第34四半期「重税」
「イシュテアよ。あんたは使命に生き、理想に殉ずる覚悟をもって、ヒョウガを率いてきたわけだな」
「……お前に、なにがわかる」
「ああ。わからないね。わかれたらどんなにいいだろう……。逆にきいてみたい。あんたは使命なしの、理想ぬきの人生というものを考えられるのか? すべての悲壮なものとはいっさい無縁な人生を、想像できるかい?」
「こたえる価値もない」
「なるほど……。それがなによりの返答というわけだ」
「理想がうまれるのは、――使命が要請されるのは、お前らZAKURO社があやまった方向へと宇宙を牽引してきたからだ」
ダイクはかるく笑った。
「宇宙には西も東もないがね。おなじことをあんたの部下どもがきかれたら、なんとこたえたろう?」
イシュテアの目つきがいっそうするどくなる。
「こわい顔をするなよ。おれが直接手をくだしたわけじゃない。それに、あんたらも覚悟していたはずだよ。弊社を志望した時点でね」
「部下たちはみな気だかく、崇高なこころざしをもった――」
「つまらないことをいうなよ。気だかく? 崇高な? おれにはそうはおもえないね。弊社としてはひたすらに迷惑なだけだった。他者を巻きこんだ自己への復讐。ここでかれらがやり遂げたのは、けっきょくその程度のことだったんじゃないのか?」
「死者を、愚弄するのか!」
「おれならばそんなふうに、死者をとくべつあつかいしたりしないね。死者はつまらんよ。つまらん腹話術師がしゃべらせるわけだからね。いまのあんたみたいに」
「お前は、命を賭したことがないのだろう」
「ふん……。なるほどね。痛いところを突いたつもりかい? あんた、やっぱり逸材だな」
イシュテアは、にらむ。
ダイクはいった。
これからあんたをまるごと承認する。
あんたがこれまで成してきたことの多さもうしなったものの重さも関係ない。
たとえ死んだ仲間たちのことを腹の底では軽蔑し、嘲笑し、生きのびられたよろこびに打ちふるえ、理想をうたがい、使命に唾はいて、邪悪なよそごとにこころとらわれていたとしたって、やはりすこしも関係ない。
それもふくめてあんたはすべてを受け容れられる。つまり「内定」を与えられる。
そうつげられたイシュテアの表情をみて、ダイクはいった。
「動揺しているのか?」
「ばかばかしい。――そんなことできるはずもないだろう」
「できるとしたら、どうなってしまうんだろう」
「信じないね」
イシュテアはいった。
「すべてを受け容れる、などというやつのことは信じない」
ダイクは微笑した。
いま、おれはまるでイデコ様のような微笑みをうかべられていることだろう。
それはよろこばしいことだった。
ニーサはダイクによばれた。
「このひとは、多くの非冥王星人と同様、『存在』というものについて、どうもおもいちがいをしているようなんだ」
ニーサはダイクにしめされて、イシュテアの、おびえたような表情を観察した。
「こういう人間にとって『存在』は重税なのかな。それとも資産なのだろうか。彼女が投資をしたらどうなるのだろう。とても気になるよ。浪費をする彼女がみてみたい。蕩尽する彼女がみてみたい。そしてそれ以上に、純粋に富を享受する彼女がみてみたい……」
イシュテアよ。あんたらがついに成しとげられなかった宇宙変革とやらは、おれが引き継いだ。
いいや、おれがやるなどといってはおこがましい。
イデコ様。このニーサ。ふたりの冥王星人たちの、おれは――そうだ、マネジャーに就任しよう。誠心誠意、マネジメントさせていただく所存だ。
すごい宇宙になるぞ。
だれもが宇宙であれるんだ。
そうだ。きっといつかはおれ自身もだ。
「――さあニーサ」
ニーサは背中をおされた。格子に一歩ちかづく。
「免じてあげなさい。このひとの重税を」




