第18四半期「木星マフィア、ドリアーノ」
ズンズン低音が鳴っている。ストロボライト。ゆれながら狂声をあげるひとたち。
カイトはウーロン茶をたのんだ。
VIPルームにはいるなり、どさっとヨギボーにしずみこんだ。
「災難だったわね」
モスコミュールをのみながらレイカがいう。
ドリンクの順番待ちをしている最中、むこうからぶつかってきた就職浪人生のひとりに、因縁をつけられたのだ。
就活バトルをしよう。そう提案された。ラップバトル。ダンスバトル。なんでもバトルになるものである。一部界隈ではこうして就活もバトルになっている。
カイトは私服できている。だから、チョロいカモだと見なされた。
ルールは簡単――ターン制で、自己PRや志望動機などを叫びあう。
お辞儀やノックなどの所作を披露してもいい。
ただ、悪たれどもはお辞儀を装い頭突きしたり、ノックのふりして腹パンしたりすることもある。絡んできたのは、そういうやからのひとりだった。
「本気でやれば、負けはしなかったんですが」
うらめしそうに、レイカをみる。レイカは首をふり、
「それはそうだろうけど、そんなことしたらギャラリーできちゃうわ。あんた、できるだけ目立ちたくないっていってたでしょ?」
まあ……とカイト。
万一ダイクさんがいたら——もちろん鉢合わせたくなんてない。でも、出くわしたい気持ちもある。奇妙だ。
「でもそう考えると、ほんっとここも客の質落ちたわねえ。あんたらのバトル見にきたやつなんて、あの就浪生の一党以外だれもいなかったもんね。それくらい日常茶飯事ってわけだから、治安やばいわ」
「前はちがったんですか?」
「そりゃあ、だって、会員制だもの」
「あ、そっか」
「お墨つきのひとたちだけがたのしめる空間だったわけ。それが――」
カイトはウーロン茶を置いた。
「――それが、ここ数か月くらいかしら? 一気にああいう連中がはいってくるようになって。わたしもほかの店探そうかなって考えてたの」
「あのひとたちも、会員……なんですよね」
「そうなんでしょ、たぶん。知らないけど。仲間同士紹介しあってるんだろうけど……。最初のひとりはだれがつれてきたのかって話よね」
「最初のひとり……」
「今日はまだみてないけど、ドリアーノっていう木星人で、ドンとかチーフとかよばれてるわ」
それから急にレイカはするどい目つきになって、
「ZAKURO社って、警察業務もやってるわよね」
二十年ほど前、地球警視庁を買収したのだ。
「公安部、という部署があります」
「わたし……。めんどうごとにはかかわりたくないからね」
「大丈夫ですよ」
レイカの意図を察したつもりで、カイトはいった。
「ぼくは、公安部とはかかわりがありません。万一あったとして、今日はプライベートで来ているわけですから」
「プライベートねえ」
とレイカ。
「そんじゃ、踊りにいく?」
ふたりはホールにでた。カイトはぎちぎちだ。
レイカは大爆笑。カイトは見とれた、レイカの狂態に。
何人も、男がよってきた。レイカはロングヘアをいじりながら目もあわせず、テキトーにあしらったり、いったいどんな呪文のわざなのか、ひとことでドリンクを奢らせたりもした。
どうやら彼氏と見なされているらしいカイトは、「すっこんでろ」と威嚇されることもあった。
――吐きそうだ。
ものすごい光。そして音。そしてひとびとの気配。全身で、なにかを叫びたてているような。
ふらついたカイトを介抱する、と見せかけて、耳もとで鼓膜やぶりの自己PRを絶叫してきた不良就活生がいた。
カイトの頭から「目立つまい」のこころがけがふっ飛んだ。
ZAKURO社員の本気のガクチカ。
スピーカーは壊れ、照明は落下し、悲鳴が起こってひとびとは出口へと殺到した。
ばか、とレイカが寄ってくる。
もうひとり、木星を代表する有名ブランドの、なんとかオーニのスーツを着こなした細身の、長髪の男が手をたたきながら悠然とこちらへ向かってくる。
「いやあ、いいもんきかせてもらった」
男はドリアーノと名乗り、カイトに名刺を差しだした。
というより突きつけた。
それは片側が毒刃になっていて、しかるべきうけとりかたをしなければ死ぬしろものにちがいなかった。
カイトは難なくそれをうけ、ドリアーノはニヤリとした。
「あんた、ただものじゃないね。ダサい格好してるけど」
カイトはわざと珍妙な敬語で応じた。ドリアーノは噴きだして、
「ユーモアもばっちりだ。気にいった……。その名刺に、オフィスの住所が書いてある。いつでもアポなしで来な。おもしろいもんを見せてやるぜ……」
そういってドリアーノは、帽子をかぶった。




