第12四半期「キャシィ」
目をさますとジョオはベッドにいた。
若草色のカーテンのすきまから、つよい日差しがさしこんでいる。おもわず目をつむると、女のひとの声がした。気がついたのね。
いかにも金星人的な碧い目と金髪、名前はキャシィというらしい。ここは彼女の牧場で、ジョオは砂漠で倒れていたのだという。
「お礼なら叔父さんにいってちょうだい」
もう歩けるというジョオを一階へつれていきながら、キャシィはいった。
「もうすこしでハゲワシに食べられるところだったらしいわ。あなた、地球人?」
「え? まあ……」
「牧場、みる?」
みない、とこたえる理由もなく、そのままジョオは厩舎へつれていかれた。そして牛舎。そして羊小屋。
「仲間」たちを紹介するキャシィの目はきらきらしていた。
電気馬のジョーイは七万馬力。時速五百キロメートルで走るという。ジョオを運んできたのものこの馬だ。
三つ子の電気牛、ディム、ドム、ダムはミルクやチーズ、ヨーグルト、ステーキ肉の製造機能を搭載している。ミルクはホットにもなる。
電気羊のメリル。刈っても刈っても化繊が生えてくる……。
「へえー」とか「ほおー」とかいいながら、ひととおりめぐりおえたジョオに電気犬のマッシュが、紹介されるまでもなく飛びついてきた。
キャシィは大笑い。ジョオも草のうえでころげまわる。
夜、母親のモリーが金星料理をふるまってくれた。ミートパイだの、サーロインステーキだの――。
「地球人の口にあうかしら。どう?」
モリーはキャシィとあんまり似てなくて、こういうメシが毎晩つづけばそりゃあこうなるわとジョオをして思わしめるような風格があった。
ジョオは肉を噛みきろうとしている最中だったので、うまいといえずに親指をたてた。
「そういうときはこういうのさ」
叔父のボブが、毛むくじゃらの両腕を振りあげてこういった。
「ワーオ、デリシャス、ベリーマッチ」
ジョオはコーラで肉をながしこみ、やってみた。みんな大笑い。
ジョオも大笑い。
デザートの、ブルーバニラアイスクリームを小匙ですくいながら、キャシィがこういった。
「叔父さんはね、旅人なのよ」
ジョオはボブをみた。ひげにアイスがついている。ボブはそれをぶっといひとさし指でぬぐい、
「おい、キャシィ。――そんないいかたしたら、まるでぼくがニートかなにかみたいじゃないか」
もちろんニートではなく、一年のうち半分はだれよりもはたらいてもう半分で宇宙を放浪するのだという。
ジョオは金星ジョークのつもりでこういった。
「じゃあ、そのうち冥王星にも行っちゃうかもしれませんね!」
すると微妙に気まずい空気になり、あわてたようにモリーがこういった。
「ねえ、ボブ。なんかみやげ話をしとくれよ。あたしたちもまだ、きかせてもらったことのないような星の話をさ」
ああ、といってボブは語りはじめた。
そうだな――どの星の話がいいかな。
ゲキジョー星の話をしてみようか。それは天王星のちかくにある、いっぷう変わった星なんだ。
なにが変わっているかというと、自転も公転もしないのさ。
半球はずーっと暗いまま。そして寒いまま。
もう半球はずっとあかるく、暖かいままなんだ。
暗いほうは「楽屋半球」、あかるいほうは「舞台半球」とよばれている。
「へーえ」
キャシィがいった。
「それじゃ、住んでるひとたちはたいへんね」
まさにそこなんだ、とボブ。
だからこの星のひとたちは、ある取りきめにしたがって暮らしている。
それは、こういう取りきめなのさ。
一年のうち半年は、舞台半球で、思いっきり好きなことをやる。大統領にでも、プロ野球選手にでも、なりたいものにはなんでもなれる。やりたいことは、なんでもやれる。
そのかわり、つぎの半年は楽屋半球に移動して、こんどはじぶんらが舞台半球の住人のわがままを、きいてやる側にならなきゃならない。
半年ごとに、大移動をくりかえすのさ。ぽかぽかたのしいわがまま放題の暮らしと、暗くて寒い働きずくめの暮らしを、ひたすらに反復しつづける……。
「そんなの、あたしだったら耐えられないねえ」
モリーがいった。
「だって、その舞台半球ってのにいるあいだにも、楽屋半球のひとたちの苦労をおもえばさ、すなおによろこべやしないだろうよ」
「でも、半年後にはじぶんたちだって楽屋半球へ行くのよ」
キャシィがいう。
「平等だわ。楽しめるうちに楽しんどかないと、損じゃない」
「でもけっきょく」
ジョオが口をひらく。
みんなこっちをみる。
「半年後につらい労働をさせられるってことになると……。どうだろう。そう楽しんでもいられるのかなあ」
「逆に考えれば」
キャシィがいう。
「楽屋半球にいるときは、半年後の未来がこころの支えになるかもしれないわね」
「でも一年後のことをおもうと……」
と、ジョオ。
「まーた、楽屋半球に逆もどりだもんなあ」
はっはっはっ、とボブがいった。
そのままジョオは、泊めてもらうことになった。一泊だけでなく、二泊、三泊、四泊と。
キャシィたちはあたりまえのようにジョオにここでの仕事を教えこんできた。
ジョオは毎日オイルを運んだり、家畜のボディをみがいたり、草刈りをしたり、街へ買いものにでたり、料理をしたり、マッシュを散歩につれだしたり、キャシィと出かけたり――しているうちに、気づけばひと月も経っており、ディム・ドム・ダムの見わけなどもあたりまえにつくようになってきた。




