第40四半期「UNIVERSE」
ビジネスパーソンが星ならば、もっとも輝くのは商談のときだろう。その商談の成果を左右するのが「表情筋」。
これは三十種類以上もあるらしいが、とくに前頭筋、眼輪筋、頬筋、口輪筋あたりをきたえることで、感情表現力はかなり向上するらしい。
そのためのトレーニングでもしているかのように、とつぜんニーサが「あー、いー、うー、えー、おー」といいだした。
おつぎは口をすぼめたり、鼻にシワをよせてみたり。かとおもえば、
「きゃっはははは!」
のけぞって大笑い。
ニーサ……? ダイクが声をかけた。
カイトとイシュテアはあぜんとしている。
しかしジョオなんて、ついさっきからあぜんとしっぱなしだ。
――ニーサ、だって?
みんないったい、なにをみてるんだ?
あれは、どうみたって――。
「――リョウ!」
そのよびかけに、ニーサがこちらをむいた。つぎの瞬間、彼女はもうリョウだった。
だれにとってもリョウだった。
なんだと!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!? とダイク。
指示待ちの機銃社員らをかきわけて、
「ニーサ! ニーサ!!」
部屋を走りでていってしまった。
機銃主任が機銃課長をみる。ふたり肩をすくめ、やはりダイクにつづいて出ていった。
カイトはダイクを追う。
ジョオは鉄のとびらを開けワークスペースに駆けいった。
リョウとジョオ。
ジョオとリョウ。
ハイタッチするふたりをみて、イシュテアに、微笑がうかびかけた。
――ジェイド。帰れよ。
前庭でジョオたちはイシュテアとカルロスに別れをつげた。
ふたりはヒョウガにもどるらしい。
イシュテアはいった。
「わたしは、敗軍の将。責任は、とるつもりだ」
リョウはそれが死ぬことを意味するのなら思いとどまらせたい、とかんじたが、さっきみた星々のことをおもいだすともうなにもかんたんにはいえないような気もしてきて、押し黙っていた。
彼女が去ってからおもった。
――でもやっぱり、止めるべきだったんじゃないのかな? それがいたずら屋として生きるっていうことなんじゃないのかな?
今後じぶんにその仕事がやっていけるだろうかという不安がうまれた。
カルロスはジョオと目もあわせようとしなかった。
「ニーサを探しなさい」
ひざまずくダイクにイデコはいった。こんな慈悲ぶかい笑みをたたえるひとはみたことがない。カイトはそうおもった。
「彼女は、どこへ――」
ダイクは泣いている。
硬貨に変わらない涙は涙じゃない。
どこかそんなふうにおもってしまっているじぶんに、カイトは気がついた。
「ニーサを探しなさい」
「手がかりがないんです。今度ばかりは」
「ニーサを探しなさい」
「存在を。もっと存在をください」
「ニーサを探しなさい」
「そうでないと――」
「ニーサを探しなさい」
「おねがいです」
「ニーサを探しなさい」
「くるいそうだ」
「ニーサを探しなさい」
カイトは退社した。
家にもどって、「AKUBI」を起動する。
なつかしい吐き気がおそってきた。
リョウはメシを食う。ジョオも食う。
ゴキブリがくる。箸でつまんでほうりだす。テレビがいう、
――太陽系合同説明会の、悲劇を糧に、われわれは……。
リョウは皿を洗う。ジョオはちゃぶだいを拭く。
電話が鳴る。
電話が鳴る。
電話が鳴る。
電話が鳴る。
電話が鳴る。
――あ、もしもし? わたしレイカ。花鏡院レイカ。
ひさしぶりね、おぼえてるでしょ?
じつはねえ、むっかつくやつがいるの。
むかつくっていうか、ひととしてどうなの? っていう、鬼畜。外道なの。
でもそいつ外づらだけはいいからさあ、仕事もうまくやってるし、家族とも仲よくやってるし――ああもうむしゃくしゃする!
けっこうな有名人。
名前きいたら、あんたらもびっくりするとおもう。
カネなら払う。
いくらでも払うわ。
そいつの人生、めちゃくちゃにしてやって!
二度とおもてに出てこられないように。
いまから行く。待ってなさい。
そんじゃ。
以上
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