第13話:どうしてこうなった
――数日後。
「……なんで〈鍛冶師〉の俺が最前線に立ってるんだ……?」
視界いっぱいに広がるのは、踏み荒らされた大地と、鉄と血の匂いが混ざり合った、いかにも「戦場です」と自己主張してくる空間。
そのど真ん中にぽつんと立たされている自分の現状を、やや引いた目で俯瞰しながらそう呟いた俺は、どう考えても配置ミスか人選事故か、あるいは誰かの悪意が働いているとしか思えない状況に対して、冷静にツッコミを入れざるを得なかった。
いやほんと、どこをどう間違えたら素材目当てで契約しただけの〈鍛冶師〉が最前線の兵力として立たされているのか、設計図があるなら一度見せてほしいレベルで理解不能なのだが――まあ、原因については心当たりがないわけでもない。
「……あの国王、謀りやがった」
俺は軽く天を仰ぎながら、数日前の出来事を思い返す。
それは王城での謁見の場にて、国王――エドリックから「力を貸してほしい」と言われ、こちらとしては「武器を作ってほしいのかな」と思って引き受けたつもりだった。
詳細は別室でとなり、美味しいお茶を飲みながら話はトントン拍子に進み、気づけば「では、現地で確認してほしい場所がある」という、なんとも曖昧かつ嫌な予感しかしない依頼へと変貌していたのである。
そして、国王が『紹介しよう』と言って部屋に一人の騎士が入ってきた。
銀髪に赤い瞳を持つ、いかにも「高貴です」と書いてあるような美人でありながら、その佇まいにはどこか堅苦しさがあり軍人らしい印象に残る女騎士だった。
『第五騎士団団長を務めている。今回の件では、彼女の指示に従ってほしい。自己紹介を』
『シルフィア・ヴァルデランだ。第五騎士団団長を務めている。クロム殿、よろしく頼む』
名乗りと同時に感じたのは、無駄のなさだ。
声音も、姿勢も、視線も――すべてが規律で固められている。
なんか、エリシアと同じ匂いを感じる。
厳格な感じとか。
『ではクロム殿、出発は明日だ』
『まって。早くない?』
この辺から嫌な予感が加速したのは言うまでもない。
さらに言えば、数百規模の兵を率いての行軍という時点で、「あ、これ絶対鍛冶の仕事じゃねぇな」と確信はしていたのだが、途中で何度か目的地を尋ねたが『任務の詳細は現地にて説明する』の一点張り。
「……で、現在に至ると」
はい、どうみても最前線です。
どうしてこうなった。
「納得いかねぇ……マイ鍛冶ライフを返してくれぇ……」
嘆きながら隣へ視線を向ける。
そこには、背筋を一切崩さず、まるで戦場そのものを統制しているかのように佇むシルフィアの姿があった。
銀髪が風に揺れ、赤い瞳は微動だにせず前線を見据えている。
隙がない、というより〝隙という概念が存在しない〟ような立ち方だった。
「なあ、シルフィア」
「どうした?」
即答。迷いゼロ。
「帰っていい?」
「却下だ。任務中だ」
間髪入れずに否定された。
「いやほら、俺の本業鍛冶だし? 戦場とか専門外だし? 帰って炉の火でも見てた方が世界平和に貢献できると思うんだが?」
「クロム殿は既に公然の場で、陛下のお願いに〝協力する〟と明言した」
「言ったな、確かに言ったさ」
「であれば、この任務への参加は当然だ」
淀みない。完全に論理で殴ってくるタイプだ。
「拡大解釈がすぎるだろ!?」
俺は思わず頭を抱える。
「それに、陛下の願いごとに言及しなかったクロム殿にも責任がある」
「ぐぬぬっ……目先の欲で先走ったか。この目を抉り取ってやりたいッ!」
反論の余地を与えない正論。
こいつ、絶対嘘つけないタイプだ。
「……はぁ」
思わずため息が出てしまう。
しかし、俺の言質を利用し、いいように扱われたってわけだ。
