第7四半期「声」
くそやろう!
レイカはケータイを投げつける。リョウはでない、ジョオもでない。
ふたりはメシを食っている、ジョオは説く、朝メシ中、テレビをみるのは三流、新聞読むのは二流、一流は、こうして感性をみがく――目をつむってベーコンをじっくり咀嚼する。
リョウもいちおう真似してみる、ジョオの声がする、よっしお前、言語化の練習だ、かんじたことをことばにしてみろ。
レイカは指をならす、使用人どもがくる、床にこすりつけさせた、その頭にミックスナッツを投げつける。踊りたい。新人が蓄音機をもってくる。鳴りだしたウィンナーワルツにレイカはぶちギレる、ベテランがでかいスピーカーを設置する。低音がひびく。部屋が暗くなる。スモークが立ちこめる。
カイトはあたりをうかがう、――部屋に飛びこむ。だれもいない。なにもない。カイトは端末を取りだして、「AKUBI」を起動する。動画を観はじめる。ゲームをしはじめる。汗がでる。呼吸がくるしい。動悸がする。顔が熱い。吐き気がくる。もうむりだ。げろを吐く。倒れこむ。
「ニーサを探しなさい」
「申し訳ございません」
「ニーサを探しなさい」
「こんなはずでは……」
「ニーサを探しなさい」
「想定外の」
「ニーサを探しなさい」
「事態です、しかし」
「ニーサを探しなさい」
「ご安心ください」
ジョオはいう。お前箸の持ちかたがなってないよ。食器の重ねかたがなってないよ。エレベーターの待ちかたがなってないよ。ドアの開けかたがなってないよ。歯のみがきかたがなってないよ。トイレのしかたがなってないよ。シャワーのあびかたがなってないよ。ズボンのはきかたがなってないよ。シャツの着かたがなってないよ。ジャケットの羽織りかたがなってないよ。道の歩きかたがなってないよ。信号の待ちかたがなってないよ。バスの乗りかたがなってないよ。ボタンの押しかたがなってないよ。降車のしかたがなってないよ。会社のえらびかたがなってないよ。
レイカは踊る、それから酒をのむ、パパから電話がくる、レイカは使用人をよぶ、注射器をもってこさせる、シャワールームへいく、しつこく電話がなる、使用人同士がささやき交わす、レイカがでてくるとテーブルに所望のものがある。なんでもくる、命じればこないものはない。レイカは酒をのむ、注射器をつかう、使用人どものかくし芸大会がひらかれる。たまらなくおかしい、レイカはパパに電話する。
カイトは「AKUBI」を中断する、水をのむ、それから薬も。外から声がする。どうせボンボンだよ。ばかなプレゼンをきかされるこっちの身にもなってほしい。冥王星だとよ。遊び半分に仕事してるんだ。コネで採ったからむげにもできない。やつのアニキはもういなくても、アニキの亡霊はそこらじゅうにいるから。
「ニーサを探しなさい」
「あの星に」
「ニーサを探しなさい」
「まちがいなくいるでしょう」
「ニーサを探しなさい」
「すぐに見つかります」
「ニーサを探しなさい」
「見つけてごらんにいれます」
「ニーサを探しなさい」
「それができなければわたしには」
「ニーサを探しなさい」
「存在する資格がない」
「ニーサを探しなさい」
ジョオさま。誠に残念ですが、貴意に添いかねる結果と相成りました。
ジョオさま。厳正な審査の結果、今回の採用は見送らせていただきたく存じます。
ジョオさま。残念な結果となってしまい申し訳ございませんが——。
ジョオさま。「不採用通知」。
ジョオさま。結果は以下の通りです。
ジョオさま。私どもといたしましても大変遺憾にございます。
ジョオさま。「不合格」。
ジョオさま。何卒ご理解のほどよろしくお願い申しあげます。
ジョオさま。今後の益々のご活躍を――。
ジョオさま。お祈り申しあげます。
――へえ、それじゃ、パパはわたしが死んでもいいんだ。……脅し? なんでそんなひどいこといえんの? わたし本気だし。安定剤なかったら一日ももたないし。でも死ぬならただじゃ死なないからね。脅迫とかじゃなくて、ただの事実。だってそうじゃん? わたしのいない宇宙になんの意味があんの? わたし、死後の世界とか信じてないから。……はあ? そんなこといってないでしょ? そんなにあいつがいいんならあいつに任せれば? 会社もカネもぜんぶくれてやればいいんじゃない? わたしもう死んでもいいとおもってるから。……ちゃんと勉強してるって! いまにわたしに感謝することになるわよ。ZAKURO社とか、楽勝でぶち抜いてやるから。あいつにそれができんの? ただの坊ちゃんでしょ。……ちがうって!
