12-4:決戦
「危ない、避けろ!」
クロトールは声を張り上げ、仲間に回避を指示した。ほとんどの仲間がドラゴンの突進を避けるべく走り出したが、狩人のフェリックスは直前まで動かなかった。彼はそれまでつがえていた矢を放ち、敵を射落とそうとしたのだ。
彼が放った矢はまっすぐ飛んでいき、ドラゴンの胸部に当たった。だが、硬い鱗がそれを無情にはじいたため、かすり傷さえ与えられなかった。
ドラゴンの屈強さを目にしたクロトールは、本能的な焦りを感じた。弓矢さえ効かないというなら、空を飛ぶ怪物をどうやって倒せというのか。
華麗な前転で攻撃をかわしたエイレナも、魔法を使って参戦した。彼女が地面に散らばる骨を集めて発射すると、それは巨大なムクドリの群れのようにドラゴンへ向かっていった。
ドラゴンは体を傾けて攻撃を避けたが、背中に乗っていたノガタスは反応が遅れた。クロトールは、ノガタスが一瞬よろめき、顔を歪めた瞬間を見逃さなかった。きっと骨片の一部が、体のどこかに食い込んだのだろう。
それでも戦いは終わらなかった。ドラゴンはまた旋回すると、今度は高所から、マグマのような火を吹いたのだ。五人はその場を素早く離れて難を逃れた。周囲に満ちた炎の熱が、火傷に似た痛みを皮膚に生じさせる。焼き払われた地面の上では、残り火がいつまでも燃え盛って、なかなか消えない。
「どうにかして地上に降ろさなくては」
このままではらちが明かない。そう思ったクロトールは、ここで秘密兵器を手に取った。背中に背負っていた軍用クロスボウ——それは「今後、役立つことがあるかもしれない」と、ガロン隊長から事前に預かっていた品だった。
どこに撃てばいいか見定めた後、頬のあたりで構えて撃った。すると、矢は派手な音を立ててクロスボウから離れ、ツバメのような速さで向かっていった。そして——
その直後、ドラゴンは醜い声を上げてよろめき、糸が切れた蜘蛛のように地面に落下した。凄まじい衝撃が大地を揺らし、同時に土埃が周囲に舞い始める。いったい何が起きたのか——事の詳細が明らかになったのは、視界を遮る塵がある程度落ち着いてからだった。
クロトールが放った矢は、幸運にも敵の弱点を射抜いていた。目だ。ドラゴンの左目には見覚えのある矢が突き刺さり、見る能力が失われていた。生まれて初めて感じる痛みなのだろう。ノガタスが愛してやまないその生物は喚き、手足をばたつかせ、尻尾をしきりに叩きつけている。
「まさか、本当に当たるとはな」
クロトールは感嘆の声でつぶやくと、重いクロスボウをその場に捨てた。苦し紛れに放った矢が、敵の急所に命中するとは夢にも思わなかった。
その後、五人は怪物の墜落地点へゆっくりと近づいた。ドラゴンは地面に横たわって騒いでいるが、肝心のノガタスが見当たらない。どこかへ投げ出されたか、運悪く巨体の下敷きになったのだろうか。しかし、あのノガタスだ。そう簡単に死ぬわけがない。
クロトールがそんな風に思っていると、ドラゴンの背後から突然、人間の手が伸びた。ノガタスだ。奴は怪我をしているにもかかわらず、ドラゴンの体に素早くよじ登り、そのまま顔面まで上っていった。それから奴は、左目に刺さった矢に手をかけると、力任せに一気に引き抜いた。
矢を抜いたことで痛みが増したのか、ドラゴンは四肢をいっそうばたつかせ、甲高い悲鳴を上げた。必死になだめようとするノガタスとは裏腹に、奴の愛するペットは人間を恐れ、離れようとしていた。
ドラゴンは巨大な手足を再び大地につけると、黄金の翼を羽ばたせ、辺り一帯に風を巻き起こした。クロトールは、それが何を意味するのかを瞬時に理解した。空を飛んで逃げる気だ。
「ドラゴンを止めろ! 奴を飛ばせるな!」
とどめを刺すべく走り出そうとするも、翼の生み出す風圧が行く手を阻んだ。恐ろしげな音を立て、容赦なく吹きつけるそれは、さながら冬の嵐のようだ。吹き飛ばされないよう踏ん張るのが精一杯で、近づくことさえままならない。
エイレナの低く落ち着いた声が聞こえてきたのは、その時だった。
「わたしがやってみよう」
彼女は魔術の力によって、囚人たちの骨を一箇所に集め出した。どうやら<永遠の夜明け>の魔術師は、魔法によってドラゴンにとどめを刺すつもりらしい。クロトールは、エイレナの黒魔術が最後の切り札になることを期待した。この風圧では誰も近づけない。彼女の魔法だけが頼りだ。
だがその最中、ノガタスがエイレナの行動に気づいた。奴は地上に降り立つと、懐からナイフを取り出し、エイレナに向かって瞬時に投げつけた。
クロトールはとっさに剣で弾こうとしたが——間に合わなかった。ナイフの先端が左脇腹に刺さると、エイレナはうめきを上げてその場にうずくまった。その際、魔法は中断され、それまで集まっていた骨は、バラバラと音を立てて地面に落ちた。
「さっきのお返しだ、くそ女め」
ノガタスが負傷した胸部に手を当てながら、吐き捨てるように言ったのが聞こえた。どうやら、先ほど受けた傷の仕返しをしたつもりらしい。
結果、奴は見事に復讐を果たしたが、その代償として、愛するペットと逃げ去る機会を逃した。ドラゴンはノガタスの背後から勢いよく飛び立つと、羽ばたく音と風だけを残して森を離れた。
「くそっ、私のドラゴン——」
ドラゴンの姿が遠くへ消え去ると、辺りはようやく静かになった。こうしてノガタスは一人取り残されることになったが、奴の頭には当然、”投降”という選択肢はなかった。
代わりに選んだのはいつもの手段——すなわち草むらに飛び込み、全力で”逃走”をはかることだった。その動きは、負傷中の男とは思えないほど俊敏で、早く追わなければ見失ってしまいそうだ。
それでも、クロトールは動かなかった。というより動けなかった。負傷したエイレナが気がかりで、置いていくのがためらわれたからだ。傷口を抑える彼女の指先からは、幾筋もの血が滴り、衣服を汚している。
「わたしのことはいい。早くノガタスを追え!」
エイレナが歯を食いしばって怒鳴り、一行に行動を促した。だが、それでもクロトールは彼女が心配だった。だからノガタスを追う直前、顔を真っ青にして立ち尽くすフェリックスとミアに対して、次のように命じた。
「ミアとフェリックスは、ここで彼女の手当てをしてくれ。ノガタスは私とイヴォが追う」
<永遠の夜明け>の二人は、クロトールの指示に素直に従った。クロトールは彼らに背を向けると、イヴォを伴ってノガタスの追跡を開始した。
***




