第21四半期「カイトとダイク」
AIたちはカイトを心配することが増えた。なんだかこのごろぼんやりしがちだ。
あきらかに作業効率がおちている。
あれ以来、あの賭博場には二度と行っていないのだが、仕事中、あの日のことを何度も思いだしてしまう。
――ぼくは、宇宙に行けない気質なんだ。「AKUBI」に耐えられない体質なんだ……。
うわうっ、とうめきたくなる。じっさい何度かうめいた。どうしてあのことを打ちあけてしまったのだろう?
それに、休憩中、こんなことばかりうかんでくる――お笑い芸人、Kの発言が物議を醸している。あるバラエティ番組のなかで、非芸能人のことを「しろうと」と表現し、えらそうにこき下ろしたため何様だと非難されているのだ。
――しろうと、ってなんだよ! じぶんだってたいした芸もないくせに!
これはあくまで一例だが、この種の憤りにカイトはとらわれがちになった。
あの日を境にだ。
芸能人の名前にやたらくわしくなった。ネットスラングにやけになじんできた。これはどうしたことだろう? カイトはじぶんが不気味だった。
ZAKURO社の会見がおこなわれた。
黒いスーツでダイクは十秒九十度のお辞儀をし、犠牲者を悼んだのち事故について説明がなされた。
模擬太陽の制御システムにかかわる社員たちが、いっせいに即時退職したことが原因だ――退職の理由については、個々の事情にかかわることなので回答は差しひかえる。
再発をふせぐため、弊社では……。
即時退職って、つまりバックレだ。
ここを突いていけば、ZAKURO社の評判は確実に落ちていく。「ZAKURO社の労働環境がやばすぎる!?」そんな記事を量産し、ネガティブキャンペーンを展開するのだ。
もちろんZAKURO社は、無限会社であり株主の意向などぜんぜん関係ない。
しかしもし、デモや不買運動などの抗議活動が徹底して、ほんとうに徹底しておこなわれるのなら――。
――どうでもいいわ。
そんなことよりずっとたいせつなことがある。それは賭博場通いだ。
ギャンブルもいろいろで、運だけでなく知略・判断力がものをいうタイプの遊戯もある。レイカにとって、存在賭博はまさにそれだった。
どう考えてもじぶんは天才としかおもわれない。ここに通いだしてから、レイカはじぶんがじぶん自身の空っぽさにずっとおびえながら生きてきたことに気がついた。
なにをしていてもなんだかさみしい、むなしい。
そのさみしさむなしさが、ここでは硬貨の産出能力と化す。
レイカにはいくらでも涙をながせる話題がある。それはもしかして、無尽蔵の存在資産を保有しているということではないだろうか?
レイカは無敵だ。この遊戯との出会いはレイカにとって運命だったのだ。
酒も、踊りも、退屈になった。男どもからの連絡も、既読スルーもどうでもいい。
カイトからの電話にもでない。
カイトにはレイカがあの場所に入りびたっているであろうことはかんたんに察しがついていた。
嫉妬!
その想像はまずカイトに嫉妬をもたらした。カイトにはあそこまでの量のコインに変えられるようななにかがない。
――ぼくは、宇宙に行けない気質なんだ。「AKUBI」に耐えられない体質なんだ……。
これだけでもうじぶんの鉱床は採掘されつくしてしまったような気がしている。
ダイクに時間ができ、食事に行くことになった。
そこは土星料理屋で、フルコースで、フォークやナイフやスプーンが輪っか状に配置され、時計まわりにつかって食べていく。
ダイクはカイトのコンプレックスを知っている。知っているのだが腫れものあつかいせず、いろいろな星での見分談を、遠慮なく披露してくれる。
「土星のちかくに、エントツ星という星がある。その星は、地殻の内側に海がある。ただの海じゃない。それは、いわば存在のスープともいうべきもので――」
存在。そのことばにカイトは肝をひやした!
「エントツ星人は、死ぬとエネルギー体になるんだね。このエネルギーは、われわれが核融合発電によって得るそれのじつに五万倍にあたるんだ。だからある意味、死体がいちばんの働きものだということになる。
……いっぽうで、かれらはひじょうに敬虔で、信心ぶかいところもあるひとびとでね。死者をこき使うなんてありえない。だから死体は、かれらの作法にのっとって、『エントツ』とよばれる――これがこの星の名前の由来なんだが――星じゅうのあちこちに生えたでかい蟻塚のような、土の塔へと葬られる。
その塔のてっぺんにあいた大穴は、惑星深部へとつながっている。そこで死体はくさり、長い時間をかけてまざりあい、そして存在のスープ、エネルギーの海の一部になっていく。エントツ星人たちは、煙状になって各所の『エントツ』から立ちのぼってくるそのエネルギーを利用して、つつましい暮らしを営んでいるのさ」
「そのエネルギーは、煙状になると、やはりもともとの死体がはなっていたものよりは――」
「むろん、とぼしくなる。何億分の一にもなってしまうと、たしかいっていたっけな。それはそうとエントツ料理はうまかったよ。とにかくなんでも燻るのさ。肉でも魚でも、果物ですらも……」
その話を聴きながら、カイトはこうおもった。このひとが――じっさいに見たもの、聴いたこと、味わったもの、などなどに裏打ちされた、これだけゆたかな話題をもつこのひとがあの存在賭博をやったとしたら、おそらく無敗だろう。
だからこそ――。
――だからこそ、元締めをやっているのかもしれない。
デザートがきて、コーヒーもきて、そろそろ席を立つことになった。
カイトは今日、例の件についてすくなくとも探りくらいはいれてみるつもりだった。
あの「TairaQ」とかいういかがわしい店と、ダイクとの関係。そしてドリアーノのような木星マフィア、職業安定所を装った、存在賭博場……。
イメージしていた切りだしかた、イメージしていた話のもっていきかたがあった。
しかし不本意にも――。
帰りのエレベーターで、ダイクがいった。
「カイト。ちょっと気になったことがあったんだが、いいかな」
はい、とカイト。
だめです、とはいえない。
「お前今日、テレビドラマがどうとか……。芸能人がどうとか……。話題の商品がどうとか……。そんなことばかりいってたね」
ぎくりとするカイトに、ドアの開く瞬間、ダイクはこういった。
「お前、『存在賭博』をやっているだろう」




