〈鍛冶師〉――いやまあ一応デヴォウラーを単独で処理した実績はあるにせよ、それでも素性の知れない存在である以上、国王としては直接確認したくなるのは当然だろう。
「……まあいい」
俺は軽く肩を竦める。
「どうせ素材の使用権もらう以上、顔くらいは出してやるよ」
「随分と上からだな……」
「だってそっちが俺を欲しがってるんだろ?」
事実を述べただけだ。
エリシアは小さくため息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。
そして、通された先は、いかにも「ここが王様のいる場所です」と言わんばかりの広間であり、扉が開いた瞬間に感じる空気の重さと、左右に整列する貴族だの近衛騎士だのの視線の圧が、これでもかと「お前、場違いだぞ」と主張してくるのだが。
「……うん、帰っていい?」
「駄目だ」
即答だった。
だよね。
仕方がないので、俺はそのまま無遠慮に歩みを進め、玉座の前まで行く。
普通ならここで膝をつくだの頭を垂れるだの色々あるのだろうが。
「クロム殿、礼を――」
「断る」
エリシアの小声を遮り、そのまま普通に立ったまま国王と目を合わせる。
瞬間、四方から殺気が向けられる。
「無礼者! 陛下の御前であるぞ!」
「跪けぬか貴様!」
「どこの田舎者だ!」
まあ、予想通りの反応である。
「……止さぬか」
その声に、そのざわめきが一瞬で止まった。
ただ、殺気だけは向けられているが。
玉座に座る男――アルヴァレン国王が、静かに手を上げたからだ。
「礼など構わぬ」
穏やかでありながら、威厳を帯びた声が広間に響く。
「今回の客人は特別だ。礼儀を問う場ではない」
おお、話が早い。
俺は内心でちょっとだけおっさんの評価を上げる。
「寛大で助かるよ」
「……クロム殿!」
横からエリシアの小声のツッコミが飛んでくるが、無視だ無視。
「私はエドリック・ハイネス。アルヴァレン。アルヴァレン王国の現国王である。クロム殿、本来ならば非礼を詫びるところだが――」
国王は静かにこちらを見据える。
「その必要もないようだな」
「礼儀を求められても困るし、俺がこうだからな。謝罪は必要ない」
あっさり返す。
「まあ、礼儀や作法を求められたら、その場合は契約破棄。ついでに帝国あたりにでも行ってたかもな」
再びざわめきが起きる。
さっきより大きいな。
学習能力ないのかこいつら。
「黙らぬか」
エドリック国王の一言で、また一瞬で静まる。
便利だなこの人。
「……クロム殿」
エリシアが低い声で釘を刺してくるが。
「今さら取り繕っても意味ないだろ」
肩を竦めて返す。
どうせこういうのは最初が肝心だ。
舐められたら終わる。
その後も、俺とエドリック国王の会話は妙にスムーズに進んだ。
事前にエリシアと詰めた内容をベースに、契約の細部を一つ一つ確認し、修正点を潰し、最終的な文面へと落とし込んでいく作業は、下手な鍛冶よりも神経を使うが、その分だけ面白さもある。
そして。
「……以上の条件で、相違ないな?」
「ああ、問題ない」
差し出された契約書に目を通し、俺は迷いなく頷いた。
「では――」
エドリック国王が合図を出し、正式な契約が締結される。
――これで。
王国と王家が管理する素材の大半は、俺のものになった。
「……やばいな、これ」
思わず小さく呟く。
いやほんと、やばい。
一人興奮していると、声を掛けられる。
「クロム殿」
エドリック国王が、静かに口を開く。
「一つ、頼みがある」
「ん?」
「我が国に、力を貸していただけないか」
俺は一瞬で理解する。
この流れ、このタイミング、この言い方。
強制ではない〝お願い〟。これは契約に反していない。
「戦争関係か」
「……うむ」
エドリック国王は苦笑するように頷く。
「帝国との戦争を終わらせるためにも、クロム殿の力は必要不可欠だ」
「ふむ……いいぜ」
承諾したのには訳がある。
「その代わり、報酬はもらう」
――瞬間。
「ふざけるな!」
「どこまで強欲なのだ!」
「すでに十分すぎるほど――!」
はぁ……さっきから忙しいなこいつら。
若干イラついてしまう。
「外野は黙ってろよ」
一言で切り捨てる。
「さっきの契約は俺を囲い込むためのもの」
冷徹に、淡々と告げる。
「これは契約とは別件だ。労働には対価が必要。それだけの話だろ」
沈黙。
今度はエドリック国王も否定しない。
「……その通りだ。クロム殿の言う通り、これはお願いだ。ゆえに対価は発生する」
理解ある国王で助かる。
「では、望む報酬は?」
「そうだな……」
考える。素材など貰えるものはすでに最初の契約でもらっている。
なにかいいものは……
考えていると、エドリック国王が提案してきた。
「最新の工房を王都に用意するというのはどうだ?」
ざわり、と空気が動く。
「……最新の工房を王都に、か」
「うむ。悪くないと思うが、どうだ?」
「断る」
俺は即座に首を横に振った。
「……何?」
今度は国王が驚いた顔をする番だった。
報酬は悪くない。俺の工房は自作であり、所々造りの荒い個所がある。
問題は、王都に工房を作った際の弊害だ。
「作るなら、俺の住んでいるローヴァだ」
「理由を訊ねてもよいか?」
俺は説明する。
「理由は三つある」
そうして人差し指を立てる。
「一つ目。魔境の魔物から得られる素材。これは魔境という環境が生み出す、素材の質だな」
人差し指に続けて中指を立てる。
「二つ目。魔境の強力な魔物を相手に試し斬りが出来ること。エリシアと会ったのも、試し斬りの最中だったからな」
最後に、薬指を立てる。
「最後の三つ目は……あの村の居心地がいいから」
あそこはいい。
静かで、邪魔が少なくて、素材も魔境から好きなだけ取れ、試し斬りの相手が沢山いる。
何より、田舎では面倒くさい権力争いがない。
「王都は騒がしすぎる」
「……なるほど」
エドリック国王は少し考え込むように顎に手を当てる。
「では、その村に工房を建てよう」
「……あ?」
一瞬、思考が止まる。
「王都と同等、いやそれ以上の設備を持つ工房を、ローヴァに建設する」
さらっと、とんでもないことを言いやがった。
「資材、人員、技術、すべて王家が用意する。クロム殿専用の工房だ」
「それ、もう村じゃなくなるだろ」
思わずツッコんだ。
「問題あるか?」
「……いや」
少しだけ考える。
最高設備の工房。魔境に隣接。素材は無限供給。生活環境は据え置き。
……あれ?
「……ないな」
むしろ理想じゃね?
「いいだろ、それで手を打つ。ただし、今ある俺の工房を改装ってことにしてくれ。そこまで大きいのは求めていない」
「うむ。では設計はクロム殿に一任で構わないか?」
「問題ない。俺の工房だ。俺が設計する方がいい」
俺はにやりと笑った。
「ってことで、成立だな」
こうして。
俺の環境は、進化することが決定した。
背後では、エリシアと騎士たちが完全に言葉を失っていたが、気にしないことにした。
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