第17四半期「レイカとカイト」
レイカはソファにかけ、トロピカルアイスティーを所望した。
これが三秒でくるのがZAKURO社のにくたらしいところだ。なんという粗茶提供能力。
持続不可能性が前面に押しだされた、稀少鉱物製のストローもついている。
カイトはふつうにアイスコーヒー。
ふたりは対座した。
本日はご足労くださいまして、うんぬん――カイトがのべ終わらないうちに、レイカはもとめられたブツを差しだした。ただ黒い、かわいさのかけらもない、革のファイル。
「これがうちの去年・今年の就活資料。志望者の履歴書と、面接の記録」
「ありがとうございます」
「もちろん本人の同意はとってある。けど、プライバシー的にまずそうなところはいちおう黒塗りにしてあるわ。まあ、あんたのところは諜報部も隠密部もあるわけだから、関係ないだろうけど」
カイトは無言でコーヒーをのんだ。
その顔をみてレイカは「おや……」とおもった。そしてなにやら思案した。
こういってみることにした。
「――それで、わたし、もう帰っていいわけ?」
カイトは一瞬おどろいた顔をして、ブロンズのAIのほうをみた。AIは、
「このままだと、御社になんのメリットもないことになりますが」
それはもちろんそうだ。
一方的に就活資料をよこせといってきて、出向いてくるかとおもったら忙しいから持参しろという。
見返りにこれこれで便宜をはかりますとか、もっとはっきりと、いくら振りこみますとかそういうハナシもついていない。
まったくひとをナメた話だが、けれどもレイカとしては、じつはメリットはあるにはある。
「ここ、人事部よね?」
探りをいれてみる。
「人事部……といえば、人事部ですね」
カイトがいう。
「もっとも、他の会社の人事部とはちょっとちがっていて――ZAKURO社には人事部といっても『人事部』と、『人事部』のふたつがあるんです」
レイカの眉根が寄る。
「ふうん……。そう。太陽系合同説明会の件は、大変だったわね」
「ああ――弊社といたしましても、多大なご迷惑をおかけいたしました」
その反応と、部屋の様子からして、レイカはここは説明会担当の部署ではないのだと判断した。
まあ、それはそうだろう。いまごろその部署はもろもろの対応に大わらわで、レイカをもてなすひまなんてないのだろうから。
しかし、「人事部」と「人事部」のちがいはまったくピンとこないながらも、どちらも人事部であり、ZAKURO社であることには変わりないだろう。
ここで恩を売っておくのが得策――いいや、売っておかなければレイカの身があやうい。
あのばかないたずら屋どものとんでもない暴挙、あれはもとをたどればレイカの依頼によるものなのだ。それが明るみにでたのなら――。
ZAKURO社とは、取引の余地をもうけておく必要がある。「就活記録をやったんだから、あいつらふたりに罪をかぶせて手打ちとしよう」ということだ。
レイカはいった。
「先に条件の提示をしなかったのは、『後出しでどんな無理難題だされてもぜんぜんのめますよ』っていう自信のあらわれでしょ?」
「いや、もちろん何でもというわけには――」
「わかってるって。弊社、あんたのとこよりはずっと常識的な企業だから。まあ、今後ともよいお付き合いをしていきましょう」
「ええ。それは――」
カイトは席を立ちかけた。レイカはそれをとめ、
「ところで、ちょっと人間同士で話したいことがあるんだけど、そっちのかたがたにご退出ねがえないかしら」
カイトはAIたちをみて、うなずいた。みんなガシャガシャ、ウインウイン、部屋をでていく。
しばらくしてから、レイカは切りだした。
「『TairaQ』ってお店、知ってるわよね」
「え!?」
カイトは、おもわず、立った。
レイカは爆笑。
「どうして、それを……」
「クラブ、興味あんの?」
「いや」
腰をおろし、身を乗りだして、
「ぼくは――」
「べっつに、取りみださなくてもいいとおもうけど。カネ持ってんだし、あたりまえじゃない? ああいう刺激が欲しくなるのも」
「いや――」
ちがいます、と明確に否定したいのだが、しかしなにがちがうのかと問われれば、ダイクのことを説明しないといけなくなる。
するとレイカはこんなことをいいだした。
「今夜、つれてってあげよっか?」
え? とカイト。
「わたし、あそこの会員。ってか常連。わたし専用のVIPルームもある。あんた、会員証ないんでしょ? あんなふうに外からじろじろ、覗きこもうとしちゃってさあ」
「……見られていたんですね」
「そのスーツのままあんなとこに立ってたら、そりゃ、目立つわよ。……どう? 行く? あ、かんちがいしないでね。これ、就活記録の見返りってわけじゃないから」
「それは、――わかっていますよ」
「おもしろ半分でいってるだけ」
というわけでもないのだが――のちのちのことを考えるとZAKURO社とはいろんなパイプをもっておいたほうがよいわけだから。
「じゃ、行こっか。今夜二十時。あの店の前でね」




