第39四半期「資産」
そこらじゅう星まみれだ。
これらはみんなガスのかたまりだと信じこんでいた。
しかしちがうのだ。
財貨だったのだ。
かたちのばらばらな金銀の硬貨群の無数の集団が大小さまざま、暗黒の宇宙のあちこちで殖えたり減ったり、消えたりまたたいたりをくりかえしている。
その変動は目まぐるしい。リョウは叫びたかった。きらびやかな大資産群のあっけない白色矮星化、ほんのお小遣い程度の星々の目をみはるような大爆発。
拝むまもなく流星が飛びかう。
流星じゃない。
ニーサなのだ。
ニーサが尾を引く光の営業車に乗ってこの大銀河中を駆けめぐり、こっちで硬貨をひろったり、あっちのほうでばらまいたり、死にかけの星を光らしたり、できたての口座を凍らしたり、すべての資産の明滅の度合いをつかさどっている。
やがて嘆願書の小惑星群に突入する。
存在は重税だ。できるだけまぬがれさせろというお声がある。
いいやとんでもない。それだけですばらしい利益なのだというお声もある。
永遠にかがやきたい星もある。宇宙もろとも消滅したい星もある。ビッグになりたい星もある。ミニマル志向の星もある――。
じつにわがまま放題だ。
しかしこの数えきれない書面の一枚は、じつは、知らないうちにリョウのしたためたものなのだ。
だれもがそうなのだ。だれもが知らずに筆をとり、かなたのお客さま対応センターにああいう書簡を投じてきたのだ。
おれはなにを要求したんだ? どこにおれの口座はあるんだ?
おれはなにをもっている? なんの見返りに、なにがもらえるんだ?
それを知るだけで一生ものの業務なのだ! リョウは重力にうちのめされかけた。
そこに差押予告通知書が飛来する。ひとつの資産群目がけて飛んでくる。
あそこはイシュテアさんの存在口座なのだ。
ダイクは彼女をまるごと認めるといっている。
それこそがあたらしい内定のかたちなのだといっている。
それならばどうしてあんな手紙がとどくのだろう?
リョウはよたよたと駆けよった。手つづきをはじめようとするニーサに、声をとばした。
奇妙なのだ。
いまの彼女の手つきには、光のなめらかさがない。星の威厳もない。
差押え!?
あれは記入されるべき書類なのだろうか?
ガラゴロとトラックたちがやってくる。舌なめずりをしながらやってくる。強制執行をはじめるつもりだ。
かれらはニーサの許可を待つ。
リョウはとまどった。
存在承認ってなんだかすばらしそうなかんじがする。
けれどもその第一歩が差押え? どういうわけだろう?
まるごとの承認のために、まずは資産をまるごと没収されるのか? なんだか話があべこべじゃないか?
――そんなのおかしい。おかしいよね?
しかし証書をしあげつつあるニーサをごろつきの衛星どもがとりまいていて、うかうかと近よれない。
そこでリョウはさっきのダイクのことばを思いだした。
――ほんとうにおそろしい人材、それは、やる気だけある無能。
そうか。リョウはおもった。いたずらだ。やっぱりおれはいたずら屋なんだ。
宇宙には星の数ほどの星でない仕事がある。
リョウはたぶんこの宇宙になんの贈りものも遺さずに死んでいくのだろう。
そして忘れられていくのだろう。
それならリョウは無能になる。
とびぬけてやる気のある無能になる。
仕事を手伝うふりならば、どんなごろつきもいたずらを止められない。
遠いむかしの光のようにニーサの真横にはりついて、前のめりにちょっかいをかけつづける。
カップを倒し、ミルクがこぼれ、できかけの書類にべちゃっとひとすじの天の川が走る……。




