第27四半期「旅路」
ジョオは乗る。冥王星行きの船に乗る。じぶんの意志で乗る。ジェイドの命令で乗る。
イシュテアは総員に告ぐ。
――冥王星への到達。これは、なにを意味するのか?
これは、われわれが人類初の偉業を成しとげることを意味するのである。
これにより諸君らの履歴書は彩られ、これにより、「AKUBI」の規格化で宇宙の管理をもくろみたZAKURO社一強の時代は終焉をむかえる。われわれヒョウガによる、新秩序創成の大業務がローンチされようとしているのである。
行け! 地球へ! 向かえ! 冥王星へ! ヒョウガ、万歳!
リョウはドーハ星で降り、地球行きの船に乗った。
アルから三回、電話があった。ドーハ星行きの船のデッキで、リョウはそれにおうじた。
――リョウさん。ハムスターの比喩をおぼえていますか。わたしはいま、すこし、わかってきたかもしれません。
いま、わたしは安息をかんじています。厄介ものだった内なるハムスターの世話を、リョウさん、あなたにすっかりゆだねてしまったことの安らぎです。
また、期待をかんじています。わたしのハムスターが、リョウさんの調教によって、なにかとんでもなくすばらしい進化をとげて帰ってくるのではないかという期待です。うずうずとしています。
そして、わたしは、これがもっともおそろしいことなのですが――いま空っぽになってしまったわたしのケージに、あたらしい、まぼろしのハムスターをつくりだそうとしているようなのです。空っぽであること。それはなによりおそろしい。
リョウさん。また報告します。いまのところこれ以上の変化はありません。だいじょうぶです。わたしは正気です。プリニーは、友人の医者に鎮静剤を打ってもらっています。ご心配なさらないでください。それじゃ。
――リョウさん。ニーサさんのことについて、いろいろな文献でしらべてみました。
もしかしたら冥王星のことが関係あるかもしれません。
ZAKURO社は、ひそかに冥王星にまで到達していたということでしょうか?
伝説によると、かの星に搾取者はなく、簒奪者はなく、征服者はなく、支配者はなく、だれもがひとしくある富をのびのびと享受しているそうです。その富がほかでもない、「存在」なのだとか。
それが具体的にどういうことかはわかりません。その富は、減りもしなければ殖えもしない、それでいて、減ることは殖えることであり、殖えることは減ることであり、減ることで殖えたとおもうのも、殖えることで減ったとおもうのもそれぞれなりに傲慢だというのですから、まったく理解をこえています。
わたしもいちおう知識人のはしくれなんですがね。
そうですよ。リョウさん。わたしは大学教授なんです。えらいんですよ。この地位に就くためにはまずチェダー大学の博士課程にまで行かなければならないんです。
入学だけでもたいへんなのに、修士、博士とすすんでそこで論文を書き、きびしい基準をクリアしなければ博士号は授与されないんです。
わたしはそこを、ストレートにパスした秀才、いや、天才ですからね。
そう考えるといけないのはこの書物のほうなんだ。
おもわせぶりな、人を食ったような修辞の力でなんでもないことを深遠な教えのように見せかけているだけなんだ。まったくくだらない。
リョウさん。ごめんなさいね。ついつい愚痴っぽくなってしまいました。それじゃ。
――リョウさん。同僚にGという哲学者がいましてね。こいつはとんでもないばかなんです。ある種のばかであればそれはもう哲学に必須の才能といえましょうが、こいつの場合はそうじゃないばか、ただのあほ、すけべじじいなんです。学生に手をだしたんです。妻子がいるのに。わたしはそれをXwitterで暴露してやりました――あ、Xwitterってご存知ですか?
SNSです。おもしろいですよ。一日つぶせます。いやあ、このあいだある地球の歌をきいていたらこんな歌詞があったんです。「ドブネズミみたいにうつくしくなりたい」。いやいやおかしいだろう。ドブネズミはきたないですよ。病原菌もたくさんもってます。それを「うつくしい」とはいかがなものか。問題提起をしてみると、ばかアンチどもが、大学教授さまにむかって、クソリプを連投してくるんです。即、ブロックですよ。
リョウさんも、アカウントつくったら教えてくださいね。それじゃ。
……これまでに挨拶をしたひとみんながこのようになってしまったのだとしたら、それはたいへんなことだ。ドーハ星から地球への飛行では、リョウはまたアルから電話がくるのがこわくて、ドップリできないのは承知だが、「AKUBI」を使うことにした。
というか、使わなければこの区間ではしょっぴかれることになるので、使うほかないのだが。
――「AKUBI」、起動。