まったく。いつの時代、どの世界でも為政者というのは強かというのは変わらないらしい。
「……ほんと、王様ってのはどこの世界でも詐欺師の才能があるよ」
「この私がいる場でその発言、不敬だぞ?」
「聞こえるように言ってるんだよ」
小声ですらなく、完全に開き直りだ。
だが、シルフィアは眉ひとつ動かさなかった。
「しかし、詐欺であれ何であれ、クロム殿が了承した事実は変わりない」
「くそ、正論で殴るな。今の俺にはかなり効く」
ほんと、エリシアと同じ性格をしてやがる。
シルフィアに愚痴と不満を言っていると、後方から声がかかる。
「シルフィア団長」
振り返ると、そこには一人の男が歩み寄ってきていた。
どこか余裕を感じさせる雰囲気、そして何より周囲の騎士たちが一歩引くその空気から、ただ者ではないことは一目で分かる。
「これはグラント第二王子殿下」
シルフィアが即座に姿勢を正し、敬礼する。
ああ、なるほど。王子様ね。だからといって、俺は敬意を示すわけでもない。
「おや、君が報告に上がっていたクロム殿か」
グラントは俺を見て、興味深そうに目を細めた。
「聞いているよ。〈鍛冶師〉でありながら、規格外の戦力を持つ男だと」
「どうも。その噂の〈鍛冶師〉だよ。不満はいっぱいあるけどな」
軽く手を上げて返す。
「ただのしがない鍛冶屋なんで、過度な期待はしないでくれよ? なんなら帰って鍛冶したいんだが」
「はは、面白い」
グラントは愉快そうに笑う。
「戦場でその余裕、頼もしい限りだ。活躍を期待しているよ」
「期待されるとプレッシャーで性能落ちるタイプなんで、ほどほどに頼むぜ? なんなら俺を帰してくれ」
「それは困る」
軽口を交わしつつも、その視線はしっかりとこちらを見極めている。
……なるほど、こいつもまた頭が回るタイプか。
「では、任せた」
そう言い残し、グラントはあっさりと去っていく。
……いや待て。
「任せたって何をだよ」
思わずツッコむが、当然返事はない。
「……クロム殿」
横からシルフィアが静かに口を開く。
「前線への配置は、グラント殿下の意向でもある」
「だろうなぁ……」
頭が痛い。
「安心するといい。私がついている」
「それ安心材料になるか?」
「なる。私がいる戦線の防衛成功率は高い」
つまり守り役としては最強ってことか。
「……ああ、【守護者】ってそういう」
ここに来て、兵士が話していたのを聞いた。
彼女が出れば戦線を突破されることは極めて稀であり、その鉄壁さから帝国はシルフィアのことを【守護者】と呼んでいるとか。
「勝手に付けられた二つ名だ。忘れていい」
「いや忘れられるか」
二つ名とかカッコいいじゃねぇか! 羨ましい! 俺だってほしいよ。
……いや、冷静になれ。二つ名を貰うってことは、有名になるってことだ。つまり、鍛冶のできる時間が減ることになる。
「俺には必要ないな」
「そうか。では、行くとしよう」
シルフィアは迷いなく踵を返す。
その動きには一切の躊躇がない。
決断し、実行する――ただそれだけ。
「前線へ」
「……マジで行くのか」
俺は小さく息を吐きながら、その後に続いた。
……いやほんと、どうしてこうなった。
最後までお読みいただいてありがとうございます!
【私から読者の皆様にお願いがあります】
『面白い!』
『続きが気になる!』
『応援したい!』
と少しでも思っていただけた方は
評価、ブクマ、いいねをしていただければモチベーション維持向上に繋がります!
現時点でも構いませんので、
広告↓にある【☆☆☆☆☆】からポチッと評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れていただけたらと思います!
よろしくお願いします!