「AKUBI」起動、動画を観る、ゲームをする、ふるえがくる、吐く。動画を観る、ゲームをする、頭がわれそうだ、倒れこむ。動画を観る、ゲームをする、蕁麻疹がでて、中断。動画を観る、ゲームをする、胃がねじれる、気絶する。動画を観る、ゲームをする、悪寒がして、痙攣。動画を観る、ゲームをする、過呼吸で、服薬。
「ニーサを探しなさい」
「すぐに人員に」
「ニーサを探しなさい」
「調査を命じます」
「ニーサを探しなさい」
「もちろん秘密裡に」
「ニーサを探しなさい」
「悟られないように」
「ニーサを探しなさい」
「彼女のことも」
「ニーサを探しなさい」
「あなたのことも」
「ニーサを探しなさい」
「あなたを」
「ニーサを探しなさい」
くそが土星ローカルの弱小企業の部長ふぜいがたかだか年収八百万かそこらだろうSさんKさんNさんWさんの足もとにも及ばねえこんなごみくずに用はねえおれはこんなところにおさまる器じゃねえおれはもっとでかくなる過去は過去だろこれまでにおれがなにをしてきたかどんな生きかたをしてきたかそんなのすこしも本質じゃねえこいつらそれがわかってねえおれと他の連中のなにがちがうんだおれも仲間にいれてくれこのくずやろうくそやろうなんでこいつらの過去は武器になって勲章になって翼になって威光になってなんでおれのは枷になり重荷になり刺客になり十字架になるんだ、
「失望させたくない」
「ニーサを探しなさい」
「どうか」
「ニーサを探しなさい」
「失望しないでください」
「ニーサを探しなさい」
「何卒」
「ニーサを探しなさい」
「何卒、ご容赦の程を」
「ニーサを探しなさい」
死にたいわたしはすきでこんな家にうまれたわけじゃないすきであんなカネだけがとりえのくずおやじの娘にうまれたわけじゃない死にたいそれなのになんでわたしはこんなにせめられなきゃならないのつらい死にたいわたしは社長になりたい経営なんかしたくない死にたい生きてたくないあいつが社長になるのなんてみたくないわたしを差しおいて死にたいわたしはしたくないなんにもしたくない社長になりたい経営なんかしたくない社長にえらばれてそのまま死にたいあいつが社長になるのはみたくない生きてたくないわたしは
「待って」
「ニーサを探しなさい」
「行かないで」
「ニーサを探しなさい」
「行かないでください」
「ニーサを探しなさい」
「かならず」
「ニーサを探しなさい」
「探しだしてご覧にいれます」
「ニーサを探しなさい」
ぼくは兄さんの弟なんだいつまでたっても兄さんの弟でしかなく兄さんの弟であることがゆるされているのだから宇宙へ行くんだ行けないなんてはずはないそんなことあってはならないんだぼくは兄さんの弟なんかじゃないそれなのに兄さんの弟でしかいさせてもらえないだから宇宙へ行けないなんて知られてはいけないあってはならないぼくはここにいるべき人間でなくここにいさせてもらっている寄食者なのだからぼくは兄さんの弟でしかないのだからできないことはあってはならない宇宙へ行けないはずはないこれは甘えだ甘えじゃない甘えだ甘えじゃない甘えだ甘えじゃない甘えだ兄さんの弟なんだ、
「ニーサを探しなさい」
リョウは目を開けた。




